小沼丹推理短篇集-古い画の家 (中公文庫 お 99-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122072695

作品紹介・あらすじ

「これは古い池だから、いろんなものが沈んでるだろうな」――江戸川乱歩の慫慂を受け「宝石」に発表した表題作他、私小説の名手が活動初期に書き継いだ、スリルとユーモアとペーソス溢れる物語の数々。巻末に単行本・全集未収録の推理掌篇、および代表作〝大寺さんもの〟幻の第0作「花束」を収録。文庫オリジナル。〈解説〉三上延

【目次】
古い画の家
手紙の男
クレオパトラの涙
ミチザネ東京に行く
二人の男
奇妙な監視人
赤と黒と白
王様
リャン王の明察
[附録 単行本・全集未収録作品]
海辺の墓地
花束

感想・レビュー・書評

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  • 推理小説はあまり得意じゃないけど、これは面白く読めた。解説でも述べられているように、それは私小説や随筆と地続きの表現だからだと思う。あまり人が死なないし、死んでも「殺されて当然」じゃないところがよかった。

  •  小沼丹。講談社文芸文庫で何冊か刊行されていて名前は知っているが、どちらかと言うと通好みの作家というイメージ。
     『黒いハンカチ』が創元推理文庫で出たときに読んだくらい。
     最近の中公文庫は、純推理作家ではない作家さんのミステリ的要素の強い短編作品を編集して刊行しているのが一つの特長だが、本作もそんな一冊。
     とは言っても、雑誌「宝石」立て直しのために乱歩が編集責任者になったのは有名な話だが、乱歩の慫慂を受けて小沼が同誌に掲載した作品が五作もあるとは、ちょっとした驚きだった。

     収録作の多くは、普通人がおかしな出来事に遭遇するという、いわゆる巻き込まれ型のもの。恐喝、窃盗、銀行強盗のような犯罪に絡むものもあれば、男女の出会い的なものなど様々だが、全体的にユーモアにくるんだ文章で、安心して展開を楽しむことができる。
     AはBを殺したく、BはCを殺したく、CはAを殺したいと思っている『赤と黒と白』でも、この三すくみがどうなるのだろうとの期待を高めつつ、結末はあっさりと描いている。

     ミステリー的要素が強いのは、表題作の『古い画の家』だろうか。カッパが棲むと言われる池の側にある古めかしい洋館。夏休みを利用して田舎の親戚に遊びにきた中学生だった語り手はその洋館に興味を持つ。そこに住んでいるのは、病人の男と手伝いの婆や。彼らは果たして何者なのだろう。好奇心に駆られた語り手は度々覗きに行く。そしてある時……。
     文体、内容共に推理的要素が強い作品で、とても面白い。

     『リャン王の明察』。似たような逸話があるようだが、リャン王と犯人?との知恵比べがこれまた面白い。


     〈付記〉
     解説にもあるが、妻を突然亡くした小沼は、作風を転換し、自らに準えた大寺さんシリーズを書き始めた(とのこと)。本書には単行本未収録の幻の第0作「花束
    」が収録されており、編集の妙、文庫オリジナルの良さがある。

  • 当時編集長であった江戸川乱歩からの誘いを受けて「宝石」誌に寄稿した小沼丹の推理短編をまとめた一冊。
    とは言え、ハラハラドキドキするようなものは殆どありません…ああ、小沼丹だなあという、読了後に少し暖かくなるようなものばかりでした。どこまでも優しくユーモラス。

    この短編集の素晴らしい所は、巻末に大寺さんシリーズのプロトタイプが収録されている事!解説にも指摘されていましたが、後の作品のネタになっている部分があるのと、シリーズとして描かれれている作品に比べて、表現が直截的に感じられる点はありますが、大寺さん大好きな方にはおすすめです。

  • 赤と黒と白
    リャン王の明察
    が好き。

  • 「私小説の名手」が作家活動の初期に書き続けた、スリルとユーモアとペーソス溢れる物語の数々。巻末に全集未収録作品二篇所収。〈解説〉三上 延

  • 人死にが出るような陰惨な筋でも、登場人物は善人ばかりのようだし、別人と取り違えられたお人好しが事件に巻き込まれるドタバタの定番的ストーリーでもお話はヒートアップしない。淡々と乾いて、どこか人ごとのようにお話が進む。古い邦画のコメディでも見ているような、ふわっとした味わい。巻末の解説にもあるが、それが持ち味の作家さんなのだろう。

  •  どこかユーモアの漂うのんびりとしたミステリー短編集。ロアルド・ダールっぽい。表題作が一番好み。架空の国が舞台の『王様』も、ちょっと捻った童話みたいな味があって良い。

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著者プロフィール

小沼丹
一九一八年、東京生まれ。四二年、早稲田大学を繰り上げ卒業。井伏鱒二に師事。高校教員を経て、五八年より早稲田大学英文科教授。七〇年、『懐中時計』で読売文学賞、七五年、『椋鳥日記』で平林たい子文学賞を受賞。八九年、日本芸術院会員となる。海外文学の素養と私小説の伝統を兼ね備えた、洒脱でユーモラスな筆致で読者を得る。九六年、肺炎により死去。没後に復刊された『黒いハンカチ』は日常的な謎を扱う連作ミステリの先駆けとして再評価を受けた。その他の著作に『村のエトランジェ』『小さな手袋』『珈琲挽き』『黒と白の猫』などがある。

「2022年 『小沼丹推理短篇集 古い画の家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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