回想十年(下) (中公文庫 よ 24-10)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (477ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122060708

作品紹介・あらすじ

戦後日本はどのように復興していったのか。吉田茂が語る戦後史の完結編では、ドッジライン、朝鮮戦争特需、一兆円予算、三度の行政整理などの内政面から振り返り、さらに日本が進んで行く道筋を提示する。国会での施政方針演説集、問題発言集等も収録。

感想・レビュー・書評

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  •  「負けっぷりを立派に」。痛快ではあっても作りもののTVドラマ「半沢直樹」と、この言葉をもとにした現実のドラマ「吉田茂」とでは違うという論評を読み、原典にあたってみました。

     「負けっぷりを立派にするということは、何もかもイエス・マンで通すということではない。また表面だけはイエスといっておいて、帰ってから別の態度をとるという、いわゆる面従腹背などは、私の最も忌むところであった。要は出来るだけ占領政策に協力するにある。しかし時に先方に思い違いがあったり、またわが国情に副(そ)わないようなことがあったりした場合には、出来るだけわが方の事情を解明して、先方の説得に努めたものである。そしてそれでもなお先方の言い分通りに事が決定してしまった以上は、これに順応し、時来って、その誤りや行き過ぎを是正しうるのを待つという態度だったのである。」

     初めて首班指名を受けた吉田茂が、鈴木貫太郎大将を訪れ、「戦争は、勝ちっぷりもよくなくてはいけないが、負けっぷりもよくないといけない」と言われ、これを指針にしたそうです。占領期間が短期に終了したことについて、米国人の寛容も一方でありとしながらも、「日本側のいわゆる負けっぷりがよく、帰国した進駐米軍将兵が、日本および日本人について好意的報告をしたことなども大なる貢献をなしたことと思う」と述懐しています。また、同じ土俵での「倍返し」ではなく、「戦争で負けて外交で勝った歴史もある」と、戦いの場を別にしたのも、TVドラマと現実のドラマとでは異なるものと思います。

     出典の「上」巻だけを読む予定が、引き込まれて全巻読んでしまいました。時間軸での「回想」録ではなく、憲法改正、安保、皇室、財政、外交などの項目ごとに、経緯とその時の事情・考え方が書かれています。ソ連の介入で危うく北海道が分離・東独化しかけたこと(マッカーサー元帥が察知してこれを排除)、憲法改正もソ連介入排除のため急ぎ作らざるを得なかったこと、天皇・マ元帥の存在がさまざまに良い影響を及ぼしたこと、などや、そのほかにも現在に至る戦後体制を作った背景や思想が記述されています。

     「外交は権謀術数に非ず」と言い切り、大局的にものごとを捉え、洞察力と胆力に優れながらも、ちょっとお茶目なこうした人物は、いまや見出すのは難しいのではないでしょうか。現代の体制の原点がここに書かれており、「これを読まずして、戦後史を語るなかれ」と言いたくなるほど、素晴らしい出来の一冊(三冊)です。

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著者プロフィール

政治学博士
2011年法政大学大学院政治学研究科修了。衆議院事務局に勤務する。
2005年12月、第3回日本修士論文賞受賞。
現在、法政大学大学院社会問題研究所嘱託研究員

「2012年 『政権変革期の独禁法政策』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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