死にがいを求めて生きているの (中公文庫 あ 92-2)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (552ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122072671

作品紹介・あらすじ

誰とも比べなくていい。
そう囁かれたはずの世界は
こんなにも苦しい――

「お前は、価値のある人間なの?」

朝井リョウが放つ、〝平成〟を生きる若者たちが背負った自滅と祈りの物語

植物状態のまま病院で眠る智也と、献身的に見守る雄介。
二人の間に横たわる〝歪な真実〟とは?
毎日の繰り返しに倦んだ看護士、クラスで浮かないよう立ち回る転校生、注目を浴びようともがく大学生、時代に取り残された中年ディレクター。
交わるはずのない点と点が、智也と雄介をなぞる線になるとき、
目隠しをされた〝平成〟という時代の闇が露わになる。
今を生きる人すべてが向き合わざるを得ない、自滅と祈りの物語。

感想・レビュー・書評

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  • これは『螺旋プロジェクト』という競作企画の作品の平成バージョンだということを抜きにしては語れないと思います。


    朝井さんの著者インタビューによると、平成では『螺旋プロジェクトで課された「対立」が個人間でも、国を挙げての「対立」も時代を象徴するものが、どちらもなかなか思い浮かばなかった。あるとき、平成はもしかしたら「対立」を排除してきた時代なのかと思ったそうです。

    国が豊かになり、ナンバーワンより、オンリーワンという空気のもと、わかりやすい「対立」はなくなった。でも不思議と生きやすくなったわけではない。このあたりのアンバランス感が気になってきたそうです。
    そして、インフラが整っていない国の人たちからすると「何が生きづらいの?」ということになると思うんです。だけどなぜか、人は「生きている」というだけでは満足できない…云々と続きます。


    それでタイトルに『死にがいを求めて生きているの』という言葉がでてきますが、この物語の青年たちが求めているのは「生きがい」です。


    『螺旋プロジェクト』で対立している海族と山族ですが、山族と思われる堀北雄介は海族と思われる植物状態にある南水智也の看病に通っています。
    どうしてそういうことになったのかが、この作品の内容ですが、私がこういう作品を読み慣れていないせいか、読んでいて面白いというより非常につらかったです。
    彼らは北海道大学の学生でしたが、しきりに「生きがい」を探していました。


    雄介が「生きがい」について語るシーンが443Pにあるのですが(長いので端折りますが)、
    一つ目は生きがいがあって、それが社会貢献につながる人。
    二つ目は生きがいがあるけれどそれが社会に向いてない人。
    三つ目は生きがいがない人。
    に分けています。


    私は自分が二つ目に属すると思います。
    でも「生きがい」がまるでなかったら生きるのはつらいと想像しますが、一つ目の社会貢献につながるほどの「生きがい」がなくても程ほどで生きていけるんじゃないかな。そんな風に「生きがい」「生きがい」って毎日探すより、毎日の方が「生きがい」の中のどこかに存在していると考えられないかなと思いました。

    • まことさん
      naoちゃん♪

      27日、どうぞ楽しまれてください。
      何か他にわからないことがあってらいつでもお尋ねくださいね。
      ひとつだけおせっか...
      naoちゃん♪

      27日、どうぞ楽しまれてください。
      何か他にわからないことがあってらいつでもお尋ねくださいね。
      ひとつだけおせっかいを言うと、テキストが選ばれるにはこつがあるそうです。
      池上先生曰く、講師の先生をお迎えする気持ちでテキストを書きなさい。
      です。
      恋愛小説の名手には、恋愛系のテキストをミステリー作家ならミステリーとその月にいらっしゃる講師の先生に向けてテキストを書いてくださいと池上先生はいつもおっしゃっています。
      naoちゃんならそれだけ守れば、絶対選ばれると思います。
      健闘をお祈りします!
      2022/11/19
    • naonaonao16gさん
      まことさん

      おはようございます!

      27日、申し込みました!!
      楽しみですー!
      まことさん

      おはようございます!

