- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121101396
作品紹介・あらすじ
本やスマホ、土地や家屋、雇用や資産。自分のモノとして持っていることが「所有」であり、衣食住や商品取引、資本主義の原点である。こんにちシェアやサブスクがあるのに、ヒトは所有せずにいられない。他方でヒトの生存を守る所有権が、富の偏在を生む元凶となっている。なぜだろうか? 経済学や社会学、人類学の第一線の研究者6人が、所有(権)の謎をひもとき、人間の本性や社会の成立過程、資本主義の矛盾を根底から捉えなおす。
感想・レビュー・書評
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岸政彦さんのファンなので(文章も好きだし、Twitterのぼやきも好きだし、声も好きだし、顔も大好き)、岸さんが書いたもの、関わった書籍は全部読むと決めている。でもこの本は専門性が高くて、特に岸さん以外の方の論文は、門外漢の私にはどれも難しすぎた。何回か中断と再開を繰り返してなんとか読破したけれど、ここに書けるような感想は得られず、「読み終わった」という事実だけが残った。しょぼん。
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面白かったけどなかなか難しかった。
3〜5章は特に。
5章は、世界システム論から所有を語っているということで大変関心を持って読んだ。
世界システム論と所有の接続ポイント(「外部の内部化」=収奪)まではよく理解できたが、その後、リオリエントのくだり以降は議論を追えなくなってしまった。
1章は、新聞記事を並べるだけじゃなくてもう少し論じてほしかった。
あの新聞記事と所有権の解体には飛躍があるのに、そこを埋める議論が抜けている。
戦後沖縄の空気感はよく伝わった。
圧倒的にわかりやすく面白かったのは2章。
さすが小川さやかさん。
どうしたら私は所有の欲望まみれのこの私から解放されるだろう?という問いのヒントをタンザニア商人から教えてもらうつもりで読み進めた。
まず所有しないことのメリットは、『チョンキンマンションのボスは知っている』で論じられていた通り、リスクヘッジであることはよくわかった。
ひとまず私は銀行口座をもう一つ開設しないとタンザニア人に卒倒されてしまう。
一方でいま我々は、いろんなものを所有することで自分を打ち立てている。
私もそうで、服やアクセサリーが好きだしどういうものを身につけているかで自分を規定している部分は大きい。
でもタンザニアの人は、「手放すことで自己を打ち立てる」のだという。
手放すこと(贈与したり売ったり貸したり)は自己を打ち立てることと反対のように思えるが、手放したものにも自己は宿っていて、手放した先の新たな所有者が自己の存在をそこに感じてくれる。
そうして手放すことでも自己の唯一無二性を他者から承認してもらうことができる=自己を打ち立てることができる。
このような理屈だった。
とても納得できるものだったし、凝り固まった所有欲に支配されている自分に新しい風を吹き込んでくれると思う。
ただ、一つ気になったのが、「上記のような自己の打ち立て方は、人との関わりが煩わしくないだろうか?」ということ。
所有なら、他人が単に外から見るだけである程度自己ブランディングに成功するわけだけれど、手放すことによる自己の打ち立て方は他人との濃密な(?)コミュニケーションなしには成立しない。
それを煩わしいのでは?とか思ってしまう私は、さめざめとした現代人なのだろうか… -
【目次】
まえがき 梶谷懐
第1章 所有と規範――戦後沖縄の社会変動と所有権の再編 岸政彦
1 都市化の帰結
2 貧困と排除
3 子どもたちの共和国
4 自治の感覚
第2章 手放すことで自己を打ち立てる――タンザニアのインフォーマル経済における所有・贈与・人格 小川さやか
はじめに
1 私有した後の財のゆくえ
転売・転贈・シェアを想定した所持/生計多様化戦略としての財の所持
2 「私有の失敗」の合理性
長期的な商売戦略/マリ・カウリ取引/「助けあい」の意識
3 変転する環境における所有
タンザニア現代史/所有への信頼低下
4 財の分散と人格の分散
「保険」としての財の分散/贈り物の来歴と人格の拡散
