- Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122062146
作品紹介・あらすじ
山神一也は整形手術を受け逃亡している、と警察は発表した。洋平は一緒に働く田代が偽名だと知り、優馬は同居を始めた直人が女といるところを目撃し、泉は気に掛けていた田中が住む無人島であるものを見てしまう。日常をともに過ごす相手に対し芽生える疑い。三人のなかに、山神はいるのか?犯人を追う刑事が見た衝撃の結末とは!
感想・レビュー・書評
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信じること 疑うこと 怒り について問われる。
愛した人を信じきれなかった優馬、愛子。
自分の娘を信じることが出来ない父親、信じていたのに…裏切られた辰哉の怒り、泉のどうすることもできない世の不条理への怒り、そして山神の衝動的な怒り。他、米軍基地を建設された沖縄県民の怒りなど様々な怒りが描かれています。
山神の怒りの衝動の根本を彼視点で読みたかった。
私も人を信じ切ることは苦手だ。優馬や愛子の立場なら自ら逃げてしまうと思う。信じることの難しさや危うさについてとても考えさせられた。
個人的にこれは映画も名作。見直したい。 -
どこまで信じれるか、そして許せるか、後悔を乗り越えられるか、テーマが一貫してました。
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【感想】
人を心から信じる事の難しさ。そして、自分が人に信じてもらう事の難しさ。
それがこの作品のメインテーマでしょう。
物語自体のミステリアスな描写や、真犯人である田中の猟奇性も目に留まったが、やっぱり「信じることの難しさ」が読んでいて痛切に心に残った。
そういう意味で、人と人とのつながりを表すヒューマンドラマだったんだなと読み終わって感じた。
特に、上巻に続き、優馬と直人の友情には心にグっときたね。
結局、二人は死別してしまったが、直人は最期まで優馬の事を信じていて、優馬は直人に対する誤解を解くことができ、そのあたりは読んでいてちょっと涙がこぼれました。
(読者である自分さえ、心のどこかで直人を信じてやれなかったので・・・・)
そして、もう一組の田代・愛子親子のエピソードも、結局は途中で田代の事を信用できなくなってしまったのだが、最終的に元の鞘に収まって良かった。
この2組が特に、相手の事を信じながらも疑ってしまう葛藤を繰り返していたので、月並みな言い方だがハッピーエンドで終えて安心しました。
逆に、田中の最期は呆気なさすぎたが・・・笑
最後に、事件を追っていた刑事も、この3組と同じように「この人を信じきれない」という悩みをプライベートで抱えていて、こちらは他と違ってバッドエンドで終わってしまったのが可哀相だった。
普通に言えばよかったのに。。。笑
ていうか、この吉田修一は「パレード」の原作者でもあるんですね。
映像化されている作品が多くて、素晴らしい作品が多いなぁ。
機会があれば、この作者の別の作品も読みたいなと思いました。
【あらすじ】
山神一也は整形手術を受け逃亡している、と警察は発表した。
洋平は一緒に働く田代が偽名だと知り、優馬は同居を始めた直人が女といるところを目撃し、泉は気に掛けていた田中が住む無人島であるものを見てしまう。
日常をともに過ごす相手に対し芽生える疑い。
三人のなかに、山神はいるのか?犯人を追う刑事が見た衝撃の結末とは!