      27日、申し込みました!!
      楽しみですー!
      2022/11/24
    • まことさん
      naoちゃん♪

      なんか、私も嬉しいです。
      確か、以前だと、講師の先生への、質問コーナーや、提出されたテキストに参加者の意見を言ってもいい時...
      naoちゃん♪

      なんか、私も嬉しいです。
      確か、以前だと、講師の先生への、質問コーナーや、提出されたテキストに参加者の意見を言ってもいい時間もとられていたから、積極的に参加できると、思います。
      楽しんできてね!
      2022/11/24
  • 結構なボリュームなのにどんどん読めてしまう。止まらなくなって大変なので1章終わるごとにふぅ、と休憩を入れながら読んだ。

    後半の雄介と智也の掛け合い。勢いがすごい。
    そこに弓削の視点が交錯して、ものすごく読み応えのあるクライマックスだった。

    きっと誰しも若いうちに一度は「生きがい」を求めて、「死にがい」を求めて、もがくよね。

  • ある程度年齢を重ねると、生きがいと死にがいの差異が無くなるような気がする。生きがいの成就が転じて死にがいとなるような。
    その死にがいを朝井さんがどんな風に書かれたのだろうと思っていた。ちょっと、内容が違った。
    小説の冒頭には、読み急ぎたくなるストーリーがある。植物状態となった親友に寄り添う若者の姿。
    そして、そこから、彼らが小学生から大学生まで過ごした平成という時代が丹念に書かれる。各時代の連作短編の構成。ラストは、植物状態と思われていた青年の意思が動き始める。...そして、次の近未来に繋がっていくのだと思うのですが。
    「小説BOC」の螺旋プロジェクトの平成を描いた一冊との事です。プロジェクトの中の小説とは知らず読んでしまったので、途中、朝井さんぽくないなとか、ちょっと変わった挿入話に、無理するな〜。とか、迂闊な感想。共通のルールがあるんですね。
    素晴らしいメンバーのプロジェクトですので、全部読んで、全作品が繋がる瞬間を味わいたいなと思います。

  • 何か生きがいを持って毎日を必死に輝いて生きている人ってどれくらいいるのだろうか。
    生きがい、死にがいって何だろう・・・
    誰かと比べる、競うことでしか自分を証明できない雄介とそんな彼を傍で見守っている智也。
    全く似ていない二人はどうして一緒にいるのか・・・
    読了後にタイトルにある「死にがい」の意味が分かったような気がしました。
    生きがいないなら、死にがいを求めないと自分という存在・価値を見失ってしまう。
    どちらも自分の存在価値を示す指標にはなるが、
    そもそもそんな大それた指標なんて必要なのだろうか。
    生きていく上で大切なことは生きがいや死にがいを求めることではなく、
    自分の存在は自分が認めて、自分で価値を見出すことではないのか・・・
    とか綺麗事を言って自分を納得させ、結局は全て妥協や甘えなのかもしれないと思う自分もいます。
    ですが、今はその不安定な現実を自分が認識している、
    受け入れようとしているところまでで充分なのかのとも思います。
    そんな風に思えたこの本は自分にとって大切な一冊となりました。

    • 傍らに珈琲を。さん
      もりひろさん、こんばんは!
      初めまして。

      いいね、を有難う御座います。
      生きていく上で大切なことは…のくだり、同感です。
      私も、自分の事は...
      もりひろさん、こんばんは!
      初めまして。

      いいね、を有難う御座います。
      生きていく上で大切なことは…のくだり、同感です。
      私も、自分の事は自分自身が認めて価値を見出だすことだと思います。

      とは言え。
      正しいかどうかは別にして、こんなにも読者に疑問を投げ掛け続ける作品を描ける朝井リョウさんって素晴らしい作家さんですね。
      こうして読者の皆さんと意見を交わし合える機会に恵まれたことも、嬉しく思います。
      2023/01/26
    • もりひろさん
      傍らに珈琲を。さんおはようございます!!

      コメントありがとうございます!!
      本当に朝井さんの作品には感情が揺さぶられます・・・
      そ...
      傍らに珈琲を。さんおはようございます!!

