天皇の影法師 (中公文庫 い 108-4)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (309ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122056312

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  • 日本近代に取材したノンフィクションであるが、猪瀬の手法は通常の社会派を名乗るノンフィクションライターとは異なり、<u>歴史の大きな流れを押さえた中で、ある事件と事件のつながりや意味付け、必然性を探る</u>というもの。今現在の目に映るものしか興味の対象として取り上げ得ない凡百の一発屋ノンフィクションライターとは教養の厚みが違うということだろう。「昭和」が定められる際のスクープ騒動、森?外の「元号考」への執着、元号や詔勅に関わる学者の背負う重さ、国家の自浄機構としての刑務所、恩赦の問題を扱いながら、猪瀬は、<b><span style='color:#ff0000;'>歴史を知ることの大切さ</span></b>を説いているのだと思う。戦後教育を受けた世代には、実感として掴むのがなかなか難しいのではあるが、日本という国のシステムの深層にある天皇の存在を無視することはできない。この<u>システムは気が遠くなるほどに積み上げられた歴史を内包しており、その慣性は一個人でどうにかできるような小さなものではない。</u>元号は、システムが実世界に接続するインターフェースの一つであるが、システムの重さからフリーではありえないので、例えば機に臨んで新元号を定めるようなときには、その任にあるものは歴史の重圧に翻弄されるであろう。しかしながら、現代の政治家や財界人は歴史を軽視しすぎる。あるいはまったく無知に過ぎる。今の諸問題を<b><span style='color:#ff0000;'><u>現在という微分的な情報処理だけでなんとかできると思うのは愚かである。国の行く末を考えるべき立場にある者は、このことを知るべき</u></span></b>である。

  • 天皇の崩御という国家にとっての一大事は、どんな影響をあたえるのか。天皇崩御と、その中で生き抜く人々を、”改元””大喪””恩赦”の3つの視点から、描いている作品。

    その中でも「棺をかつぐー八瀬童子の六百年」が特に興味深かった。
    現代は、過去の伝統の意識が希薄になってきていて、その反論として、伝統を守れと言われている。

    八瀬童子も伝統とともに生きてきた。「だが、伝統をかたくなに守りとうそうとしたのではない。p171」「八瀬の村びとは比叡山延暦寺との山林所有をめぐる事件をきっかけとして、彼ら自身の神話を持つことになる。p131」

    時代は変化する。これまでは、伝統を意識することなく忘れ、どちらかと言うと捨てる方向できた。しかし、大きな事件や困難を前に、その根拠に歴史、伝統を利用する活かすことは解決する力となる。

    八瀬童子は、生き抜く為に、むしろ伝統を、生活のために利用して生き抜いてきた。今こそ、困難な時代だから、日本の伝統や歴史を、むしろ、利己的に利用して良いと思う。

  • 元号制定の経緯、八瀬童子の役割、最後のクーデター。うーん、知らなかったことばかり。こんな文章書く人だっだんだ。

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著者プロフィール

猪瀬直樹
一九四六年長野県生まれ。作家。八七年『ミカドの肖像』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。九六年『日本国の研究』で文藝春秋読者賞受賞。東京大学客員教授、東京工業大学特任教授を歴任。二〇〇二年、小泉首相より道路公団民営化委員に任命される。〇七年、東京都副知事に任命される。一二年、東京都知事に就任。一三年、辞任。一五年、大阪府・市特別顧問就任。主な著書に『天皇の影法師』『昭和16年夏の敗戦』『黒船の世紀』『ペルソナ 三島由紀夫伝』『ピカレスク 太宰治伝』のほか、『日本の近代 猪瀬直樹著作集』(全一二巻、電子版全一六巻)がある。近著に『日本国・不安の研究』『昭和23年冬の暗号』など。二〇二二年から参議院議員。

「2023年 『太陽の男 石原慎太郎伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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