醒めた炎 4: 木戸孝允 (中公文庫 む 10-7)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (486ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122018495

感想・レビュー・書評

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  • 再読終了。最終巻は明治4年の岩倉使節団のあたりからスタート。攘夷を叫ぶ若手を次々海外留学させて開明派にしてきた木戸、しかし彼自身は洋行の経験がなく、ようやくその希望が叶ったわけだけど、政府内の派閥のあれこれで結局、大久保も岩倉もついてきちゃって大所帯に。あげく若手の森有礼と伊藤が暴走。木戸はもともと開明派だが、日本の公用語は英語にしちゃえばよくね?という森有礼や、日本もキリスト教国になれば西洋と対等になれるんじゃね?という伊藤博文らの軽はずみな西洋万歳主義をみるにつけ逆に急激な西洋化に不安を抱き、一方保守派の大久保は海外見聞ですっかり開明派となって帰国。とはいえ条約改正は全く進展せず。

    そして帰国したらしたで今度は留守政府のやりたい放題を回収するべく奔走、お馴染みの征韓論で西郷隆盛と対立、士族の叛乱は本格化、江藤新平の佐賀の乱、長州では前原一誠の萩の乱、熊本神風連の乱など、いずれもスピード鎮圧されるものの、とにかくありとあらゆる地域、階級で新政府への不満は爆発している。日頃不仲でも困ったときだけは手を組む木戸&大久保コンビ。

    大久保は大変有能な人物だが、木戸と違って彼はあまりにも薩摩藩(とその元お殿様・久光)が足かせになって、薩摩ありきの行動となってしまうのが残念だ。藩閥はあるとはいえ、長州のお殿様は木戸を応援してくれる立場だったし、木戸は長州以外からも積極的に人材を起用し(そのせいで土佐閥からは利用されたりもし)長州だけでなく日本全体を見て政治に取り組んでいる。視野の広さや客観性が卓越していて、とても公正だと感じる。明治政府はとにかくできたてほやほやでトラブルが多すぎて、思うように舵を取れなかっただろうけど、もっと木戸が自由に裁量できたらどれだけまともな政府になっていたかと思う。

    征韓論を押さえたあと、征韓論では兄と袂を分かった西郷従道が台湾出兵を主張しはじめた話は西南戦争の影に隠れてあまり知られていないけど、この兄弟ほんとめちゃくちゃだな(苦笑)結局薩摩藩士はそれだけ藩の呪縛から逃れられなかったということだろうけど。

    佐伯彰一の解説では木戸が志半ばでたおれたというように書かれているが、個人的にはもう疲れ果てて早く休みたかったんだろうなという印象。故郷萩でもなく東京でもなく京都に帰りたがっていたことに何故かちょっと泣けてくる。いつも木戸の無事と体調を心配ばかりしている幾松さんの手紙も泣ける。

    もう現代の日本には、こういう理想と広い視野をもった公正な政治家は現れないんだろうな。分厚い4冊読み切ってやっぱり私は西郷隆盛より坂本竜馬より木戸孝允がいちばん好きだ!と改めて思いました。巻末にはそれだけで薄めの文庫本1冊分くらいの出典一覧と人名索引がついていて親切。

    ※目次
    遣外使節団/留守政府/大分裂/「新政府」/台湾出兵/左大臣の策謀/白雲を望む(出典一覧/人名索引)

  • 【醒めた炎 木戸孝允(四)】村松剛著、中央公論社、1990年

    木戸孝允を通じて150年前の明治維新について迫る本書の最終巻。

    本書は、嘉永6年(1853年)にペリーが黒船に乗って来航したところから24年の歳月を、日経新聞の日曜版に昭和54年〜昭和62年に8年かけて書いたものになる。村松は「木戸の生涯をえがくことによって、明治維新という国民国家の形成過程を改めて考えてみたいというのが、本書執筆に当たっての筆者の念願だった」とあとがきで書いている。

    本巻では、明治4年(1871年)の岩倉使節団から始まり、明治10年(1877年)の西南戦争の途中で享年45歳で木戸孝允が癌で亡くなったところで著者は筆を置いている。岩倉具視を中心とした明治政府は、征韓論や台湾出兵が大きな火種としてそれぞれの思想と人間関係の好悪が相まって、言葉を選ばずに言えば、ぐちゃぐちゃになる。このぐちゃぐちゃ加減が、「明治」を膨張させ、帝国主義になっていくのではないだろうか。日清、日露、日中の戦争と太平洋戦争へと突き進む70年と、敗戦後の復興の70年はすでにこの時にその芽があったのではないだろうか。