【引用】
1.中学卒業後、直人は施設を出て静岡県の自動車工場で働きながら定時制の高校に通い、卒業後に都内の小さな旅行会社に転職、国家資格も取ろうとしていた。
だが丁度その頃、心臓に疾患が見つかり、薬を飲みながらうまく付き合っていくしかない病気を持つことになる。
直人は体調が悪くなっていき、勤め先は働き方を工夫してくれたが、結局退職を決める。
優馬はその直後に直人と出会った。
2.上野署から電話があったその前日、上野公園の茂みに倒れていた直人が発見された。
司法解剖の結果、死因は心臓疾患による呼吸停止であった。
上野署から電話があった時、俺はあいつを裏切った。大西直人という男など知らないと言った。
あの時、俺は逃げた。あいつを裏切って逃げたのだ。
【メモ】
怒り 下巻
p231
直人がそんな男ではないと分かっていたくせに、最後の最後で信じてやれなかった。上野署から電話があった時、俺はあいつを裏切った。大西直人という男など知らないと言った。
「知りません。」
あの時、俺は逃げた。あいつを裏切って逃げたのだ。
p252
「このカフェであった時、直人、初めて優馬さんと暮らしていることを私に教えてくれたんです。優馬さんと一緒にいると、なんだか自分にも自信が湧くんだって」
直人は両親2人に愛されて育ったが、4歳を迎えた頃、両親が交通事故で亡くなった。
直人は母親の兄夫婦に引き取られたがうまくその家に馴染めず、数ヶ月ほどで施設に預けられた。
この施設で知り合ったのが彼女だった。以前直人が妹だと言った彼女だ。血は繋がっていないが、今でも兄妹だと思っていると彼女は言った。
中学卒業後、直人は施設を出て静岡県の自動車工場で働きながら定時制の高校に通い、卒業後に都内の小さな旅行会社に転職、国家資格も取ろうとしていた。
だが丁度その頃、心臓に疾患が見つかり、薬を飲みながらうまく付き合っていくしかない病気を持つことになる。
直人は体調が悪くなっていき、勤め先は働き方を工夫してくれたが、結局退職を決める。
優馬はその直後に直人と出会った。
上野署から電話があったその前日、上野公園の茂みに倒れていた直人が発見された。
司法解剖の結果、死因は心臓疾患による呼吸停止であった。
p260
美佳は背中を丸めてしゃがみ込み、段ボールの中の猫を撫でながら、「頑張ったねえ、頑張ったねえ」と繰り返す。
その背中を北見は見つめた。
ふと、誰なんだ?と思う。
今、目の前で泣いている女は誰なんだと。
この背中を信じたい。泣いているこの女を信じたい。彼女が誰であろうと、自分の気持ちは変わらない。目の前にいるこの女を俺は信じている。
「なぁ」
その背中に北見は声をかけた。
「もう、耐えられないんだ。なぁ、俺と結婚してくれないか?調べたんだ君のこと。勿論、悪いと思っている。でも、その上で、君のこと全部知った上で、俺は結婚したいと思っている。一生大切にしたいと思ってる」
もちろん嘘だった。彼女の過去を調べてなどいない。
ただ、彼女がどこの誰で、どんな事情があろうとも、自分は彼女を愛し続ける自信があると伝えたかった。 -
上下、一気に読めた。
詳細を話してくれない人をどうやって信じるのか…自ら話す人だって、もしかしたら嘘かもしれない、それを信じられるか?
問い質して後悔するか、聞かずに後悔するか…
あぁ〜後悔、後悔って…私ってほんとマイナス思考なんだなぁ。
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3つの場所での話と殺人事件がどう絡むのかが気になり
下巻はものすごい速度で読めます。
ううむ、
胸の中にどろっとしたようなものが残る作品。
だからといって読んだ後悔はないけれど。
相手を信じる大切さ
もそうなんだけど
じゃあ信じれば報われるかというとそうでもない。
信じた人と信じることが出来なかった人、
どちらかを正解としていないところが良いなと思った。
ちなみに
信じることが出来ずに失敗した人は
反省して今後は相手を信用するかというと
そうではない気がする。私自身がそういうところがあるからかもしれないけど。
映画化の配役の観点でいくと
渡辺謙と宮崎あおいが小説から読む私の印象とは違ったかな。
もう少しダサい港町の親子なイメージなので
この2人じゃシュッとしすぎている。
他は、特に妻夫木聡や森山未來、広瀬すずあたりは適役かなと。 -
最後に描かれた一人の刑事とありふれたコインパーキング、そして手紙。読み終えて作者の熱量に圧倒された感じがした。田代、直人のいく末、泉の行動、辰也の気持ちに感情がビシビシと揺さぶられた。山神とはなんだったのか?山神の怒りはなんだったのか?北見の心境が重なる。一方で山神が与えた人知れずの影響は生々しくふりかかり、人々を深く傷つけていく。その中で田代が戻ってきた場面は唯一救われた感じがした。最後まで誰が犯人かわからない展開や、人を信じることへの揺らぎについて考えさせられる本でした。大好き度❤️❤️❤️❤️
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人を信じることの難しさ、信じて裏切られた怒り等、考えさせられる作品でした。
最後は少し希望が見えたかな。 -
喪失感と遣る瀬無さを感じた結末。
やはり、惨殺事件の犯人・山神一也を中心としたミステリー、サスペンスというよりは、間接的に山神一也に翻弄される人びとを描いたヒューマンドラマだった。
逃亡を続ける山神一也の正体に驚愕することもなく、『怒』の正体も知ることもなく、読み手に精一杯生きることに対する不信感を抱かせるような結末だった。