江戸看板図聚 (中公文庫 み 27-8)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122062955

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  • ・三谷一馬「江戸看板図聚」(中公文庫)は 著者の図聚シリーズの1冊なのだが、「まえがき」を読むとどうやら遺稿になるらしい。遺稿とは言つてないが、「本書は、父三谷一馬が生前『江戸看板図聚』 と題して描き続けていたものです。」(3頁)とあり、「今までに出版した三谷一馬の図聚と少々趣が異なりますが云々」ともある。つまり、材料は三谷一馬だ が、それを料理(編集)したのは息子だといふことであらう。本書にはほとんど解説らしきものはない。看板が項目別に並べられてゐる。変体仮名で読みにくさ うなのにはその翻字がつくが、それさへもなく、看板だけがその引用文献とともに示されてゐるのが多い。このことは材料、素材提供が三谷一馬であり、それは これが三谷一馬による看板の素材集とも言へるといふことでもある。本書は解説がほしいといふ人には向かないが、素材があれば良いといふ人には嬉しい書であ らう。個人的には解説があれば助かるが、なくてもかまはないと思ふ。だからこれはこれで良い。見てゐるだけでも楽しい。画聚=画集とはそんなものであら う。
    ・個人的な興味に従つて看板を見る。薬の部である。最初に眼科医4種、どれにも両目がついてゐる。これなら一目で目医者と分からう。目薬を売る目医者もあつたらしく、「御めくすり」とか「さし薬」「むし薬」とある。たぶん「むし薬」と読むのだと思ふが、これは目を温めて使ふ薬なのであらうか。説明はない。 次が産婆の看板、これは下げ看板である。しかし、これを看板といふものかどうか。要するにこれは出産時の綱である。「むかしは子を産するに、天井より綱を下げて、産婦は葛籠やうの物に腰をかけて、件の綱を手に取りすがりて子を産む」(267頁)とは「筠庭雑考」である。確かに下げ看板ではあらう。しかし、 こんな引用でもないと分からない看板である。次が中条流、薬の部にあるからには、これは堕胎専門医の看板である。「元祖中条流婦人療治」と大きくあり、両脇に「月水はやなかし」「けんなくは礼不請」とある。単刀直入である。こんな女医者が多くゐたらしいから、江戸の町にはこんな看板があちこちで見られたの であらうか。需要も多かつたであらうとは想像もつくが、ここには2種しか載らない。記録するのがはばかられて後世に残らなかつたなどといふことがあるのかどうか。次が歯と耳鼻である。この最初の看板には「御入鼻」「御入目」とある。入れ歯の看板もあるから、これは現在の義眼、義鼻なのであらう。その実態を知りたいものだが、本書が看板だけであるのが残念である。それがどうであれ、江戸にもこのやうな物を必要とする患者がをり、それに応へる医者もゐたといふ ことである。必要は発明の母であるのかどうか。ここで医者は終はり、次は薬屋となる。反魂丹、万金丹といふ有名な薬以外にもいろいろとある。薬屋には掛け 看板が多いやうだが、業種によつてはさまざまな看板がある。私は看板のデザインよりもそこの文字から知れる内容に関心がある。本書は少なくともこの二つの楽しみ方を提供してくれる。医学関連でも上のやうにあるのである。この1冊にどれほどの情報が詰まつてゐることか。素材を一本にまとめた書であるが、その素材ゆゑに本書は江戸の看板とその商ひの情報の宝庫となつてゐる。ながめてゐるだけでもおもしろいのだが、看板の文字を読みながらその商ひの様を想像するのも楽しい。著者の他の図聚が整理された結果であるの対して、本書は未整理の素材集である。看板といふ物の性質上、それがむしろ幸ひしているのではないかと思ふのだが、いかがであらう。よくぞこれだけ集めてくれたと思ふばかりである。

  • 江戸風俗画研究の大家が広範な資料をもとに精確に復元した看板画、総図版点数千余点。江戸庶民の頓知と洒落、数々の意匠がよみがえる。

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