    ちなみに
    維新の三傑といわれた西郷、木戸、大久保は40代後半で相前後して亡くなっている。
    西郷隆盛(49歳、1877年)
    木戸孝允(45歳、1877年)
    大久保利通(47歳、1878年)

    一方、この後も明治時代を担った人は、長命だ。
    岩倉具視(57歳、1883年)
    伊藤博文(69歳、1909年)
    大隈重信(83歳、1922年)
    板垣退助(82歳、1919年)

    木戸孝允の墓は、京都東山にある京都霊山護国神社の一番高いところに妻の幾松と共に並んで立っているという。同神社は高杉晋作が発案した招魂社として設立され、坂本龍馬、中岡慎太郎、久坂玄瑞、高杉晋作などの幕末志士の墓もある。

    明治、大正、昭和、平成と元号が変遷して150年。
    来年、新しい元号に変わるが、明治を作った人たちは150年先をどう見ていただろうか。

    そして、僕たちは、次の150年をどう見ていくのか、問われている気がした。

    #優読書

  • (2015.11.19読了)(1991.11.11購入)
    副題「木戸孝允」
    木戸孝允(桂小五郎)の評伝、全四巻の最終巻です。第一巻を6月末から読み始めて約5か月で全四巻を読み終わりました。第一巻を購入してから25年経ちました。
    この本のもとは、日本経済新聞の日曜版に1979年5月6日から1987年2月22日まで、406回にわたって連載されました。始めたときは、二年ぐらいで完結するつもりだったそうですが、8年かかってしまった、とのことです。
    単行本は、上下巻二冊で、1987年7月と8月に刊行されています。
    木戸孝允(桂小五郎)の評伝、ということになっていますが、幕末史であり、明治維新史になっています。こんなに詳しい、興味深い幕末・維新に関する本は、初めて読みました。
    幕末・維新に興味のある方にお勧めです。
    この本を読むと、武士の世を終わらせ、明治の基礎をつくりあげたのは、木戸孝允なのだということがよくわかります。現実に沿って考えて、今やるべきことは何かということを着実に実行に移してゆける人だった。極端に走らず、何をどの程度やればいいのかを考えて提案し、説得して、同意を取り付けて、着実に実行していった。
    残念ながら、体がもたず、45歳で亡くなってしまった。胃がんだったのではないかとのことです。
    第四巻では、遣欧使節団の事、征韓論、台湾出兵、西南の役、木戸孝允の死、などが扱われています。
    戦争をやろうとする人は、戦争には、どれだけのお金がかかるかをまじめに計算することがないんですね。戦争には、兵站が必要であることは知っていても、それをまじめに考えることはないんでしょう。まあ、ちゃんと考えて計算したら、空元気は、あっという間にしぼんでしまうでしょうから。
    韓国への出兵は、危ういところで、実施には至らなかったけど、台湾出兵は、赤字に終わっています。

    【目次】
    遣外使節団
    留守政府
    大分裂
    「新政府」
    台湾出兵
    左大臣の策謀
    白雲を望む
    あとがき
    出典一覧
    村松剛の伝記的戦略  佐伯彰一
    人名索引

