イモータル (中公文庫 は 66-2)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 901
感想 : 91
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  • Amazon.co.jp ・本 (363ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122060395

作品紹介・あらすじ

インドで消息を絶った兄が残した「智慧の書」。不思議な力を放つその書に導かれ、隆は自らもインドへと旅立った…。ウパニシャッドからショーペンハウアー、そして現代へ。ムガル帝国の皇子や革命期フランスの学者が時空を超えて結実させた哲学の神髄に迫る、壮大な物語。『不滅の書』を改題。

感想・レビュー・書評

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  • 萩耿介『イモータル』中公文庫。

    この作品も以前から本屋で山積みになっていて非常に気になっていた。最近、近所の古本屋の百円文庫コーナーで発見し、購入。

    現代と過去、宗教と哲学が交錯する難解混沌混迷の物語。確かにスケールは大きいが、小説として昇華し切れていない感じがした。つまりは面白くないということなのだが。学生時代に講義を受けたインド哲学を思い出す。

    大手不動産会社に勤める滝川隆は嫌な雰囲気の職場に鬱屈とした日々を過ごしていた。隆の高校時代にインドで消息を経った兄が残した『智慧の書』が持つ不思議な力に導かれ、隆は兄の姿を求めてインドへと向かう。自分は一体何者なのか……

    現代よりも、過去の『智慧の書』の生い立ちを巡る物語の方が圧倒的にボリュームが多い。

    『不滅の書』の改題・文庫化。

    本体価格820円(古本110円)
    ★★★

  • 面白かったんやけどな。
    個々の話は大変面白かった。臨場感というか、その時代の生き様が伝わってくるし、ショーペンハウアーの出てくるとことか良い場面やったと思う。シコーも切なかった。

    ただし。
    全体的な繋がりがよく分からんかった。
    三つの話が全く違うから、最後でピタッっと繋がるのかと思って読み進めたけど、そんなこともなく、不完全燃焼な感じ。
    極論デュペロンのとこ要らんかったぐらいの感じちゃうか。(一冊の本として全体的に見ての話。智慧の書に関するショートストーリーとしては素晴らしい)
    最初から「智慧の書にまつわるショートストーリー集」として出せば、個々の話も微かに繋がってて、良い出来やなぁって感想を持ったと思う。
    なのに、「智慧の書に関する壮大な物語」言うて売り出してるから、個々の物語の繋がりの薄弱さに対して疑問符が付いてしまった。
    智慧の書に導かれ、兄を追ってインドに行くっていうのがメインなんや、という認識をさせる帯書きやったけど、それはそこまでインパクトのある配分では無かったような気もする。

    読み方が浅いのかもしれんが。

    あと、表紙の写真はインド象じゃなくてアフリカ象だ。モヤっとする。

    いろいろ言うたけど、面白かったんやけど。

  • なかなか不思議な、幻想的な一冊でした。

    「智慧の書」を介して現在、18世紀フランスの革命、17世紀インドのムガル帝国とまるで3冊を同時読みしたかのような感じです。

    本作の主人公は隆なんです。

    その隆の兄はインドで消息を絶ち、そんな兄が残した「智慧の書」を手にしたところから不思議な世界が始まります。

    当然、過去の時代には隆は登場しません。

    難解だからこその「哲学」。

    己が未熟故に、まるで歴史物語を読んだのかと錯覚さえしてしまう。



    説明
    内容紹介
    18世紀フランスの革命、17世紀インドのムガル帝国――兄の遺品の中から見つけた一冊の本が導く、言葉と哲学の時空を超えた闘い。
    内容(「BOOK」データベースより)
    インドで消息を絶った兄が残した「智慧の書」。不思議な力を放つその書に導かれ、隆は自らもインドへと旅立った…。ウパニシャッドからショーペンハウアー、そして現代へ。ムガル帝国の皇子や革命期フランスの学者が時空を超えて結実させた哲学の神髄に迫る、壮大な物語。『不滅の書』を改題。
    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    萩/耿介
    1962年東京生まれ。早稲田大学第一文学部ドイツ文学科卒。2008年『松林図屏風』で第二回日経小説大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  • 宗教 哲学 歴史

    主人公の男性がインドで亡くなった兄の謎を探る旅にでる。そして残された『智慧の書』をめぐり、執筆したムガル帝国の皇子のストーリー、フランス革命の時期に翻訳をした学者のストーリーの構成になっています。
    現在ではなく過去の話の方がボリュームがあります。

    私には難しく全てを理解した訳ではないが、宗教や哲学、歴史に触れられて神秘的な気持ちになりました。

  • 小説として、各章それぞれは、面白かった。
    読みやすく描写も生き生きとしていて惹き込まれたので一気に読み進めることができた。
    でも、一冊の物語として読み終えた感想としては、モヤっとしている。

    各章に描かれている主人公たちが直面している問題が、共感できるものだった分だけ、物語全体の主題となる筈の「賢者の書」に記されている内容がそれに釣り合うものなのか、自分の中に納得感が生まれなかった。

    私がもっと哲学に精通していて、ウパニシャッドの実体を理解していないまでも、凡そこんな内容が書いてある、といったことを知っていれば、もっと違ったのだろうか。

    デュペロンの章の「言葉」と「金」についての、それぞれの哲学と人間ドラマは、とてもドラマチックで面白かった。
    そこから、また現代に戻るのかと思いきや、更に遡るとは思わなかった。

    シコーの章の「神」と「この世」の有様も、構造として面白かった。この世で対立していた弟ではなく、占星術師を対立する存在として書いてあったところは、なぜなのか、私には自分なりに解釈しきれていない部分ではあるけれど、「生き方」「あいまみえぬ哲学」に主題をおいたものであれば、そういうものか、とも思う。