      コメントありがとうございます!!
      本当に朝井さんの作品には感情が揺さぶられます・・・
      そしてエッセイとのギャップも・・・!!!笑
      そんな読書体験ができるのって幸せだなーと、そんな本と出会う度に読書が好きでよかったとしみじみ感じます(^^)
      2023/01/26
  • 「螺旋」プロジェクトの3冊目。最初に読んだ「シーソーモンスター」の二つの話に挟まる平成の時代の話。

    冒頭、植物状態のまま病院で眠る智也と、それを献身的に見守る雄介の姿が描かれる。
    そこから過去に遡り、彼らの周りにいた小中学校や大学の同級生(転校生の男子、智也と同じ水泳部の女子、主宰する活動で注目を得ようとする男子学生)などとの関わりを通じて、二人の関係が描かれていく。
    冒頭の描写を見ていると、常に競ったり比べたりすることで自らの存在をアピールし続ける雄介とそれにつかず離れずで付き合い続ける智也の姿には違和感が漂い、これらが冒頭の話へどうつながっていくのかを知りたくて頁をめくる。
    登場人物の目の色や耳の形に、海山伝説の風評なども織り交ぜられた、このプロジェクトならではの趣向が施され、通常とは異なる楽しみもあり。

    読み終えてしまえば、巻末の『特別付録』で作者が言う、「対立」を排除してきた平成という時代とその闇がよく表現されていたことが分かる。
    私らの若い頃は色んな順位付けがあったが故に自らの得意不得意、他者との位置付けが認識でき、自ずと目標とすることが形成されたように思う。
    「自分らしさ」よりも「男らしさ、女らしさ」が求められる世界の中で、ランク付けの結果それぞれに与えられたポジションで生きていくのは、それはそれで大変なことではあったのだが、比べてみれば、なるほど、順位付けのない社会では、他者との比較を自ら客観的に行わなければならず、色んな選択肢の中から自分であるべき自分を見つけていかなければならないのもなかなか難しいことだと思える。
    分断による線引きで自分の存在を主張したり、社会や他者に対して攻撃的になりがちなのもむべなるかなと思えるが、それでも、違いで線を引くのではなく、別々なものとして共に生きて生きていくためにはどうすればいいのかを考えたい、という作者の考えに首肯する。

    • 傍らに珈琲を。さん
      ニセ人事課長さん、こんばんはー!
      先日はいいね&フォロー有難う御座います♪
      直ぐにフォロー返ししましたが 笑

      螺旋プロジェクト、読まれてる...
      ニセ人事課長さん、こんばんはー!
      先日はいいね&フォロー有難う御座います♪
      直ぐにフォロー返ししましたが 笑

      螺旋プロジェクト、読まれてるんですね。
      私もです。
      どっぷりハマって毎回長文レビューになってしまいます←迷惑

      ですが年明けから異常な忙しさ。
      遂に「もののふの国」でストップしてしまいました(涙)
      落ち着いたらまた読書に没頭したいものです。

      それまでは隙間の隙間の隙間時間に、皆様のレビューを楽しませて頂くことにしました。
      ニセ人事課長さん、良いレビューですね。
      読みやすいし、共感部分も多いです。
      こういった共感し合える仲間との出会いがあるので、ブクログは楽しいです。

      暫く更新出来ませんが、今後とも宜しくお願いします♪
      2023/02/09
    • ニセ人事課長さん
      傍らに珈琲を。さん

      こんにちは。
      コメントありがとうございました。恐縮です。

      螺旋プロジェクトは、何も知らずに伊坂さんの作品を...
      傍らに珈琲を。さん

      こんにちは。
      コメントありがとうございました。恐縮です。

      螺旋プロジェクトは、何も知らずに伊坂さんの作品を読み、興味を惹かれたので続けてボチボチと読んでます。
      このプロジェクトでなかったら、大森兄弟さんや朝井リョウさんの本は読むことがなかったように思うので、これも何かの縁かなと。
      次は吉田篤弘さんに行ってみます。

