存在と時間 3 (中公クラシックス W 30)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121600554

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  • それまでの実存論分析を時間性に結びつける。通俗的日常性では、過去、現在、未来のうち現在に埋没しており、過去「以前にあった」の忘却・想起、未来「まだない」の予期・期待、現在「今ある」現成化が切り離されて、事物的な世人自己として時間が捉えられている。これは、公共化された時間(世界時間)と、それが事物化した時計=物への配慮的な気遣いに基づく。
    他方、本来的時間性では、常に既に被投された「既在(性)」、先んじて死を先駆する「到来」から、おのれの今「瞬視」を捉える(時熟する) 。世人自己を抜ける脱自態、先駆的決意性(取り返し)。これは、生誕から死までの歴史性としておのれへの配慮的な気遣いに基づく。
    通俗的日常性では、太陽などの天文学的な観点から、数えられた「今の連続」の運動として時間をとらえており、自然に基づいているが故に、公共性と拘束を生む。そうして発明された時計は、世界時間と変化し、おのれの死を顧みることなく、終わりのない時間の永遠性を植え付ける。今の特権化は、以前以後を数える日付可能性や、今日何をすべきかという有意義性を奪う。
    ヘーゲルは、今を点として捉え、時間の経過によって点が繋がり、空間を認識すると考えた。この点の弁証法的な否定は、自己ではない物=時間を認識することで、非自己との区別を意識し、自己を理解する否定の否定と同じである。世界精神の歴史性は、今の連続として時間を思考する通俗的時間を極論化したものだ。
    本来的な時間性においては、歴史的な時間があっておのれを了解するのではなく、おのれの死までの時間があって歴史学が生成されるのである。現存在がなければ、時間も歴史も存在しない。
    "現存在は、おのれの死についての「逃避的な一時しのぎの」知識にもとづいて、逃げ去ってゆくはかない時間を知るのである。"

    ・所感
    第4章あたりから、まわりくどい言い回しや、それまでの実存論分析で予想がつく話を術語で繰り返しする部分が多くなっているように思う。正教授資格を得るために『存在と時間』が当初より大幅に拡大したのと関係があるのかもしれない。しかしながら、時計による時間の公共化は、メディア論や記号論にも繋がる話でおもしろい。下巻で語られるはずだった存在一般の意味への問いは頓挫したこともあり、この本は実存論として読むより他ないように思われる。おのれの時間、つまり自分固有の死から逆算して、自分固有の今までのありようから、固有のなすべきことを今行うというのは、一人の人間が「生きるとは何か、どう生きるか」の様々なあり方の抽象化として、非常に強い力のある書物だ(そして実際に今も大きな影響を与え続けている)。だが、生誕に対する死の優位は、個人の実存哲学の域を出ない。また、良心の単一性(他人の良心になる現存在にも言及している)、民族の歴史から思考する全共同運命の全体性など、やはり危険な要素は否定できない。固有の現存在の多様性を認めつつも、大衆的な頽落については、否定的にしか読めない。このことから、実存論を先鋭化しても、存在一般の意味に迫るのは困難と判断し、『存在と時間』の後半を断念したのかもしれない。

  • [ 内容 ]


    [ 目次 ]
    第3章 現存在の本来的な全体存在しうることと、気遣いの存在的な意味としての時間性(現存在にふさわしい本来的な全体存在の限界づけより、時間性から邪魔者を現象的に取り払うことへといたる方法的な歩みの下図;先駆的決意性としての、現存在の実存的に本来的な全体存在しうること ほか)
    第4章 時間性と日常性(現存在の実存論的機構の根本事態と、この機構の時間的な学的解釈の下図;開示性一般の時間性 ほか)
    第5章 時間性と歴史性(歴史の問題の実存論的・存在論的開陳;歴史の通俗的了解内容と現存在の生起 ほか)
    第6章 時間性と、通俗的な時間概念の根源としての時間内部性(現存在の前述の時間的分析の不完全性;現存在の時間性と、時間についての配慮的な気遣い ほか)

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