- Amazon.co.jp ・本 (425ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122070004
作品紹介・あらすじ
昭和十年、秋。笹宮惟重伯爵を父に持ち、女子学習院高等科に通う惟佐子は、親友・宇田川寿子の心中事件に疑問を抱く。冨士の樹海で陸軍士官・久慈とともに遺体となって発見されたのだが、「できるだけはやく電話をしますね」という寿子の手による仙台消印の葉書が届いたのだ――。富士で発見された寿子が、なぜ、仙台から葉書を出せたのか? この心中事件の謎を軸に、ドイツ人ピアニスト、探偵役を務める惟佐子の「おあいてさん」だった女カメラマンと新聞記者、軍人である惟佐子の兄・惟秀ら多彩な人物が登場し、物語のラスト、二・二六事件へと繋がっていく――。
感想・レビュー・書評
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私には難しい漢字の数々に右往左往しつつ、ページをめくる手を止められず、え、え、え、っと作中の情報になんとかついていきながら読了。
政治情勢、国際関係が絡む、いくら聡明とはいえ、とてもじゃないけど華族の娘惟佐子と、かつての「おあいてさん」である千代子の手に負える事件ではないのではないか?とはじめは思わせつつ、主人公だと思って信頼していた惟佐子が妙に勘がよく、徐々に異様というか幻想的でとらえどころのない人物になり、作品全体にオカルトめいた雰囲気が漂うようになるが…
千代子と蔵原のかけあいは、暗い雰囲気の作中で数少ない癒し。唯一の友だった寿子を失った惟佐子を、結果的に俗世に引き留めることになったのが千代子の存在になったことが嬉しかった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
くぅ〜
面白くて、つい一気読みしちゃう
大部な長編にもかかわらず、最初から最後まで同じ濃度で散りばめられた超絶技巧の数々、なんだろうけど、味わう間もなくどうしても次の展開が気になって、先へ先へと進んでしまう。
後でもう一度、とは思うのだけど、読み終わった今となっては充実感でいっぱいなので、戻るのは今度にしておきます、という気分。
最初、惟佐子に感情移入しながら読んでいたのだけど、途中から惟佐子こえーよ、てなり、でも最後にはやっぱり好き、てなりました。あ、でもどうだろう。好きはちょっと違うかな。こわいことはこわいので、お近づきにはなりたくないかも。
たまたまこの前にダロウェイ夫人読んでたのだけと、多分意識的に取り入れたウルフ的語りに、偶然とはいえ、我ながら良い流れで読んだなあと思った次第です。 -
上巻に引き続いて、一気読み。
体に障るというのに…。
千代子と蔵原による調査は進展する。
寿子のはがきに押されていた消印は仙台、けれど死体が見つかったのは青木ヶ原。
時刻表と路線をめぐるミステリーの様相を帯びる。
『点と線』かいな。
寿子の死に関わりそうな人物が鹿沼の紅玉院の庵主を信奉するという接点も浮かび上がる。
惟佐子は巻き込まれながらも、わずかなところで彼らの企図を妨害する。
そして、二・二六事件が起こり、その人物は志を遂げることなく滅ぶことになるのだが…。
「日本人は自ら滅びたがっている」という「彼ら」の主張は、しかしその後の歴史を考える上で、なんとも苦い味わいをもってよみがえってくる。
どう考えてもおかしい選択を、歴史上私たちはこれまでにもしてきてしまっているわけなので。 -
上巻に引き続き、漢字の多さと面白い事を堅苦しく言う表現は面白いと思う。
謎の所が解明されていくので惹き付けられるが、何となく読むペースが上がらなかった。
根幹の部分が少し飛躍し過ぎていると思う。 -
1930年代、軍部が不穏な方向へと傾斜していった頃、それでもまだ日常は平穏で、昭和初期の優美で華やかな風俗の中、男女の心中事件から物語は展開していく。
女学生の惟佐子は、友人が心中などするはずがないと、真相を探っていく。
当の惟佐子は器量も良く、囲碁や数学を物するいわゆる天才で、ただ最初は少し変わった清廉な才女との印象だったが、物語が進行していくにつれ、妖艶で、謎多く、簡単には理解できない様相を帯びていく。
それと共に、物語の進行には、惟佐子の幼時の「お相手さん」であった千代子と、蔵原が据えられていく。
とにかく着物や風景の描写など、当時の言葉、単語が選ばれ、これ以上ないほどに精緻に結ばれている感じが秀逸で、類例のない読書体験だった。
特に惟佐子は魅力的で、その人物像の変化、紅茶に「融解度限界まで」の砂糖を所望する印象的な描かれ方から、次第に物語の周縁に置かれ、その謎と魅力に引き込まれるように展開していった末、最終的には登場すらしなくなる様は、もっと惟佐子の描写を読みたい気持ちを希求され、惹き込まれていったように思う。
普通のミステリーものとは違い、真相解明もわかりやすいものではなく、雪の階での惟佐子の目撃と気付きによってすべてが一気に判明してしまう点は特徴的だったが、その後の惟佐子がどのように生きて行くのか、千代子と蔵原の結婚生活がどうなって行くのか、続編が是非読みたいと思いました。 -
2022.07.14.読了
好き好きだとは思いますが、全く面白くなかったです。
どこがミステリーなのか?全く分からない。
2.26事件についてもなんだこんなものか。。。という程度の扱いだし、ドイツやソ連のスパイについてもおさわり程度。結局この作者は何を伝えたかったのかよくわかりません。
とにかく1センテンスにこめる情報量が多く、かえって何も頭に入ってこない。主語さえ見失ってしまうありさま。読み始めに感じた読み辛さは最後まで引きずりました。
この作家はわたしにはあわない。
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毎日出版文化賞受賞(2018年/第72回)
柴田錬三郎賞受賞(2018年/第31回)