- Amazon.co.jp ・本 (494ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122008281
感想・レビュー・書評
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後醍醐天皇といえば、網野善彦の「異形の王権」の姿が鮮烈だ。
網野は、密教と邪教立川流を思想的バックボーンとして、<悪党>楠木正成を活用して建武の新政を行った後醍醐帝を、700年前の<異形の王権>と捉えてみせた。
本書は、それだけでなく、幕末〜明治、そして現代にまで影響を与える日本史上の稀代の帝王として後醍醐を生き生きと描き出す。
何度読んでも面白い。
鎌倉幕府は、二つの<げんこう>により、滅亡した。
ひとつは海外からの侵略戦争<元寇>であり、もうひとつは後醍醐天皇の企てた討幕計画<元弘>の乱だ。
<元寇>に対する武士の大量投入による勝利の後、恩賞の少なさに対する不満が北条政権を揺さぶった。
その状況下、討幕計画を推し進めた後醍醐天皇に対し、鎌倉幕府は二度にわたって大軍を派遣せざるを得なかった。
しかし、後醍醐の討幕計画の本意は天皇家のお家騒動にあった。
天皇家のお家騒動を大軍で鎮めても、何ら新しい土地が手に入るわけではない。
ここでも恩賞を巡って、北条政権に対する不満がマグマのようにたまったのだ。
その溜まりに溜まった不満の爆発が、有力御家人である足利、新田の幕府離反を招き、鎌倉幕府は崩れ落ちる。
後醍醐天皇が討幕を決意したのは、幕府が従来からの<両統迭立>策を頑なに遵守して、天皇践祚10年の実力天皇である後醍醐帝を廃位したからだ。
後深草、亀山という兄弟天皇に淵源する、持明院統と大覚寺統から交互に天皇を出すという<両統迭立>を廃し、天皇親政(幕府打倒)と大覚寺統(というより後醍醐統)による皇位独占を企てたのが、稀代の帝王 後醍醐だったのだ。
江戸時代に入って「大日本史」を編纂した水戸徳川家は、後醍醐の末裔である南朝を正統とした。
しかし、その江戸幕府公認の史学は、討幕を天皇親政によって実現することを正当化するに至り、江戸幕府にとっての時限爆弾であったと言える。
幕末の討幕思想は水戸学から生まれ、薩長連合は、天皇親政を旗印に明治天皇(北朝)を担ぎ出すことで、討幕を成功させた。
明治政府が現天皇家(北朝)とは異なる南朝を正統としたのもそのためだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
物事のあやを絡めながら史実を積み重ねていく、というスタイルは僕にはとても読みやすかったし、面白かった。読み始めてから2ヶ月半。この辺の歴史の知識はほぼゼロだったからしょうがないか…だから却って印象に残ったから良しとしよう。
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1223夜
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複雑怪奇な鎌倉末期の時代相の輪郭を大胆に描いていて大変面白かった。NHKの大河ドラマしか「太平記」関連には触れていなかったので、かなり自分の歴史観に訂正が加えられた気がする。
ただ、この著作はほぼ学術書に近い内容で、冒頭の天皇家の謀略渦巻く政争の辺りでは中宮の名前等、登場人物があまりに多すぎてかなり苦戦を強いられた。いずれにせよ、当時の予備知識と、漢文の読み下し、常用漢字でない字など非常に読み手を選ぶ作品だと思う。
足利高氏が登場するあたりから序々に展開が早くなり、歴史モノっぽくなる。著者は膨大な資料から自身の大胆な発想があるかと思うと、微細な事象までをつむいでいく。その描写力にも感嘆した。