      お仕事、お忙しいのですね。
      体を壊されないように気をつけながら、頑張ってくださいね。
      2023/02/10
  • 初読みの作家さん。
    6人の人生の中に堀北雄介という人物を登場させながら、それぞれの生きがいに向き合い、絡みあっていくストーリー。
    文章は巧みだし、テーマも自分事に引き込んで考えさせるような描写、これが朝井リョウさんなんですね。久しぶりに重厚感を味わいました。





    蛇足
    印象に残った堀北雄介の言葉

    人間は3種類いる
    1つめは、生きがいがあって、それが家族や仕事、自分以外の他者や社会に向いている人。他者貢献

    2つ目は生きがいはあるけど、それが他者や社会に向いてない人。自己実現人間。

    3つ目は、生きがいがない人。
    つらくても愚痴ばかりでも皆とりあえず働くのは金や生活のためっていうよりも、3つ目の人間に落ちたくないからなんだろうな…

    3種類に分ける感じに違和感がある。生きがいがない人に落ちたくないという感覚が、そもそもマジョリティなのかな。自分が自分のためだけにまず存在できていることがすごいことだと思うよ。雄介くん
    生きがいや人生の目標って必要なひともいるだろうけれど、必要ない人だっているんじゃないかな。

    • aoiさん
      傍らに珈琲を。さん、実は螺旋プロジェクトどうしようかなと迷ってたんです。知らない作家さんばかりで。でも、傍らに珈琲を。さんの伊坂さん作品レビ...
      傍らに珈琲を。さん、実は螺旋プロジェクトどうしようかなと迷ってたんです。知らない作家さんばかりで。でも、傍らに珈琲を。さんの伊坂さん作品レビューを拝見して、決めました!面白そう!!確かに、出会いの良い機会ですよね。
      私も遅ればせながら、読み次いでいきたいと思いますー(^^)/

      これから、よろしくお願いいたします♪
      2022/12/27
    • 傍らに珈琲を。さん
      aoiさん、こんばんは♪

      伊坂さんの作品、読まれるんですね!
      私も伊坂幸太郎さん以外、読んだことのない作家さんでした。
      エンタメ作品として...
      aoiさん、こんばんは♪

      伊坂さんの作品、読まれるんですね!
      私も伊坂幸太郎さん以外、読んだことのない作家さんでした。
      エンタメ作品として伊坂さんの小説は大好きで、最初は彼の作品だけ読めればいいかなーなんて思ってたんです。
      朝井リョウさんが人気作家であることは知っていたのですが、タイトルから重そうで迷っていましたし。
      でも伊坂作品を読み終えて気持ちが変わりました。
      例えば音楽であればフェスがあり、同じ思いのアーティストさん達が集いますよね。
      私達はそこで新たな音楽に触れることが出来ます。
      螺旋プロジェクトって、文學界のフェスのようなものかしら?と思ったら、それに乗らない手はないなーと思ったんです。
      もしかしたら、苦手な作風も含まれるかもしれないけど、それもコミコミで楽しもうかなと思ったのです。

      私は、大森兄弟さん、薬丸岳さん、朝井リョウさん、伊坂幸太郎さん、吉田篤弘さんを読み終えて、今は澤田瞳子さんの「月人壮士」を読み始めたところです。
      似たような名前と変わった読み方の漢字に四苦八苦していて、ここへきてペースダウンしてますが 笑

      それでも、吉田篤弘さんの大ファンになってしまって、吉田さんの作品は他にも幾つか読み終えました。

      aoiさん、伊坂作品楽しんでくださいね♪
      2022/12/27
    • aoiさん
      傍らに珈琲を。さん、こんばんは♪
      コメントありがとうございます!!

      そうそう、朝井さんの作品は、タイトルがインパクトありすぎて(重そうで)...
      傍らに珈琲を。さん、こんばんは♪
      コメントありがとうございます!!

