マネーの魔術師-ハッカー黒木の告白 (中公文庫 え 21-6)
- 中央公論新社 (2022年1月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122071674
作品紹介・あらすじ
新自由主義への反逆者か? 廃れゆく伝統の守護神か?
謎の天才ハッカー vs.膨張する金融資本主義
イランの核施設破壊プロジェクト「オリンピックゲーム」にもCIAの情報職として参加した経験を持つ天才ハッカーの黒木が、和歌山の世界遺産・熊野古道の中辺路に現れた。伝統工芸を研究する大学院生・柴田澪と出会った黒木は、彼女をある試みに誘う。彼はそれを「実験だよ、金融資本主義に抗うための」と嘯くのだが――。黒木は、金融市場が拡大し続ける世界を相手に、何を目論んでいるのか? 知的興奮が爆走するエンターテインメント巨篇。
文庫書き下ろし
【目次】
稲妻
気前のいい客
長い長い夜
夜明けの柴田
ツタエテ TSUTAE‐TE
チャンス!
神々の黄昏
また逢う日まで
あとがき
感想・レビュー・書評
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榎本憲男『マネーの魔術師 ハッカー黒木の告白』中公文庫。
文庫書き下ろし。『巡査長 真行寺弘道』シリーズや『DASPA 吉良大介』シリーズにも登場する天才ハッカー、ボビーこと黒木を主人公にしたスピンオフ作品。
最初の謎は、この物語の語り手の『僕』というは誰なのかということだ。真行寺弘道なのか……
謎に包まれていた黒木の過去がついに明かされ、現代の新自由主義に対する黒木の見解と黒木らしい新自由主義への奇抜な挑戦が描かれており、非常に面白い。
新型コロナウイルス感染禍が始まる前の秋、天才ハッカーの黒木が和歌山の世界遺産である熊野古道の中辺路に現れた。そこで伝統工芸を研究する大学院生の柴田澪と出会った黒木は彼女をある試みに誘う。
世界経済は、皆が汗水たらして仕事をしていた産業資本主義の時代から次々とバブルを作り出す錬金術のような金融資本主義の時代へと変わり、黒木は変わり果てた新自由主義の姿に疑問を抱く。黒木は柴田澪を巻き込み、金融資本主義に挑む。
黒木から巨額の資金を得た柴田澪は伝統工芸品の価値を高めるために『ツエタテ』の代表幹事となり、志を同じにする仲間と共に奔走する。故郷の盛岡の誇る南部鉄器も価値ある伝統工芸品の一つとして描かれており、嬉しい限り。
後半では物語の語り手の『僕』の正体は明らかになる。
確かに日本の伝統工芸を始めとする『もの作り』は蔑ろにされている。企業は安直に安価な労働力を求め、海外生産の大量生産で利鞘を稼ごうとするのが常識となってしまった。結果、日本に於ける『もの作り』に関わる労働者は非正規社員の安価な労働力に頼らざるを得ず、労働者の賃金は上がらない。企業は莫大な利益を上げても企業に付加価値をもたらしている労働者には殆ど還元せず、金融資本主義の金子とも言うべき株主にのみ配当金という形で利益を還元している。それでも余った利益はムダな研究開発や流行りのSDGsなどに投資されるのだ。まずは自分のところの労働者を大切に扱ってからのSDGsへの投資じゃないのかと強く思う。
本体価格900円
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ここのところ真行寺弘道シリーズが刊行されないな~と思ってましたが、このようなかたちで出会えた喜びと期待を胸に手に取りました。
しかも本作はハッカー黒木が主役ということで、ますます期待大でした。真行寺弘道シリーズでは第一作こそ登場シーンが多かったものの、その後は真行寺が困ったときにだけ登場する出番少な目のキャラになっていましたが、この作品では思う存分、あの黒木”節”を堪能できます。彼独特の視点による社会の構造をわかりやすくとらえた語りは(ちょっと難解で理解が追い付かないところもありますが)毎回刺激に満ちあふれていますね。
