「スパコン富岳」後の日本-科学技術立国は復活できるか (中公新書ラクレ, 723)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121507235

作品紹介・あらすじ

国産スーパーコンピュータ「京」が「2位じゃダメなんでしょうか」と槍玉に挙げられてから十数年、世界一に輝いた国産スーパーコンピューター「富岳」。新型コロナ対応で注目の的だが、真の実力は如何に? 「電子立国・日本」は復活するのか? 新技術はどんな未来社会をもたらすのか? 莫大な国費投入に見合う成果を出せるのか? 開発責任者や、最前線の研究者(創薬、がんゲノム医療、宇宙など)、注目AI企業などに取材を重ね、米中ハイテク覇権競争下における日本の戦略や、スパコンをしのぐ量子コンピュータ開発のゆくえを展望する。

感想・レビュー・書評

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  • 日本の衰退が叫ばれて久しいが、スパコン分野では世界と戦える位置にいるらしいことがわかって、なんだか嬉しい。
    汎用性や消費電力など使いやすさを意識した開発が進められているようなので、AIやゲノム解析など日本の科学技術を支えるものになってほしい。

  • ●日本の理化学研究所と富士通が共同開発した「富岳」は2020年、世界ランキングで行連続の王座に就いた。
    ●重要なのは1時の順位ではなくて日本が今でもスパコンに代表される世界的なハイテク開発競争の最前線にあると実証された点にある。
    ●製薬外車では、病気の原因となる異常タンパク質に結合して、その働きを抑える化学物質の振る舞いを知るためにシミュレーションを用いる。自動車メーカーでは衝突実験の代わりにシミュレーション対応する。
    ●理研と富士通が共同開発した超高速プロセッサ(A64FX)を搭載している。ARMアーキテクチャに従う汎用CPUであると同時に、かつてのベクトル演算もできるカスタムプロセッサでもある。そこには約87億個のトランジスタが集積されている。国際的な評価は極めて高い。
    ●量子コンピュータはその特性上、いろいろな限界があります。原理的に1番の限界は、結果が1個しか出さないこと。途中で多数の並列計算をしているはずですが、最終結果を読み出した瞬間に一個の答えに収束してしまうのです。「量子コンピューターが得意な問題を探し当て、それをやらせよ」と言う方向にもっていく。
    ●アマゾンはクラウドサーバーのチップを、インテルからクラビットなど独自開発したものへ切り替えていく方針。
    ● ARMを買収したエヌビディア。2010年以降のAIや仮想通貨のブームから。この10年間で約60倍に高騰した。時価総額はインテルを上回った。

  • 富岳のようなスパコンの中核をなす「半導体」、そしてその活用対象として今、最も期待されている「AI」という2つの分野に焦点を当て、日本が再び科学技術立国として歩み出すための道を探る本になっています。

    多くの第一線の研究者への取材や豊富な文献に裏付けられた確かな情報から、世界の覇権争いの狭間における日本の立ち位置が浮かび上がらせてる点に好感が持てました。

  • 理研と富士通が開発したスパコン富岳が世界一位の性能を叩き出した。数年ぶりの快挙だ。理由は独自プロセッサの開発。これまでインテル等の汎用プロセッサを数多く組み合わせて性能をあげることが主流であったが、汎用である故に性能が出しづらいという問題点があった。これをスパコンにアジャストしたプロセッサを作ることで性能改善を可能にした。また、計算性能が高い、だけでなく、産業用として利用しやすい、という目的のもと作成されている点も評価されている。インテルが使っているx86でなく、ARMと呼ばれる規格を使っている。実際にコロナウィルスのシミュレーションで活躍している。今後はゲノム解析や天文学等で活躍することが見込まれる。
    ※TSMCと呼ばれる台湾の企業が、プロセッサの工場(ファウンドリ)として世界最有力らしい。

  • 富岳の前と今の概要がわかるがこれだけで「科学技術立国」云々は大きく出過ぎではないか

  • スパコン世界一・富岳の真の実力とは? AI、量子など米中ハイテク覇権競争下で日本の次の一手は? 開発者・研究者に訊く。

  • モバイル機器を中心に広く使用されているARMベースで汎用性、使いやすさ、省電力を担保した上で、ベクトル演算を復活させた構造に特色がある。これはかつての日本製スパコンのレガシーを活かす形になって興味深い。また、次世代エクサスケールのスパコンの開発が、米中対立の余波を受け遅れを生じているものと見られ、しばらく富岳がトップの座を維持しそうな見込みであるとし、凋落気味だった日本の技術力の復活に希望を持てた。