      そうそう、朝井さんの作品は、タイトルがインパクトありすぎて(重そうで)、私も手が出なかったんです!
      でも、伊坂さんのも同時発刊だったので、まずは、導入だけでも味わってみるかという淡い好奇心で初朝井さん。(^^;

      傍らに珈琲を。さんの文學界のフェスと捉えれば…に、なるほどと、気が変わりましたよ。

      伊坂さんの作品も、人気のようですし、楽しみです♪

      吉田篤弘さんの作品に大収穫感を味わえたなんて良かったですね。私も、初読み作家さんの作品をドキドキで読んでいきたいと思いますー。(年明けからになりそうですが)

      2022/12/27
  • 初めての朝井リョウ作品。
    タイトルや背表紙の作品紹介等から、当初は読むつもりは無かった。
    けれど伊坂幸太郎のシーソーモンスターを読了後、『螺旋』プロジェクトを一通り楽しむことにした。

    朝井リョウさんの作品は、物語の濃淡が完璧だった。
    初めて触れる朝井リョウ作品に対して、私はそのタイトルから、読み進めるのにこちらが苦しい思いをするのでは?と警戒していた。
    けれど、第一章白井友里子はサラリとした読み心地で、展開もゆっくり。
    やや不穏な空気が漂うものの、読みやすい文章でホッとしながら読んだ。
    続く前田一洋も、次の坂本亜矢奈も、安堂与志樹も、
    其々のキャラクターにイライラしたり、モヤモヤしたりしながら、驚くほどサクサク読めた。

    でも、弓削晃久の章を読み進めるうちに気が付いた。
    サラリとした印象だった内容は、いつの間にか、じわりじわりと濃さを増していた。
    「なるほど。取り巻く人々目線で、海族山族である南水と堀北を炙り出す書き方ね」なんて余裕で構えていたけれど、そんなもんじゃなかった。
    登場人物たちは南水と堀北を眺めながら、リアルさを持ってこちらに様々な問題提起をしていた。
    物語の中で時が流れ、別章の人物が再び現れては繋がり、絡み、影響し合う。
    気付けば、始めは距離を保ってゆったりとした関係性だった登場人物たちが、物語の本髄(中心)が近付くにつれ、重なりあう程に近付き渦を巻いていた。
    カタツムリの殻皮の『螺旋』のように。
    さらにその渦は、南水智也の父親、いやもっと先代から始まっていると語られ、果てしない歴史と巨大なカタツムリの終わらない螺旋模様にゾッとした。

    海山の対立というだけでなく、個々の人物たちが繋がって絡んでゆく見事な『螺旋』だった。
    それを、現代社会で私達が日々感じている「様々なモヤモヤ」や「生きづらさ」に落とし込みながらストーリー展開してゆくのも見事だった。
    登場人物たちにおける個々の事例にも、沢山沢山思うところあるのだけれど、それを述べ始めたら私個人の考えに偏りすぎて読書レビューからズレていってしまうだろうから、止めておこうと思う。
    ただ、浅はかな方法で不自然に平和に成るよう整えられた現代社会は、いつかどこかでシワ寄せが現れる。
    そのシワ寄せ、もう現れてるなと思う。
    巻末の特別付録を読んで、物語の中なんかじゃなく、現実のものとして怖くなった。

    さて、「死にがいを求めて生きているの」は1つの作品として楽しめたし、朝井リョウさんの凄さも堪能出来たし、ますます今後の『螺旋』プロジェクトが楽しみだ。

    【蛇足】
    様々な本を読んでいると、不思議な感覚に襲われることってないですか?
    全く別の作家さんの作品なのに、先日読み終えた小説の主人公の名前を、今日読み始めた小説の冒頭で見つけたり。
    ふと本を開いたら、私自身のちょっとした悩みに対しての答えが書かれていたり。
    こういう感覚も、パレイドリアの一種なんでしょうかね。
    偶然とは分かっていながらも、自分だけの特別な啓示のようで、こういう感覚が訪れた瞬間が楽しい。
    で、「死にがいを求めて生きているの」を読み終えた翌朝、読み掛けだった木下龍也さんの歌集を開いた時、それが訪れた。

    「生きてみることが答えになるような問いを抱えて生きていこうね」

    「死にがいを求めて生きているの」を読み終えて、暫くあーだこーだと考えを巡らせていた私にとって、全く別の角度から優しく助け船を出されたようで、あたたかい気持ちになった。

