「利他」の生物学-適者生存を超える進化のドラマ (中公新書 2763)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121027634

作品紹介・あらすじ

生物の進化のメカニズムは、自然淘汰のなかで自らが生き残り、子孫を残して遺伝子をつなぐという「利己的」な動機に基づいて説明されることが多い。だとすれば、多くの種で観察される「利他的」な行動は、どのように説明すればよいのだろうか? 本書は、植物学者と動物学者がタッグを組み、その謎の答えに迫る。カギとなるのは「共生」という戦略である。互いの強みを融合し、欠点を補い合いながら自然淘汰に打ち克った生物たちのドラマをお届けする。

感想・レビュー・書評

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  • そっか、「利他」を人間特有でなく、また「共生」と考えれば、自然界には「利他」があふれていると気づく。結果的に「利他」となる「共生」を考えるために読みたい

    #「利他」の生物学
    #鈴木正彦
    #末光隆志
    23/7/20出版

    #読書好きな人と繋がりたい
    #読書
    #本好き
    #読みたい本

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  • 様々な生物は利他的な戦略をとることによって進化し遺伝子を残してきた。人間もまた腸内細菌とWinWinの関係性を築き上げることで進化してきた。相手を思いやることも結果的に自分が生命を産み出し遺伝子を繋ぐことに優位に働いたからこそ、共感能力が発達した。逆にそうでない利己的な人はどんどん衰退していく。それが悪いとか良いとかは人からみた利益に左右される結果であって進化の歴史は、ただ「そういう風になっている」。
    幸せを感じたければビフィズス菌がセロトニン生成に関わっているとのことで、早速ヨーグルトを買ってきた。せっかく生まれてきたのだから腸内細菌と良好な関係を築いて毎日を楽しく生き、周囲の人たちを思いやる余裕を持とう。

  •  生物学において純粋な「利他」は存在するのか、という問題意識を持って、門外漢ながら本書を読みました。「善行は人に知られてはならない」という格言から「後で自分に返ってくるからという利己的目的から他人に利する行為を「利他」と呼べるのか」と考えていました。

     「自らの種が生き延びるため」の他の種に利する行動を「利己」と定義するのであれば、その反対の意味での利他的な生物は本書には挙げられていませんでした。

     しかし、上の問題意識とは離れますが、「盗毒」という現象・考え方は、細胞内共生や昆虫と植物の関係とは性質の異なる「共生」であると感じました。この現象を初めて知ったということもあり、公共財的な現象があるのかと驚きました。

     また、最終章の「人類が利他性という武器を獲得した」というのは大変納得した表現でした。応用生物を履修していなくとも非常にわかりやすい文章でした。

  • 自分を犠牲にして他人のために行動することを「利他的行動」、その逆に自分自身のために行動することを「利己的行動」と言う。周囲の人達を見ていると、自分勝手だとか、われ先にと自分優先な人が多い一方で、他人を喜ばせようと一所懸命になって疲れてしまっている様な人もたまに見かける。人間社会はそうした利他的、利己的な人の割合は概ね7対3の割合がうまく行くそうだ。他人を助けようとする利他的な人ばかりの方が、より助け合って幸せな社会が気づけそうではあるが、利己的な人が3割もいた方が良いとはどういう事だろうか。もし全員が利他的で他人との「競争」よりも「共生」を選択するなら、その社会の発展のスピードはゆっくりになる。一部でも「競争」を勝ち抜こうとする人(人を出し抜く様な人)がいるからこそ、科学技術が進歩し社会全体の進歩が先導されてきたのが現在の社会である。そうした人は多くの富も得ているから、法に基づき多額の税を納め、社会に「強制」的に還元されていくように社会は上手く出来ている。
    本書はミトコンドリアと葉緑体の細胞内(ある意味最小単位の社会)共生に始まり、動物や植物の菌や昆虫との共生や、人と細菌の共生についてわかりやすく解説している。一見すると互いに自己に不足する要素を他者に供給し合う利他的な行動に見えて、実は互いに自己の生存を最優先に考えた利己的な行動の連鎖であるという話は非常にわかりやすい。確かに生物の究極の目的は自己の生存と繁栄であり、種を絶滅させてでも他者を生かすという戦略はあり得ない。一部高度な知能を持つ人間が、例えば太平洋戦争時の特攻隊の様に、国に自分の命を捧げるという考え・境地に至ったとしても、それは愛する祖国に住む同じ日本人を生かす=自身の国の繁栄という地球規模で見た時の利己的な行動とも言えそうだ(決して自分勝手と言っているわけではない)。
    人類にしてみても、そうした利己的な行動の連鎖が利他的な結果を生み出しているケースが多くあり、動植物、菌のレベルまで拡大すればとても一冊の本では描ききれないほどの共生が存在する。本書はそうした中から、細胞レベル、菌、植物、昆虫、動物、そして人と代表的な依存関係・共生を例に挙げ解説してくれる。学生時代は生物に興味が無かった自分でも安心して理解できるレベルの記述であり、よく知られた言葉や生物の名前で纏めらへている分、詰まる事なくスイスイ読める。
    最近、書店では「利他」という言葉のついた書籍を多く見かける。コロナ禍で誰もが家に閉じこもって鬱々と自分と向き合わざるを得なかった時間も徐々に終息に向かい、人々も街に繰り出してきた。人同士の交流も以前の生活みたいに戻ってくるだろう。そうした時に、コロナでやや利己的になった人々が、他人を気遣い、人に優しく、自己犠牲の精神状態で利他的な行動がとれるか。コロナはそうした神が行う実験・課題の一つだと考えれば、本書を読み終わった自分はギクシャクしながらも多少なりとも、今より利他的に生きていきたい気持ちになれる本である。

  • 「利他」の生物学というタイトルですが、
    「共生」の生物学というほうが、しっくりします。
    あとがきにも、筆者の2人は「進化と共生」を主題にしたとあります。
    ミトコンドリアや葉緑体は、元々は別の細菌だったのを共生によって上手くとりこんだということです。
    人間の腸内や皮膚の表面にはたくさんの菌が住み着いていて、人間も菌も上手く暮らしているということです。

  • 共生は利他的なのか。
    たまたま利用できたから、便利に使った、という結局利己的な行動が、共生につながった。

    餌を与えて依存させる。
    だまして使う。

    食う食われる以外にも、
    使う使われる、という関係がある。

  •  いつも利用している図書館の新着本リストで目についた本です。
     進化や生物の不思議については結構関心があるので、気になって手に取ってみました。
     著者の鈴木正彦さんは植物学者、末光隆志さんは動物学者で、お二人の共同作業で動植物の様々な “共生” の姿を紹介してくれます。
    「共生」というコンセプトを取り上げて、この「地球」という “私たちをも包含したひとつの生態系” を維持する重要性を訴えた本書は、地球環境保全が声高に叫ばれている今に相応しい刺激に満ちた良書でした。

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著者プロフィール

鈴木正彦
1948年神奈川県生まれ. 植物学者. 1977年, 東京大学大学院理系研究科植物学専攻博士課程修了. 三菱化成総合研究所・植物工学研究所研究員, 青森県農林水産部理事, 農林総合研究センター・グリーンバイオセンター所長, 北海道大学教授を歴任. 著書『植物の分子育種学』(編著, 講談社, 2011), 『植物はなぜ花を咲かすのか』(農文協, 2004), 『花・ふしぎ発見』(ブルーバックス, 1994), 『植物バイオの魔法』(ブルーバックス, 1990)ほか

「2023年 『「利他」の生物学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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