  • 富岳 TOP500 2期連続4冠 開発費1300億円
     京のSPARCに代わりARM命令セットアーキテクチャISA採用(windows=x86)
     442ペタ・フロップス(次世代はエクサへ)2位サミットの2倍以上
     理化学研+富士通 日本製CPU A64FX クレイも採用
     消費電力28メガW 1メガW=年間100万ドル≒1億円
     (日本1W=0.027円/h ×24h ×365日 =236.52円*メガ(100万)≒2.4億円

    HPC 大規模高速計算 ビッグデータとAI演算用 自然言語処理 
     GAFA ソフト中心からハードまでの事業へ クラウドサーバーの計算資源
     AI開発で勝つためにはHPCや学習データ、ネットワーク国内共有化が必要

    数年先の技術を想定してプロジェクトを開始
     フィージビリティスタディ(実行可能性調査)
     アプリケーション性能の向上という観点から個々の技術要素へ投資
     ピーク性能80%の 高い実行効率
     
    専用CPU A64FX
     大規模アプリケーション性能に影響あるメモリバンド幅を強化
     90年代のベクトル演算 SIMD技術から受け継がれた SVE技術 
      シミュレーション自由度と処理速度向上 ソフトのことを考えたハード
     ファウンドリはTSMC
     
    Preferred Networks MN-Core 神戸大学と共同
     ディープラーニングに必要な行列計算に特化 GPUは不要な周辺回路がある
     ビジネスと技術手段のミートするポイント
     「できるわけないところを見つけて そこで勝っていく」

    専用CPU開発
    apple   iPhone用 Aシリーズ、Mac用 M1
    google  ディープラーニング用 TPU 「クラウド・オートMLサービス」
    amazon AWS 学習用 Graviton、推論用 Inferentia 「セージメーカー」
         カスタムチップで利用費(≒電力)を40%削減 スピード20%アップ
         インテルに匹敵する技術=人材 イスラエル Annapuruna Labs買収
    ARM ISA 省電力に強い ソフトバンクからGPU技術のエヌビディアへ
    RISC-V オープンリソース (ARMは有償)

    創薬のリード探索への使用 (京都大学大学院 奥野教授)
     分子立体構造をモデリングし、分子動力学計算 京では数年が富岳では数日
     活性ポケットに既存の低分子薬剤がうまくはまるかの動きをスパコンで計算
     富岳は米国Anton 分子動力学専用スパコンに匹敵
     AIを活用し、その後の「リード最適化」と動物での「前臨床試験」を効率化
     SARSを経験していない日本の研究者が富岳で一気に縮めることができた
     実験する科学者に対し、シミュレーションができる科学者は1%しかいない。
     コロナの薬の実験結果は科学者によってバラバラ。
     
    シミュレーション天文学(神戸大学大学院 牧野教授)
     宇宙の構造 ダークマターの計算
     銀河1000億個の星のシミュレーションが富岳で可能
     欧州は探査衛星ガイアで10億個の星を観測 距離と動きを測定
     太陽黒点周期の観測はガリレオ以来400年
     100年単位の周期のシミュレーションが可能になる

    米国
     エネルギー省 オーロラ開発 米国内垂直統合のインテルに発注
     「エンティティ・リスト」中国スパコンメーカーと関連企業は政府許可必要
      AMDとスパコンメーカー曙光との共同ベンチャーが端を発する
    中国
     アメリカの技術禁輸政策
     スパコン用CPUは中国企業は生産ができない、ARMも使えない
     ASMLの製造装置も輸入できない

    量子コンピューター:プログラミングや得意分野が異なる
     量子ゲート方式 汎用性 
     Dウェイブ 量子アニーリング方式 理論:考案者 1998年 東工大 西森教授
     超電導量子ビット 1999年 NEC基礎研究所 中村氏(現 東大教授)

  • 東2法経図・6F開架:B1/5A/723/K

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著者プロフィール

1963年群馬県生まれ。KDDI総合研究所リサーチフェロー、情報セキュリティ大学院大学客員准教授。専門はITやライフ・サイエンスなど先端技術の動向調査。東京大学理学部物理学科卒業、同大学院理学系研究科を修了後、雑誌記者などを経てボストン大学に留学、マスコミ論を専攻。ニューヨークで新聞社勤務、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所などで教鞭をとった後、現職。著書に『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』『ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃』『仕事の未来 「ジョブ・オートメーション」の罠と「ギグ・エコノミー」の現実』(以上、講談社現代新書)、『ブレインテックの衝撃 脳×テクノロジーの最前線』(祥伝社新書)、『「スパコン富岳」後の日本 科学技術立国は復活できるか』(中公新書ラクレ)など多数。

「2022年 『ゼロからわかる量子コンピュータ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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