5 社会をつなぐハブとなる
自らの系譜を打ち立てる/「自己」の生成/客筋の「ネクサス」としてのインフルエンサー
まとめ
第3章 コンヴェンション(慣習)としての所有制度――中国社会を題材にして 梶谷懐
はじめに―制度と文化的信念
1 コンヴェンションとしての所有制度
ルールと均衡/均衡1―進化ゲーム理論/均衡2―コンヴェンション/エスカレーターは左か右か/歴史のなかのコンヴェンション―奴隷貿易から
2 「アジア的な所有」と東洋的専制主義
アジアの「弱い所有権」/水力社会/華北と江南の差異
3 伝統社会のコンヴェンション1―土地所有制度
土地公有制/農地開発の一元化/土地制度改革/所有権・請負権・経営権の分離/中国的な所有権―管業と来歴/理念的上級所有権としての「王土」概念/リスクシェア/所有の起源―信用取引/民衆の生存戦略
4 伝統社会のコンヴェンション2―企業制度
法人企業の二重性/中国の雇用形態―傭・合股・包/「合股」の特徴/土地株式合作社/中国型資本主義―国有企業の拡大/大手IT企業の戦略
まとめ
第4章 経済理論における所有概念の変遷――財産権論・制度設計から制度変化へ 瀧澤弘和
はじめに
1 新古典派と私的所有
市場交換を可能にする所有/「見えざる手」のメカニズム
2 ロナルド・コースの洞察
制度の経済学/取引費用から財産権へ
3 所有権と財産権の理論
新制度派とエージェンシー理論/取引費用理論/財産権理論
4 市場設計の時代へ
所有権とは何か/制度設計の潮流/所有権・財産権の再設計
5 ポスト・ゲーム理論の制度論―制度変化の理論に向けて
ゲーム理論による制度分析の長所/進化ゲーム理論/ルイスのコンヴェンション理論/ 青木昌彦の制度モデル/慣習的行動を規制する階層化された制度/共的資源の統治/制度の本質―実効化/習慣⇔インフォーマル⇔フォーマル間の相互作用
まとめ
第5章 資本主義にとっての有限性と所有の問題 山下範久
はじめに
有限性の壁/主体のヒトが、客体のモノを「所有」する/世界システム論の意味/左翼の歴史
1 世界システム論の二つの顔と所有の問題
私的所有と賃労働/外部を内部に収奪する二元論―植民地建設、石油資源/収奪の論理―文明と野蛮、オリエンタリズム、科学/ロックの所有論/外部の消滅―有限性/一元論の逆襲
2 資本主義的世界=生態
ヨーロッパ中心主義批判vs.市場の自然主義批判/資本主義的と自然の「束ね合わせ」/資本主義―収奪なくして搾取は持続しない/自然からの贈与が収奪に変わる/資本主義と自然の共-生産
3 内在化という「新しい資本主義」
「安価な自然」と奴隷/フォーディズムからポストフォーディズムへ/男性労働者の包摂からマイノリティの包摂へ/収奪のネットワーク化/モノの民主化/データキャピタリズムの影
まとめ
内在化は市場化ではない/モノは自然だけではない
第6章 アンドロイドは水耕農場の夢を見るか? 稲葉振一郎
はじめに
1 「所有」の来歴―ロック、動物、AIから考える
2 所有財産としての農業システム
3 「農の論理」vs.「市場の論理」
4 生物と無生物の間の時代
あとがき 岸政彦
参考文献
著者一覧 -
東2法経図・6F開架:361.4A/Ki56s//K
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361||Ki
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2章、3章は秀逸。4章も経済学説の整理としてわかりやすい。タンザニアでの観察研究の結果や中国の歴史的経緯を経済学で整理していただければ更に良かったと思う。欲を言えば、法学者による論考も。
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「所有」は、「持っている」こととの比較で見れば、法的な概念であることをまず認識すると良いと思う。
<書評>『所有とは何か ヒト・社会・資本主義の根源』岸政彦・梶谷懐(かい)編著:東京...
<書評>『所有とは何か ヒト・社会・資本主義の根源』岸政彦・梶谷懐(かい)編著:東京新聞 TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/276155?rct=shohyo