怒り(下) (中公文庫)

  • 2346人登録
  • 3.93評価
    • (224)
    • (402)
    • (204)
    • (30)
    • (8)
  • 317レビュー
著者 : 吉田修一
  • 中央公論新社 (2016年1月21日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122062146

怒り(下) (中公文庫)の感想・レビュー・書評

並び替え:

表示形式:

表示件数:

  • 3つの場所での話と殺人事件がどう絡むのかが気になり
    下巻はものすごい速度で読めます。

    ううむ、
    胸の中にどろっとしたようなものが残る作品。
    だからといって読んだ後悔はないけれど。

    相手を信じる大切さ
    もそうなんだけど
    じゃあ信じれば報われるかというとそうでもない。
    信じた人と信じることが出来なかった人、
    どちらかを正解としていないところが良いなと思った。

    ちなみに
    信じることが出来ずに失敗した人は
    反省して今後は相手を信用するかというと
    そうではない気がする。私自身がそういうところがあるからかもしれないけど。

    映画化の配役の観点でいくと
    渡辺謙と宮崎あおいが小説から読む私の印象とは違ったかな。
    もう少しダサい港町の親子なイメージなので
    この2人じゃシュッとしすぎている。

    他は、特に妻夫木聡や森山未來、広瀬すずあたりは適役かなと。

  • 読了後、何とも言えないやるせなさに襲われ、滅入ってしまった。3者3様のささやかな幸せがずっと続いていったらよかったのに、と願わずにはいられなかった。もし自分が愛子や洋平、優馬だったら、素性の知れない田代や直人を信じられたのか。もし泉や辰哉だったら、信じていた田中の本性を知った時に冷静でいられたのかー。人を信じるという行為の難しさを痛烈に感じた。
    信じてもらえなかった愛子、洋平の下から姿を消した田代は最終的には2人の下に戻った。困難もあるだろうが、きっと平穏を取り戻すだろう。直人を信じることができぬまま失ってしまう優馬も、傷が癒えればきっとまた前を向いて歩けるはず。田代、直人サイドは結局、本来何の関係もない殺人事件に翻弄されただけだったのだ。だが、田中を信じてしまったがために、まだ幼い泉と辰哉が最も悲劇的な、取り返しのつかない結末を迎えてしまったことに強く心を痛めた。辰哉の罪が減刑され、罪を償った後は泉と幸せに生きていってほしいと願わずにはいられない。
    ただ、謎も多く残る。山神が犯した殺人事件の本当の動機は結局のところ何だったのか。山神は何に怒り、「怒」の文字を残したのか。山神のサイコパスな一面はどのように形成されていったのか。殺人事件よりもそれに翻弄される人々に焦点を置いた作品とは言え、消化不良感が残った。北見の下から立ち去った美佳の本性も気になる。
    上巻を読んでいる最中は直人が犯人だと自分なりに予想していたが、下巻ではいい意味で裏切られた。読者をはらはらさせる展開も見事だった。
    同性愛、基地問題というテーマが絡んでいたためか、余計に強く感情移入してしまった。発展場や現代のゲイコミュニティの描写は、おそらくしっかりと取材がなされた上での描写だろうと推察される。反面、基地反対運動に関するシーンはもっとリアリティが欲しかった。
    映画のキャストを知った上で読んだので、特に優馬と直人のシーンは妻夫木聡と綾野剛をイメージしながら読み進め、ぴったりのキャスティングだと感心した。映画公開を楽しみに待ちたい。

  • 何だこれは。
    言葉が出ない。遣る瀬無いなぁ。

    殺人事件はオマケみたいなもので、これはミステリーではなく恋愛小説だと私は認識しました。

    ゲイカップル、切なすぎるだろ。。

    タイトルのインパクトが大きすぎて、何だかミスマッチな気がしました。
    沢山の謎とモヤモヤが残ったけれど、コレはコレで良いのかも。
    何とも言えない余韻が残っているので浮上するのに少し時間が掛かりそうだなー。

  • あなたは目の前の、自分が愛した人を信じられますか?
    そんな問いかけを、発する作品。
    信じられなかったため、相手は去って行ってしまう。
    信じていたから、相手を許せなかった。
    あるいは、信じていると言っているにもかかわらず、相手は去って行ってしまう。

    しかし、『怒り』とは?