後半では真行寺をはじめとしたワルキューレの面々も登場し、あとがきで著者はスピンオフ作品と称していましたが、真行寺シリーズの一つといってもよいのでは、と思います。
ストーリーのほうはものづくり復権をかけた柴田の挑戦に黒木が資金面でバックアップするというもので、ITや金融全盛の世の中にあって、黒木のいう「気分は中世」や中辺路でちょっと不便な生活を営むあたりも、自分としては嫌いじゃない、むしろ好きな世界観で楽しめました。 -
03月-06。3.5点。
巡査長真行寺、ハッカー黒木のスピンオフ。熊野古道近くに住む、伝統工芸を残そうとする大学院生女子、黒木と偶然知り合い、伝統工芸のためのプロジェクトを。。
面白い。黒木の先読み、用意周到さが良く出来ている。真行寺シリーズの次作も楽しみだ。 -
「DASPAシリーズ」に続く、「巡査長真行寺弘道」シリーズのスピンオフ作品。今回は天才ハッカー黒木が主人公。
やっぱり黒木は魅力的だな〜。自らの頭脳一つで世界を相手に勝負する圧倒的な力とそれに反する軽やかさ。
金融機関の仕事を請け負いながら、金融資本主義が行き詰まった現代社会に危機感を覚え、それでいてニヒリズムに陥らず何かをしようとする姿勢がいい。
日本の伝統工芸に資金を提供することで、物の価値を継承しようという試み。
対する柴田澪という女性は、「ワルキューレ」のサランとは対象的に甘えがあってあまり好きになれない人物だったのが残念。
マネーの魔術師というタイトルだけあって、相変わらず金融の話が多く、素人にも分かりやすくかなり噛み砕いて説明されているけれど、ちょっと息切れ気味。
だけど、現代美術と伝統工芸品に対する黒木の評価には頷ける。単に投機の対象として美術品を扱うオークションビジネスはアホくさと思うし、伝統の技が生きた工芸品を大切に使いながら日常を丁寧に生きるという価値観がもっとあってもいいのにな〜とも思う。
黒木はいろいろな仕事を請け負う中で少し人生観が変化してきたのかなとも思わせる。
さて、真行寺シリーズ、次はどんな作品を見せてくれるのか今から楽しみです。 -
もともと金融資本主義へのアンチテーゼを期待して読んだので、巡査長 真行寺弘道シリーズのスピンオフとは知らず、最初のころは語り手に面食らった。一応 途中で関係者の紹介はあるのでストーリー理解はできたが、シリーズ読んでいないのでキャラクターへの思い入れができず残念。小説としては終盤の盛り上がりに欠けたので星3つ。
金融資本主義へのアンチテーゼとして、普段使う良い物の価値に目を付けているのだが、絵画等の芸術嗜好品に比べてビジネス面でのうれしさがあるのか?という作中での疑問への回答がないまま。何となく売れたみたいだけど、良いものには金を出すという金持ち相手の商売に留まるアイデアで残念。有松搾りを欧州でブランド化に奮闘する新聞記事をみたが、観光地でお土産屋にあるすばらしい着物に感動しても値札みてあきらめる庶民はユニクロで満足するものである。生産者の視点だけでなく、消費者の視点で現在の資本主義をギャフンと言わせるアイディアはないものだろうか? -
真行寺巡査長と吉良大介、両方のストーリーに欠かせない役割を果たしている規格外の天才プログラマー黒木が主役の話。待ってました!
真行寺さんや吉良さんのエピソードの時にもこんなことやってたんだー、としみじみ。
熱くなる白石サランがいい。 -
ハッカーとして登場した黒木さんがメイン。だが、ずっと真行寺さんや吉良さんを読み続けてきた者としたら彼の位置付けとかが曖昧。もっと踏み込んで欲しかった。読み取れない私のせいかもしれないが(苦笑)