苔 (中公文庫 A 101)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122004887

感想・レビュー・書評

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  • あまりにも昔に読んだのでブクログには感想を書いていない本を地道に再読しているのですが、ついに、膨大(?)な幕末関連本の再読に突入することにしました。再入手しやすい司馬遼太郎などは実は引っ越しの際にほぼ手放してしまったのだけど、絶版本は古くても汚くても手放せず、とりあえず手近にあった綱淵謙錠の短編集からスタートします。

    こちらは、偽官軍の汚名を着せられ、冤罪で処刑された赤報隊・相楽総三の「冤」、北蝦夷開拓に乗り出した越前・大野藩の早川弥五左衛門の苦労(※現代における北方領土問題)を描いた「朔」、
    そして元会津藩士の永岡久茂が首謀者となって起こした不平士族の叛乱未遂・思案橋事件「苔」の幕末三本立て。

    長さ的にもやはりいちばん読み応えがあるのは「苔」。小説として事件を扱った部分と、作者自身が昭和40年代に事件の関係者の墓所を訪れ彼らの足跡を辿るドキュメンタリー的な部分が織り交ぜられており、小説と取材記事の中間みたいな不思議な読後感。

    事件の被害者の墓参に始まり、切腹した最後の逃走犯の墓参に終わるのだけれど、メインになるのは永岡久茂で、会津藩が挙藩流罪の憂き目をみた斗南時代まで遡り、敗残後の会津藩の三人の若きリーダー(山川浩、広沢安任、そして永岡久茂)の、目的は同じながら異なった三通りの責任の取り方に言及しているのが興味深い。山川浩は明治新政府に出仕、活躍することで会津の汚名を雪ごうとし、広沢安任は斗南に残って開拓者として結果を残し、永岡久茂は新政府とあくまで戦おうとした。個人的には永岡久茂が袂を分かつことになった山川浩に贈った漢詩の、最後の一行でいつも涙が止まらなくなる。「憾斯船不載君還」(憾しむらくは斯の船の君を載せて還らざるを)

    解説は司馬遼太郎。中央公論の編集者時代の綱淵謙錠に「近藤勇についてどう思うか」と聞かれた司馬さんは、当時近藤勇のことが大嫌いでそのまま語ったところ、それを書いてみてくれと言われたというエピソードが面白い。もちろんまだ、燃えよ剣も新選組血風録も書かれる前のこと。

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