私の英国史 (中公文庫 ふ 7-6)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122060845

作品紹介・あらすじ

ノルマン人征服以前から、チャールズ一世の処刑(清教徒革命)まで。美徳と悪徳、利己心と虚栄心、愚行と蛮行…、史劇さながらに展開する歴代国王の事績を、公正な眼差しで叙述した、シェイクスピア翻訳者・福田恆存が書きたかった英国史。ジョン・バートン編「空しき王冠」(福田逸・訳)を併録。

感想・レビュー・書評

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  • 福田恆存の見た「英国史の基調音」とは、「宗教的には英国国教会という鵺的なものを生み、道徳的には愛国心と利己心との妥協によって個人の自由を確保し、政治的には中央集権的権力と民主主義を融合させ、心情的には国家主義と国際主義を両立させることによって、ヨーロッパのどの国よりも先に近代国家として出発した」ことをさす。一方が優勢になり他方を圧倒しかけるや絶妙のバランス感覚が働いて行き過ぎを抑えるという事象は、英国史のいたるところで観察できる。恆存が本書を「現代日本の為の英国史」とし、日本にとって「格好な反省の鏡」と言うのもまさにこの点であろう。こうした一見相反するものの両立を可能にしたのは、英国史を貫く三つの二律背反的な基礎条件である。それは第一に、狭い海峡を挟んだフランスとの抗争と妥協、第二に、地理的距離に由来するローマカトリック協会への反発と、にもかかわらず断ち切れない精神的依存、第三に、スコットランドやウェールズといった地域への優越的意識と、それらがフランス王権と結び付いた反乱への脅威である。

    本書は、人間や社会の営みを、エゴイズムと利他心、個と全体、自由と宿命、相対と絶対といった二元論的な矛盾相克として捉える恆存の根本思想が色濃く反映している。恆存自身そのことを否定しないであろうことは『私の英国史』という書名からもうかがえる。「本書が英国の政治や歴史に興味を持つ人々だけでなく、英国文学に興味を持つ人々に読まれることを念じて止まない」と、あとがきに記されているが、本書が恆存の人間観と不可分であり、彼が心血を注いだシェイクスピアやロレンス理解とも通じ合っていることを示すものだ。アンドレ・モロワの『英国史』とともに、イギリス人以外の文芸評論家の手になる英国史の好著と言ってよい。文庫化にあたって付された浜崎洋介氏の解説は極めて周到であり、本書の理解の大きな助けになることを付記しておく。

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著者プロフィール

評論家,劇作家,演出家。東京大学英文科卒業。 1936年から同人誌『作家精神』に,横光利一,芥川龍之介に関する評論を発表。第2次世界大戦後すぐに文芸評論家として活動を始め,やがて批評対象を文化・社会分野全般へと広げた。劇作は 48年の『最後の切札』に次いで 50年『キティ颱風』を発表,文学座で初演され,以後文芸部に籍をおいた。 52年『竜を撫でた男』で読売文学賞受賞。 63年芥川比呂志らと文学座を脱退,現代演劇協会,劇団雲を結成して指導者となる。 70年『総統いまだ死せず』で日本文学大賞受賞。シェークスピアの翻訳・演出でも知られ,個人全訳『シェイクスピア全集』 (15巻,1959~67,補4巻,71~86) がある。著書はほかに『人間・この劇的なるもの』 (55~56) など。 81年日本芸術院会員。

「2020年 『私の人間論 福田恆存覚書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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