密教とはなにか-宇宙と人間 (中公文庫 ま 9-6)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122068599

作品紹介・あらすじ

密教学界の最高権威が、インド密教から曼荼羅への変遷と展開、真言密教の原理、弘法大師の知恵、密教神話から、密教の発展、思想と実践について平易な言葉で説き明かす。科学、政治、経済などあらゆる面で混迷する不安な時代を生き抜くためのヒントを密教から見出そう。

感想・レビュー・書評

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  • 僧侶であり学者でもある著者が、密教について研究に基づき客観的な視点で書いた本、であると同時に人生の糧としての密教の魅力も紹介する本。

    原始仏教にヒンドゥーの神々や習俗、中国での理論化なども入り込んだ、いわば丸ごと世界観なのが密教。

    それをさらに日本に合わせて体系化した空海の天才性。

    それでいて、落ち着かない現代人の心のリフレッシュ術としても有益。

    高野山は何度も登山で登ったことがある。
    あの俗っぽいが同時に神聖な雰囲気は、まさに密教そのものかも。

  • 最初の方を読んで、明らかに「聴衆に向かって話している」という調子の文章であると思った。思ったとおりで、本書は講演の記録を集めて校正したという本である。一部は本書の以前に刊行物に掲載された経過も在るようだ。
    そういう訳で、1984年に本書が初登場する以前の時点で話していることなので、1970年代を指して「十数年前」というような言い方になっているというような、少し引っ掛かる場合も在るかもしれない。が、それは然程気にならなかった。初出から10年程を経た文庫化の時点で「初出当時に見受けられた“密教ブーム”という様子は下火になったが、内容に然程違和感は無い」と著者のあとがきにも在るのだが、そこから更に時日を経た現在の時点で本書に触れても、「内容に然程違和感は無い」と思えた。
    著者は高野山大学で研究・教育活動に従事する密教学研究者であり、高野山真言宗の僧侶でもあるという方だ。この著者が幾つもの講演の機会に語った内容は、密教の源流を求める高野山大学のグループによる国外での調査とその調査結果を纏めた研究成果を交えた話題、様々なモノを包摂しながら進むような“東洋思想”という形で古くから現在まで伝わる密教というモノの様相、信仰や信心と人々、弘法大師こと空海の生き様とそれを伝え聞く私達の人生、「学び」の在り方というような具合で多岐に亘る。そしてこれらは「密教」或いはその研究という特殊と見受けられる分野、大学で研究に従事する方の御専門というようなことに留まらず、「普通の人の在り方、人生の指針にも通じるような、普遍的な事柄」であり、そうした事柄が著者御自身の見聞や経験を交えて活き活きと語られていて、なかなかに魅力的であった。
    「深信」と「信解」という話題が在って、それが強く記憶に残った。
    真言密教では、或いは「大師信仰」という中では、色々と伝説的な挿話が伝えられている。流石に「考えられないようなこと…」という事柄も多い。
    そういう事柄に関して、或いはそこまで極端ではないにせよ、宗教が説く事柄に関して、盲目的なまでに「そうなのだ!」と「とにかく信じる」ということが「深信」である。対して、説かれていることの心情を汲むことが叶うようになる、「なるほど、こういうような…」と自身なりに解るということが「信解」である。
    この「信解」という感覚が、古くに説かれ、現在に受継がれているようなモノと向き合ってみるような場合に有効かもしれないと思った。更に、これは世の中の様々なモノと向き合う場合に大切なのかもしれない。
    真言密教は、例えば“俗”と“非俗”とを対立的なモノと観るのでもなく、様々な要素のモノが包摂されてそこに在るというような立場を取るのだという。弘法大師こと空海の生き様も、“俗”と“非俗”の両者の間で力を尽くして「道」を見出そうとしたモノなのかもしれない。
    更に本書の中で何度か用いられた譬えが好かった。
    五本の指は各々に長さや太さが違うが、そうであるが故に手は好く働く。世の中には色々と違う性質のモノが多く在るが、それらが交わってより好くなるということではないのか、という話しである。
    本書の中で、1980年代位に話していることとして本文に現れるのだが「世の中の価値観が揺れている。替りつつある?」という言及が何箇所も在ったと思う。これは1990年代に本書が文庫化された頃にも、間違いなく在った問題意識だ。そして2021年の今日でも?
    真言密教でも、他の何でも構わないが「宗教」とでも言えば、些か申し訳ないが「何やら胡散臭い?」と感じないでもない。が、「古い時代の人達の思索、求道を一定の形に纏めようとしたモノ」という程度に、所謂「哲学」というモノであるとして、「信解」という感覚で触れる分には「存外に有益」なのかもしれない。尤も「哲学」というようなモノは「実益から最も遠い?」と目され、軽視されがちなのかもしれない。が、自身ではそうも思っていない。
    本書を読んでみて、本当に高野山大学で研究・教育活動に従事する密教学研究者であり、高野山真言宗の僧侶でもあるという著者の“肉声”に触れたというような感も抱いたが、古代世界最大の文化人たる弘法大師こと空海がもたらして説いた真言密教という体裁になっている哲学の片鱗を見出すことが、ほんの少しだけ出来たかもしれない…

  • 令和の時代に昭和の講演録を7つ集めただけの本を売るな。チベットへの旅行記なんて読みたくない。もちろん速読モード。

  • 密教学界の最高権威が、インド密教から曼荼羅への展開、真言密教の原理、弘法大師の知恵、密教神話から密教の発展、思想と実践についてやさしく説き明かす。

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著者プロフィール

1929年 和歌山県高野山に生まれる。1951年 高野山大学文学部密教学科卒業。1959年 東北大学大学院文学研究科印度学仏教史学科博士課程修了、文学博士。現 在 高野山大学教授、高野山専修学院長。著 書 『密教の歴史』(平楽寺書店)、『密教―インドから日本への伝承―』(中公文庫)、『理趣経』(同)、『密教』(岩波新書)、『密教・コスモスとマンダラ』(NHKブックス)、『松長有慶著作集』全5巻(法藏館)他多数。訳 書アジット・ムケルジー『タントラ 東洋の知恵』(新潮社)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

「1994年 『密教大系』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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