    【追記】
    伊坂さん→朝井さんの順で読んだら、当初書こうとしていた内容が1つ飛んでしまった 笑
    もしこれから伊坂作品を読まれる方がいらしたら。
    「目覚めない南水を見舞う堀北」この構図が、伊坂作品で、「別の人物たちが違った思いを持った見舞いの形」として回収されます。
    勿論、その人物たちも海族と山族です。

  • 何ものにもなれない自分、嘘でも自分の存在が特別な者であると認めてもらいたい自分。
    そんな登場人物に同情や嫌悪感、そして共感も覚える。
    でも認めてもらった先には自分の事を自分は認める事は出来るのかな。
    安心が欲しい、生きている意味が欲しい、死ぬ時に自分の人生はこれで良かったのだと思いたい、どれなんだろ。
    認めてもらうってどういう事なんだろう。

  • 朝井リョウさんの作品、「スター」がかなり面白かったので引き続き本作も購入し、読了…(´∀`)

    いやーーー本作、シンプルに超絶おもしれぇーーーwwwww( ̄∇ ̄)

    相変わらず朝井リョウ節が炸裂、心はなかなかに疲弊しますが…でも、この頭を強烈にぶっ叩かれる感じがたまりませんね…(笑)

    前提として、ストーリー構成が秀逸だなぁと。

    冒頭から主軸となる壮大なミスリード(と言って良いものかは微妙かもしれないけど)の仕掛け…そして、主人公以外の目線で個々に展開される物語にもしっかりと意外性があって終始楽しみながら読めます。
    そして、それを繋いでいくと最後は冒頭の見え方が180度変わるという…いやー、マジで良くできたプロットだなぁと。

    あとは、まあ何と言っても主題のガツーン部分ですかねぇ…(*´Д`*)

    「生きているだけで良いというまやかし」って端的に、そして的確に急所突いてくる表現だなと…
    一瞬で自身の考えの浅はかさを指摘された気がしました。

    「生きてるだけで良い」って何となく思ってたんですね、自分も…
    そして「一人になっても生きていける」と思っている部分もけっこうあったなと。

    でも改めて考え直してみると、今の自身の精神的な安定をもたらしているものって、家族、職場、友人等から「必要とされてる感」なのかなぁと…
    あくまでも、そこがベースになっているのかなと。

    人間は群れで生活する動物なので、そこを欲する部分が遺伝子的にも組み込まれているかなぁとか…そんなことを思ったりもしました。

    この気付きがあったことが、この本を読んだ一番の価値なのかなと。

    ちょっと、立て続けの朝井リョウ作品で精神がそこそこに削り取られて来たので、次はさくらももこさんあたりで回復を図ろうかな…(*゚∀゚*)


    <印象に残った言葉>
    ・明日は絶対に出会える、その次の日は絶対に出会えるって、1日ずつ、クッキーの生地みたいに、命を引き伸ばしていくんだよ。そしたらきっと、その毎日がすっごくつらかったとしても、ただの繰り返しだとは思わない。ああ、この瞬間のためだったんだって笑う日のための積み重ねだって思える(P44、堀北)

    ・あの人、こういうこと毎日やってんのかな(P165、礼香)

    ・それ、多分、恋じゃない(P180、南水)

    ・相変わらず、手段と目的が逆転してる(P247、同級生)

    ・というわけで、こうやって喋って満足するだけのおままごとはもう、終わり(P285、李)

    ・雄介は見つけたんだ、次の生きがいを(P338、南水)

    ・この人、無人島に行って命の大切さに気づいたとか言ってましたけど、本当は、命の大切さに気づいた人になりたくて無人島に行っただけなんですよ。順序が逆なんです(P434、久留米さんの娘)

    ・担ぎたくないなら担がないでいいんだよ、担がない自分を認めてあげられれば(P441、南水)

