花々と星々と (中公文庫 M 7)

著者 :
  • 中央公論新社
4.22
  • (9)
  • (4)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 55
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122001077

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • これまでに読んだ著書とは少し毛色が違っていた。
    と言うのも、これまでの分は成人した犬養さんが全てで、ご家族も「お祖父ちゃま(犬養毅)」くらいしか登場していなかった。(あとはお母様のご友人で、犬養家にもよくお見えになっていたという児童文学者 石井桃子さん)

    この物語では幼少期の犬養さんやご両親、お祖父ちゃま・お祖母ちゃまが主要メンバーである。彼女自身やご家族のルーツをめぐる旅。知識も度胸も卓越していた成人 道子さんではなく、遊びに入れ込んでいた「道ちゃん」目線へと読者は誘導される。
    今まで以上に時間を忘れ、読み耽った。

    前半の道ちゃん一家は、お祖父ちゃま達と離れて暮らしていた。
    暮らし向きはそこまで豪勢でなかったみたいだが、それでも道ちゃんは歴としたお嬢様。お庭に畑、渡り廊下や西洋間まで備えたお家で、毎夏には軽井沢へと赴く…。お祖父ちゃまとの初対面は転地療養先の熱海だった。

    「幸にも、父はわけわからぬおとなの同類ではなかった。[中略]私は文字をおぼえるついでのことに、おとなには、わけのわかる人種と、わけのわからぬ人種と、二種類あることを知ったのだった」

    生活だけでなく、道ちゃんの心も豊かに育まれていた。
    絵本の代わりに西洋画帖をあてがわれ、そのまま空想世界へと乗り出す日々。(それでも『クマのプーさん』原作に大喜びしたのは、児童書も肌に合っていたってことなのかな)
    ごっこ遊びに喜んで加わる小説家の父と母、頻繁に出入りしていた白樺派の作家達は彼女の心を育てた「花のごとく星のごとき存在」だった。言い間違いを敢えて正さなかったり、白樺派の談話に混ぜたりする等「女子ども」の概念を超えて一人の人間として対応してくれる。
    全ては彼らによる「リベラル英才教育」の賜物と言って良い。風通しの良い環境を早い時期から体感したために、後年社会の矛盾に格別疑問を抱かれたんだろうなー…

    のちの成人 道子さん含め、犬養家の女性はとにかく強い!
    父方のお祖母ちゃまを一言で表すなら、「強烈」または「超合理主義者」。略奪結婚のうえ犬養家の全使用人を取り仕切る手腕は「ほんもの」である。道ちゃんのキューピー人形をヒントに、正月飾りをセルロイドに一新させたエピソードは暫く忘れないと思う…。

    でも本書で触れられる事件の数々に視点を変えると、間違いなくお母様が一族のMVPであろう。ピアノを弾いたり遊びに興じる時のふわふわした一面と、終盤にかけて語られる女傑っぷりのギャップには目を見張るものがある。
    衛生看護学に秀で決死の看病を家族に施し、自宅に押しかける暴徒を丸腰のまま追い返す。更には5.15事件の現場に居合わせ、直後には冷静に医者へと連絡していたり…。
    一方で日々の不安を子供達への愛情で覆い隠していたのが居た堪れず、何度か涙が流れた。ラストとそれ以降に待ち受ける受難を思うと胸が圧迫される。

    以前『お嬢さん放浪記』のレビューで「お嬢様であっても、深窓の令嬢ではない」と書いたが、自分の当ては外れていなかったらしい。そして彼女を輩出した家庭もまた、見せかけではなかった。



    ※どのエピソードもインパクトがあって、今回一部でも記録せずにはいられませんでした。もちろん他に書きたいこと、道ちゃんたちの表情や心情だって幾つも自分の中で引っかかっています。
    いつか必ず再読したく…!その時はエピソードに気を取られぬようレビュー致します笑