    終盤、信じることができず、一度は去っていく相手と、再会を果たせる人がいる。ここで、読者は救われる。

  • 喪失感と遣る瀬無さを感じた結末。

    やはり、惨殺事件の犯人・山神一也を中心としたミステリー、サスペンスというよりは、間接的に山神一也に翻弄される人びとを描いたヒューマンドラマだった。

    逃亡を続ける山神一也の正体に驚愕することもなく、『怒』の正体も知ることもなく、読み手に精一杯生きることに対する不信感を抱かせるような結末だった。

  • 一年近く、自分のなかに怒りを飼っていたときがあった。
    心のなかにはいつも煌々と怒りの火の玉が燃えていて
    それが大きくなったり小さくなったり、消えることなく燃えている。
    何かに対して怒っているわけではない。
    その火の玉のぶつける先を、いつも探している。
    飼っているとも棲んでいるとも、
    とにかく怒りが自分のなかにずっとずっとあったことがあった。
    それを人にぶつけないように気を付けていたけれど
    やっぱりどうしても抑えられなくて
    突然怒鳴ったりキレてしまうことが何度もあった。

    それは一年ほどしてふっと抜けていき
    自分の中がからっぽになったのが分かった。
    ああ、これでもう怒らず心穏やかに過ごせるな、と感じて
    それから怒りは私のなかに戻ってきていない。

    私は一年なんとかこの怒りをなだめて(時には失敗もして)きたけれど
    この怒りが強く長く心に根付いてしまうと
    山神のようになってしまうんだな、と思った。

    この小説のテーマは、怒りというより
    人を信じることだと思うのだけど
    自分のなかに得体のしれない怒りを飼っていたことがあった私には
    このタイトルが妙に腑に落ちた。

    それにしても吉田修一さんは
    地方でくすぶっている地味な人たちを描くのが本当にうまくて
    時々息苦しくなります。
    狭い社会の、どこへもいけなさ。
    どこかへ行くなんて考えたこともないような人たちの地域社会。

    自分の娘が幸せになれるわけがないという
    洋平の後ろ暗い愛情、信じきれない部分が
    とても切なくて、彼らには幸せになってほしいなと心から願います。

    久しぶりに、いろいろとしんどい話を読みました。

  • 怒涛に繋がっていく、
    というよりも、
    それぞれの人間が自らの信頼を疑い、
    愛する人物を疑い、
    独りよがりに不安を掻き立てていく様と、
    それらが事件へと集約され、
    何かが起こりそうな恐怖と興奮で、
    一気に読まされ、
    その慄きが頂点に達した時、
    絶望的な結末へと駆け抜けるその疾走感。

    北見の話しを挿入したのは正解。
    そして、希望の回復と、
    これから更に待ち受けるであろう闇との、
    そのまたコントラストが眩い。

    吉田修一節完結、というラストに、
    いやぁ、あっぱれ。

  • 下巻中盤には入り、登場する人物たちの憤りとタイトルがそれぞれリンクしていき、気が付いたら最後まで一気に読み終えてしまいました。しかし、吉田修一作品は映像が浮かびやすく、文庫に巻かれた映画のキャストが、誰が誰と説明なくとも分かってしまう。映画は未見だけど絶対キャスト予想はあたってるはず。他の吉田修一作品ももっと読んでみよ〜。

  • 何に対しての「怒り」なのか、結論が出なかったのが意外。だけど、伝えたいテーマは明快で、多くの読者が同じ感想を抱くであろうわかりやすい物語。

    八王子で起きた若い夫婦の惨殺事件。現場に残された「怒」という血文字。事件発生から1年経てども、犯人の山神一也は捕まっていない。行方知れずの犯人の足取りを捜査する二人の刑事。

