軍旗はためく下に 改版 (中公文庫 B 24-15 BIBLIO war)
- 中央公論新社 (2006年7月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122047150
作品紹介・あらすじ
陸軍刑法の裁きのもと、故国を遠く離れた戦場で、弁護人もないままに一方的に軍律違反者として処刑されていった兵士があった。理不尽な裁きによって、再び妻とも恋人とも会うことなく死んだ兵士の心情を、憤りをもって再現し、知られざる戦場の非情を戦後世代に訴える、直木賞受賞の著者代表作。
感想・レビュー・書評
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終戦時に行われた軍法会議で死刑を宣告された下級兵士たちの5つの独立した物語。素材となった事件は実在するもの。著者は関連する多くの軍人に取材しているが、内容はフィクションであるとあとがきに記してある。厳しい戦争末期に、下級兵士は祖国を信じ命を投げ出して戦った。しかし、彼らは軍という階級社会の中で、酷い扱いを受け続けた。軍や国は敗れてゆく戦いの中で彼らを助けずに見捨てた。一方で上級士官たちは彼らの苦しみを無視し、食事や女性等の贅沢を続けた。そのような止むを得ない状況で、敵前逃亡等の死刑の罪を受けて死んでいった下級兵士達がいた。簡単に死刑が宣告される戦場での軍法会議。彼らは本当に罪を犯したのか?戦後26年たっても彼らは戦犯の汚名を晴らせないでいる。戦時下の、軍や国や上級仕官による下級兵士に対する非人間的な扱い。異常な心理。下級兵士に不当に厳しい軍規。戦争の実態をよく現した小説だと思う。
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1970年直木賞、受賞作。WWII中の話を小説にしている。戦場での混乱した中で逃亡の罪で、軍事裁判で死刑に処せられる仲間たち。反論することもできず、弁護する人もなく、死んでいった。戦後、数十年を経たのち、回想録を作るために生きて帰った人々へインタビューする形で当時の理不尽な状況を一つずつ明らかにしていく。最初は忘れたいためだろう、インタビューを受ける元兵士たちは話す口が重たいものの、当時の理不尽さに怒りや悲しみがこみ上げてくるのか徐々に当時の状況を話しだす。読んでいて、その当時の状況が目に浮かび、涙がこぼれてきた。昨日まで「美味いもの食べたい」と話していた仲間が翌日見ると、爆弾で吹き飛ばされた体を折り曲げて、どろどろになって死んでいく。そしてその状況に麻痺し、恐怖さらには感情がなくなっていく。そんな状況が二度と生じないように心がけていこうと思う。