  • 東中野、熱海、鎌倉、四谷、そして首相官邸の横の秘書官邸に住んだ頃の記憶と白樺派の小説家だった父親の交流関係や大好きなお祖父ちゃまの友人、政治家達が綺羅星のごとく登場する。志賀直哉、武者小路実篤、芥川龍之介、岸田劉生、川端康成、古島一雄、戴天仇等。また、「ほんもの」の音楽や絵画、書物、会話といった花々や星々に囲まれた幸せな暮らし。しかし、周りに軍靴の足音が近く聞こえ始める中、大好きなお祖父ちゃま、号木堂、犬養毅首相が昭和7年5月15日に暗殺されるまでを描いた幼女から少女へと成長する過程を綴った著者の自叙伝。

  • 犬養毅の孫であり犬養健の娘であった道子氏が描く幼少時代。まさにきら星のように魅力溢れる人々と道子氏の交流が描かれています。中でも道子氏を溺愛していた祖父犬養毅が道子氏に託した物と言葉のエピソードが印象的でした。

  • あの五・一五事件で暗殺された犬養毅首相の孫、犬飼道子の自伝小説。はじめの方は軽いなぁと思って読んでいた。というのも、生まれてきた環境が一般家庭とはかけ離れすぎている。彼女の周りにでてくる人物は日本の歴史をつくった偉人達。それを見ているだけでも興味深いものはあったが。後半はあの暗殺劇の裏側か。白樺派であった犬飼健の妻、仲子夫人の人間像に感嘆を覚える。どのような偉大な政治家(健氏は最初は作家であったが・・・。)にも内助の功があると言われるが、それもこの本を通じて納得させられた。もちろん、仲子夫人は犬養毅の夫人ではなく、息子である健の夫人なのだが、彼女が家族の精神的支柱となって凛としているのは昭和を代表する淑女の典型的例ではないだろうか。著者で、物語の中では少女である道子氏と歴史上の有名人達のやり取りも見物だ。とにかく、歴史を紐とく小説として、この本は大変興味深い一冊と言える。

  • 五・一五事件で暗殺された犬養毅の孫娘である犬養道子氏の自伝的小説。
    秘められた昭和史を期待して手に取った。

    読んでみると、これは少女道子がいかにして成長を遂げていくかを描いたとても愉快な物語だった。彼女が花々や星々と喩えた白樺派の同人や芸術家、時の政治家や中国の革命家などが身近な人物として次から次へと登場する。彼女の育った環境は本当に凄い。

    そしてまた、これは娘の視点で母仲子を描いた物語でもある。父である健に比べて仲子は力強く、そして魅力的に描写されている。著者自身も言っているが、母系からの遺伝や影響という物がどれだけ大きいかを伝えてくる。
    主義者や壮士を毅然と追い払った彼女の豪胆さと冷静さは、五・一五の際に銃口を突きつけられても尚八方の数を数えたというエピソードに凝縮されている。そして、少女道子にセキをさせその胸の音を聞くシーンで彼女の愛の深さを見る。

    少女道子はとても聡明だ。時が戻らないという事を知り、悲しみを知り、孤独を知り、感傷を知る。そんな彼女の姿を見るのはそれだけでもとても楽しい。このような成長過程を遂げた彼女が今現在どんな女性になっているのか、他の著書も読んでみたくなる。そして、自分の娘のこれからの成長がとても楽しみで仕方が無くなった。幼い子とはこれほどまでに世界を新鮮に見るのかと。

    最後の二章は当初の期待の通り、犬養毅が首相になってから五・一五発生までを孫の視点から描いている。少女道子の祖父の死とともに日本の政党政治も死んだ。その事は胸を締め付ける。
    そして、諸説あるがやはり犬養毅は「話をしよう」と言ったのだ。彼は政治家としての自分の生き方を銃口を前にしても貫いた、そう信じられた。

    少女を主人公にした小説としても、昭和秘史を紐解いた物としても非常に魅力的な一冊。

  • 女子なら一度は読め、的一冊。

  • 犬養道子お嬢様のお嬢様たるゆえんについて延々と書かれた本。出てくる登場人物がほとんど歴史の教科書に出てくる人。その人たちの美しさが克明に書かれてて、その克明さが好きです。

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

1921-2017。評論家、エッセイスト、難民支援活動家。著書に、『聖書を旅する』(全10巻)、『お嬢さん放浪記』『こころの座標軸』など。難民支援活動の一環に〈犬養道子基金〉を創設した。

「2021年 『やさしい新約聖書物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

犬養道子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×