    ただ、シコーの章を読み終えて、これから、物語の中心線に戻るのだろう、この前提から、日本人の主人公はどう動いていくのか、という期待をもって次の章に進もうとして、残りページの少なさに愕然とした。

    なんで日本人がインドに行かなきゃならなかったのか?
    デュペロンの章で日本に言及されているけれど、シコーとは関係ないんじゃ?
    あえてインドに行って時空を超えることに、納得感がまるでなかった。
    デュペロンとシコーの章が、現実の存在としての「言葉」を丁寧に扱っていた分だけ、書物や言葉って物理的に時空を越えるためのものではないよね、と感じてしまった。

    各章それぞれが、小説としてとても面白かったので、残念だ。
    読後の釈然としない思いをどうにかしたくて、他の方の感想を拝見した中で、それぞれ別の短編としても良かったのではないか、というのを拝見し、大いに同意した。
    論理的に構造化しようとしたことで、返って、矛盾が大きくなってしまっている印象。

    あと、小説としての感想。
    各章に登場する人物全てに対して、きちんと人格と信念を認めている、いわゆる「モブ」として使い捨てにするような人物が一人もいない描写、その視点はとても良いと思った。
    最近の小説に多い、全ての人間が醜い矛盾した部分をもっているという視点を強調した物語とは違っている。
    だから、読んで良かった。

    あと、女性の描写が上手いと思った。
    各章の主人公たちのどうしょもない部分を受け入れてくれる存在として描かれているのは皆一緒なのだけれど、それを無条件じゃなく、ちゃんと葛藤と諦めの中で受け止めてくれている、というのがリアルで良かった。作者が女性だったら、こんなに綺麗な印象で彼女たちは終わらなかっただろうな、と思う。

  • 本が旅をするという話を聞いたことがある。
    バックパッカーが世界中を旅しながらお互いに本を交換する。ある本は日本からインドに渡り、フランスへと旅する。いつか誰かの手によって日本に舞い戻ったりする。

    イモータルは『智慧の書』の時空を超えた旅の話だ。
    ガンジスの世界観は遠藤周作の『深い河』も想起させる。

  • 世俗の争いに紛れて、途絶えそうになった知の系譜が奇跡的に受け継がれる。ロマンティックです。

  • 読書録「イモータル」3

    著者 萩耿介
    出版 中央公論新社

    p20より引用
    “ わからなかった。真剣に生きた人なら、
    もう一度人生を求めるのではないか。前向き
    な姿勢は変わらないはずだからだ。しかし、
    すぐに気づいた。この世の悪意にさらされな
    がらも真剣に生きた人は十分に疲れている。
    長い戦いを終え、憔悴しきっている。だから
    二度と人生を求めることはないのだと。”

    目次より抜粋引用
    “扉
     言葉
     予感
     信頼
     憧れ”

     時代を越えて伝え続けられる伝承と、それ
    を後世に残すために尽力した人々を描いた長
    編小説。同社刊行作「不滅の書」改題・改稿
    文庫版。
     十五年以上前にインドで行方不明となった
    兄の足跡を追い、インドに入国した隆。兄は
    何を考え消息を絶ったのか、自身の悩み苦し
    みとも混じり合った感情と共に、答えを探し
    て動く…。

     上記の引用は、主人公・隆の兄が残した「智
    慧の書」の中の、赤線が引いてある場所につ
    いての一節。“「思慮深く誠実な人は、その
    生涯の終わりに際して自分の人生をもう一度
    繰り返したいとは決して望まないだろう」”
    という部分に引いてあったとのこと。やり直
    したい繰り返したいと、最後の時に思わずに
    いられるように、精一杯日々を過ごしたいも
    のです。
     主人公は一応現代人の隆なのでしょうか、
    「智慧の書」を現代まで繋げてきた人たちに
    ついての描写が多いので、主人公と言ってい
    いかわかりません。
    時間も場所もあちこちに飛ぶので、読みにく
    く思われます。かといって、時系列順に並ん
    でいたら、それはそれで面白くないのでしょ
    うね。
     この作品を本当に楽しむには、わたしの知
    識は足りていないように思います。歴史・哲
    学に造詣が深い人が読まれれば、もっと評価
    の高い作品ではないでしょうか。

    ーーーーー

  • 時空を超えて旅をする壮大な物語。ただ、哲学の神髄に迫る話ではなかったと思う。

  • 智慧の書(ウパニシャッド)を巡る話

    不動産会社の営業をしている主人公の滝川隆、職場での悩みのために心が折れそうになる。
    そんな彼の前に15年前に失踪した兄が現れる!?
    兄は隆へインドへの旅を進める・・・

    フランス革命の前後に舞台は移り王立図書館で働くデュペロンが二人目の主人公!
    デュペロンを取り巻く人々とフランス革命によりもたらされる熾烈なる運命!
    遠くアレキサンドリアに夢を馳せる婦人の想いや、金こそ神と考える老人との約束!?
    デュペロンの人生もまたウパニシャッドに翻弄される。

    3人目の主人公はムガル帝国の皇子シコー
    シコーは皇帝である父から跡継ぎとして期待されているが、それを良しと思わない弟達と皇位を巡る水面下の争いを繰り広げている。そんな中で彼はヒンドゥー教のウパニシャッドの翻訳を手がける事を始める。
    政治と哲学の間に身を委ねたがために彼もまたその運命に翻弄される。


    ウパニシャッドに関わる主人公達の儚さに心惹かれる。

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著者プロフィール

萩耿介
1962年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部ドイツ文学科卒。2008年『松林図屏風』で第2回日経小説大賞受賞。著書に『炎の帝』『イモータル』(中央公論新社刊)の他、『覚悟の眼』『極悪 五右衛門伝』などがある。

「2022年 『食われる国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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