    ●新聞雑誌(16頁)
    「新聞雑誌」は、木戸の発案によって創刊された。
    開化の推進には民衆啓蒙のための情報機関が必要であることを、彼は力説した。
    ●台湾出兵問題(89頁)
    台湾に琉球の船が漂着して船員五十四人が住民によって虐殺されたという情報が八月に東京にはいり、琉球を支配してきた薩摩人たちが台湾征討をしきりに主張したのである。
    ●学制(94頁)
    政府は前年(明治五年?)の八月に学制を定め、「邑に不学の戸なく、家に不学の人なからしめんことを」期すという布告を出していた。
    フランスの教育制度に学んで全国を八つの大学区に分け、大学八、中学二百五十六、小学校五万三千七百六十をつくる計画だった。文部省は二百万の予算を計上したのだが、それが百万円に縮減されたのである。
    ●憲法制定(109頁)
    木戸は日本に帰るとすぐに、政規(憲法)制定の急を訴える建白書を政府に提出し、さらにこれを十月の「新聞雑誌」に掲載した。
    ●出兵費用(224頁)
    出兵の費用に関しても、大隈、西郷はあきれるほど楽観的だった。三月末の閣議で木戸が戦費の捻出方法についてたずねると、大隈は、
    ―五十万円の用意があります。
    五十万円で足りるという保証がどこにあるのかという木戸の質問にたいしては、戦費がそれ以上にかさんだら西郷は腹を切るといっていますと彼はこたえた。
    これでは、予算説明にはならない。
    ●国・政府(226頁)
    「深く惟ふ、國は人民によりて立つの名、政府は人民を安んずるの稱なり」
    ●地方議会(261頁)
    木戸の最大のねらいは国会創設の準備としての地方民会の設立だった。七十府県のうちで二府二十二県が、まだいかなる意味での議会も持っていない。
    ●鹿児島県(316頁)
    廃刀令も地租改正も、鹿児島では実施されていない。

    ☆村松剛さんの本(既読)
    「ユダヤ人」村松剛著、中公新書、1963.12.18
    「古代の光を求めて」村松剛著、角川新書、1964.02.15
    「ジャンヌ・ダルク」村松剛著、中公新書、1967.08.25
    ☆関連図書(既読)
    「花燃ゆ(一)」大島里美・宮村優子作・五十嵐佳子著、NHK出版、2014.11.25
    「花燃ゆ(二)」大島里美・宮村優子・金子ありさ作・五十嵐佳子著、NHK出版、2015.03.30
    「花燃ゆ(三)」大島里美・宮村優子・金子ありさ作・五十嵐佳子著、NHK出版、2015.07.30
    「花燃ゆ(四)」小松江里子作・五十嵐佳子著、NHK出版、2015.10.30
    「久坂玄瑞の妻」田郷虎雄著、河出文庫、2014.11.20
    「世に棲む日日(1)」司馬遼太郎著、文春文庫、2003.03.10
    「世に棲む日日(2)」司馬遼太郎著、文春文庫、2003.03.10
    「世に棲む日日(3)」司馬遼太郎著、文春文庫、2003.04.10
    「世に棲む日日(4)」司馬遼太郎著、文春文庫、2003.04.10
    「高杉晋作」奈良本辰也著、中公新書、1965.03.
    「高杉晋作と奇兵隊」田中彰著、岩波新書、1985.10.21
    「醒めた炎(一)」村松剛著、中公文庫、1990.08.10
    「醒めた炎(二)」村松剛著、中公文庫、1990.09.10
    「醒めた炎(三)」村松剛著、中公文庫、1990.10.10
    「岩倉使節団の西洋見聞」芳賀徹著、日本放送出版協会、1990.01.01
    「条約改正」井上清著、岩波新書、1955.05.20
    (2015年11月22日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    西南の役のさなか、睡眠中に木戸は突然「西郷も大抵にせんか」と大声で叫んだという。役の結果を知らぬまま、新生日本の行く末を案じつつ45歳で没したその生涯は、苦難に満ちた明治政府の形成過程そのものだったのである。巻末に詳細な出典一覧・人名索引を付す。昭和62年度菊池寛賞受賞の大作。

  • 「巻末に詳細な出典一覧・人名索引を付す。昭和62年度菊池寛賞受賞の大作(アマゾン紹介より)」 このために、4巻だけプレミアがついています。…4巻だけ買いました。

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著者プロフィール

評論家。筑波大学名誉教授。1929年生。東京大学大学院文学研究科仏語仏文学専攻〔59年〕博士課程修了。94年没。大学院在学中から文芸評論家として活躍。58年には遠藤周作らと『批評』を創刊する。ナチズムに対する関心から、61年アイヒマン裁判傍聴のためイスラエルへ赴く。62年にはアルジェリア独立戦争に従軍取材。立教大学教授などを務めたのち、74年筑波大学教授。著書に『アルジェリア戦争従軍記』『死の日本文学史』『評伝アンドレ・マルロオ』『帝王後醍醐 「中世」の光と影』『三島由紀夫の世界』など。

「2018年 『新版 ナチズムとユダヤ人 アイヒマンの人間像』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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