    ・俺、人間は三種類いると思ってる。一つ目は、生きがいがあって、それが、家族や仕事、つまりは自分以外の他者や社会に向いてる人。他者貢献、これが一番生きやすい。家族や大切な人がいて、仕事が好きで、生きていても誰からも何も言われない、責められない。自分が生きる意味って何だろうとか、そういうことを考えなくたって毎日が自動的に過ぎていく。最高だよ。二つ目は、生きがいはあるけど、それが他者や社会には向いていない人。仕事が好きじゃなくても、家族や大切な人がいなくても、それでも趣味がある、好きなことがある、やりたいことがある、自己実現人間。このパターンだの、こんなふうに生きていていいのかなって思うときが、たまにある。だけど、自分のためにやってたことが、結果的に他者や社会をよくすることに繋がるケースもある。自分のために絵を描くことが好きだった人が、漫画家になって読者を楽しませる、とかな。三つ目は、生きがいがない人。他者貢献でも自己実現でもなく、自分自身のための生命維持装置としてのみ、存在する人。俺、思うんだわ。つらくても愚痴ばっかりでも皆とりあえず働くのは、金や生活のためっていうよりも、三つ目の人間に堕ちたくないからなんだろうなって。自分のためだけに食べて、うんこして、寝て、自分が自分のためだけに存在し続けるほうが嫌な仕事するより気が狂いそうになること、どこかで気づいてんだろうなって(P443、堀北)

    ・雄介が探してるものって、生きがいっていうより、死にがい、なんじゃないの(P446、南水)

    ・ーお前だって、本音では、人は生きてるだけでいいなんて思ってねえんだよ。東京のマンションの一室でそう突きつけられてから、自分も本質的には雄介と何も変わらないと自覚してから、この暗闇でずっと積み上げてきた言葉たち。早く目覚めて、伝えたい。同じ意見を持ってもらうためではなく対話をするために、伝えたい。自分も雄介と同じように、立ち向かう何かに命を注ぐことで、死ぬまでの時間に何かしらの意味を付与していないと不安でたまらないこと。だけどそれは、立ち向かっているものを攻撃して、より対立を深めようという考えではないこと。分断による線引きで自分の存在を確かめるんじゃなくて、完全に混ざり合って一つになるでもなくて、別々なものとして共に生きていくためにはどうすればいいのかを考える、それでは雄介の言う生きがいには足らないだろうか。(P552)

    ・智也の小指が、ぴくんと動いた。(P529)


    <内容(「BOOK」データベースより)>
    誰とも比べなくていい。
    そう囁かれたはずの世界は
    こんなにも苦しい――

    「お前は、価値のある人間なの?」

    朝井リョウが放つ、〝平成〟を生きる若者たちが背負った自滅と祈りの物語

    植物状態のまま病院で眠る智也と、献身的に見守る雄介。
    二人の間に横たわる〝歪な真実〟とは?
    毎日の繰り返しに倦んだ看護士、クラスで浮かないよう立ち回る転校生、注目を浴びようともがく大学生、時代に取り残された中年ディレクター。
    交わるはずのない点と点が、智也と雄介をなぞる線になるとき、 目隠しをされた〝平成〟という時代の闇が露わになる。

    今を生きる人すべてが向き合わざるを得ない、自滅と祈りの物語。

  • 社会に貢献しないと生きる意味がないと私も若い時は思っていました。だからこそ福祉の現場で頑張っていた。でも今は違う。平成真っ只中生まれの娘達を育てていて思う。その人が存在することに価値がある。どんな活動していようが、その人の価値は活動では決まらない。周りの人を愛して愛される人に成長していく姿を見て母は嬉しい。
    どんなに距離を置いても関わり合ってしまう螺旋状態。お互いが気持ち良く過ごせるようにというのはいつの時代も課題。

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著者プロフィール

1989年岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』で、「小説すばる新人賞」を受賞し、デビュー。11年『チア男子!!』で、高校生が選ぶ「天竜文学賞」を受賞。13年『何者』で「直木賞」、14年『世界地図の下書き』で「坪田譲治文学賞」を受賞する。その他著書に、『どうしても生きてる』『死にがいを求めて生きているの』『スター』『正欲』等がある。

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