世界と日本 (中公文庫 よ 24-2)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122018709

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  • 1991(底本63)年刊。サンフランシスコ講和条約締結時の首相の自叙伝・回顧録。ハト派・タカ派問わず、自民党政治家の根底の発想が透けて見える著。例えば①労働者は駒。特に戦後改正労基法の他労働三法に対する異常な敵視、②神道への過剰な傾斜、③韓国軍を含む国連軍が対北朝鮮の最前線防衛を担う故、日本は太平を享楽できているとの認識を持つ一方、李承晩政権の反日態度に憤り、韓国統治時代の日本の経済的寄与を評価すべきと言う点。自己決定を奪われた中の経済発展は、札束で顔を張られているのを我慢した状態とは気づけないんだなと。
    また、全部本音とは思えないが、ソ連・中共など共産主義に対する教条的な嫌悪感をも雄弁に語る。結果、後にニクソン米国大統領が対中改善のため訪問し、日本の政治家が右往左往したことの萌芽が見て取れる。本書のような自伝で全部開陳する必要はないが、なんとも外交でのプラグマティズムに欠けた発想だなぁ、とも。そして、最大の問題は、他国の外交政策を検討する中で、当該国の国益について殆ど言及していない、出来ていない点。例えば、英が中共を初期に承認していた意味を、ただ困惑するだけでは話にならず、一国の総理のありようとしては困る
    つまり大陸を実効支配する中共が香港を接収する危険性、英国における香港の重要性等が言及テーマになりそうなのだ(勿論、他もあるかも)。他方、日米安保の片務性に対する反論については、議論のすり替えが散見。問題は国内に政府の指揮命令下にない軍隊が駐留するだけでなく、領域防衛に不可欠な航空管制の権限がないなど、他国の意思決定に領域防衛がコントロールされること。確かに、当時の日本の経済力・技術力では、自主軍備ではなく経済発展に注力した政治的選択が間違いとは思わないけど…。

  • 「第一部外遊編」より:国家も国民も、世界の中における自国の置かれている立場、あり方について、余りにも自覚することが少ないのではないかと思わざるを得ないのである。政治家は常に派閥の争いに注意を奪われ、広い視野に立って国家国民の行くべき道を見定める余裕は殆どこれを失いたるが如くである。野党のあるものは破壊活動、阻害行為にもっぱらであるし、或るものはひたすら反対のための反対に終始している。それにも拘わらず、進歩的な文化人を先頭とする知識人の多くは、そのような野党の行為を陰に陽に指示している有様である。」戦後すぐの時代に吉田茂が喝破しているが、六十数年過ぎた平成24年の今もまさにそうである。

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著者プロフィール

政治学博士
2011年法政大学大学院政治学研究科修了。衆議院事務局に勤務する。
2005年12月、第3回日本修士論文賞受賞。
現在、法政大学大学院社会問題研究所嘱託研究員

「2012年 『政権変革期の独禁法政策』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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