1987年(底本1977年)刊。元多摩美術大学講師。能登島ガラス工房設立者。
東大寺正倉院といえば、シルクロードの終着駅とも言われ、奈良時代の宝物がタイムカプセルの如く保管されているというイメージがある。
が、実際、現在する1万点以上の宝物のうち、奈良時代の宝物は現存150点、非現存を含めても600点ほどでしかない。
つまり、時代ごとにダイナミックな封出入が繰り返されてきたのだ。
本書は、その正倉院保管宝物の出入りが、当該時代の政治情勢と関係する事実を、主に奈良時代(光明皇太后~藤原仲麻呂)の事情を基にして叙述していく。
しかも、光明皇太后、あるいは藤原仲麻呂が政権奪取のため、正倉院宝物として、平城京にある武器を集めさせ(武装解除)、さらに自分が東大寺管理の長官になることでその武器を自分が利用できるようにするなど、少々驚く記述もなされている。
また、太政官から天皇御璽を奪取するための仲麻呂の画策も、ホンマでっか?と言いたくなる程だ。
ただし、奈良時代以降は、信長と蘭奢待など、さほど面白いテーマではない。