    その傍ら、東京・千葉・沖縄それぞれを舞台にして、三様の物語も進んでいく。東京の「直人」、千葉の「田代」、沖縄の「田中」。それぞれに鍵となる身元不詳の三人の男。それぞれの物語は、人物も舞台も重なり合わない全く別の物語。ただ一つ共通しているのは、身元不詳の三人の男が、皆、全国で指名手配となった山神一也にどこか似ていること。

    彼らの周囲にいる人間は、身元を明かせないのは後ろ暗い過去があるからではと疑ってしまう。信じたい心とは裏腹に、彼が山神一也ではないかと考えてしまう。本当に彼は殺人犯なのか。であれば、三人の誰がそうなのか。

    ――こうあらすじを書いていくと犯人当てっこ的な要素が強いように見えるが、そこが論点となるただの推理小説ではないです。登場人物それぞれが、身近な身分不詳の男への信じたいのに信じきれない、じんわり暗い感情に支配されてしまう。その感情が生む人間関係の結末がこの作品のすべて。

    近しい人から信じてもらえなかった時の絶望感、或いは自分を大切に思ってくれた人を信じてあげられなかった時のどうしようもない後悔が胸に迫ります。

    人を信じるって単純な話ではなくて、様々な感情が渦巻いていて、自分ではコントロールできないのだけど、この人は!と決めた人は信じることで守っていきたいと、ぐったりした読後感の中で静かに思いました。

    ただ気になるのは回収されていない伏線。八王子の殺人事件で現場に残された血文字「怒」は何だったのか。なぜ山神一也は殺人を犯したのか。作品内ではこの答えがでないんです。タイトルにもなっている「怒り」は何なのか。

    完全な悪人として描かれている山神一也。でも本当に考え無しの凶悪犯なのか。この作品から感じるメッセージである「人が人を信じること。そして疑われたときの圧倒的な絶望」は、山神一也も同様に感じることではないのか。どうしてもただの凶悪犯とは思えず、吉田修一さんには是非、山神一也エピソード0の執筆を依頼したい次第です。

    ※なお、映画は観ていません。

  • 映画とは違うエンディング。原作の方がリアルで残された人たちの悲しさが苦しい。映画の方はサイコパスなキレっぷりが見せつけられて、あぁこの人ヤバいわ犯人だわ。と伝わりやすく納得させられた気がするのでそれぞれ楽しめたというか重く残るというか。
    映画も原作も最初は誰が犯人?とサスペンスかと思いきや、途中からは単なる犯人探しではなく人を信じることの重さについて考えさせられる。
    吉田さんの作品は読んだあと数日重い余韻が残る。でもそれが段々癖になってしまいまた次作も手に取るのだと思う。
    私も普段自分の周りにいる人たちを本当に信じているのか自問自答…そして平和で平凡な日々に感謝。

    2016.10.12

全317件中 1 - 10件を表示

吉田修一の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
湊 かなえ
宮部 みゆき
吉田 修一
朝井 リョウ
伊坂 幸太郎
有効な右矢印 無効な右矢印

怒り(下) (中公文庫)を本棚に「いま読んでる」で登録しているひと

怒り(下) (中公文庫)を本棚に「読み終わった」で登録しているひと

怒り(下) (中公文庫)の作品紹介

山神一也は整形手術を受け逃亡している、と警察は発表した。洋平は一緒に働く田代が偽名だと知り、優馬は同居を始めた直人が女といるところを目撃し、泉は気に掛けていた田中が住む無人島であるものを見てしまう。日常をともに過ごす相手に対し芽生える疑い。三人のなかに、山神はいるのか?犯人を追う刑事が見た衝撃の結末とは!

怒り(下) (中公文庫)の単行本

怒り(下) (中公文庫)のKindle版

ツイートする