文明と戦争 (下)-人類二百万年の興亡 (中公文庫 カ 8-2)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (616ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122072763

作品紹介・あらすじ

第一一章 ユーラシア大陸の先端――東部、西部、ステップ地帯 
 王の馬兵――時間と空間における馬、歩兵と政治社会 
 封建制とは何か 
 準封建制と中央集権官僚軍事機構 
 国軍歩兵と騎士階級の没落 
 帝国の興亡 
 騎馬戦士とステップ地帯の帝国 
 西洋対東洋 

第一二章 結論――戦争、リヴァイアサン、そして文明の快楽と悲惨 
 強制構造と幾何級数的な発展 
 クィ・ボノ――誰の利益か? 物質的要因 
 性とハーレム
 快楽の園とその門前で炎の剣を握るケルビム〔智天使〕 
 権力と栄光の追求 
 血縁、文化、観念、理想 
 戦争――真剣な目標のための真剣なものか、はたまた馬鹿げたものか? 

第三部 近代性(モダニティ)――ヤヌスの二つの顔
第一三章 はじめに――富と力の爆発 

第一四章 大砲と市場――ヨーロッパ新興諸国とグローバルな世界 
 ヨーロッパの「相争う国家」の出現 
 何が「軍事革命」を構成したのか? 
 国家と軍隊 
 海洋覇権と商業 = 財政革命 
 市場体制と軍事能力 
 印刷工、国民、平民軍 
 近代の戦争――近代の平和 

第一五章 縛られたプロメテウスと解き放たれたプロメテウス――機械化時代の戦争
 技術の爆発的発展と力の基盤 
 富、技術、兵器
 大国と国民国家の戦争 
 帝国の戦争 
 全体主義の挑戦とその敗北の理由 
第一六章 裕福な自由民主主義諸国、究極の兵器、そして世界 
 「民主主義による平和」はあるのか? 
 「民主主義による平和」再考 
 他の関連要因、独立要因 
 自由主義の戦略政策――孤立主義、宥和、封じ込め、限定戦争 
 平和地帯としての先進世界? 
 近代化された社会と伝統的社会はどこで衝突するのか 
 非通常テロと新世界の無秩序 
 結論 

第一七章 結論――戦争の謎を解く 

解説論文――アザー・ガットと『文明と戦争』

感想・レビュー・書評

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  • 上巻に引き続き、激オモ。読了まで5日を要した。でも面白かった。人々がなぜ痛みや苦しみを伴う戦争や争いを行うのか。

    p.185 戦闘の潜在的な危険と費用を前にして、人々が(笑える動物と同様に)戦闘を抑制したのと、同じように、その潜在的な利得が、人々を引きつけ、先頭のスイッチを左右する構造的な感情メカニズムと言う意味で、戦闘を人間の活動における最も対立的なものの1つとしてきた。個人と集団が被る恐れのある死、身体の損傷、物質的損失、そして困窮は、多大な苦痛や怯え、恐怖、苦悩、悲しみ、疲弊、絶望を引き起こした。圧倒的な成功を勝ち得たならば、ごくわずかな疑問符が呈されるだけである。しかし、決定的な勝利と言うのは、案に相違して、歴史の法律と言うよりも例外なのである。軍事的な敵対関係は世代から世代へと持続し、いずれの側もほとんど利益を得ないまま繰り返される。生活における多大な費用、投入資源、富の荒廃は、あたかもブラックホールへと無益に飲み込まれていくかのようである。成功した場合でさえも、歯医者が均衡の回復を再び志向することによって、振り子が元に戻ってしまう。当事者は「囚人のジレンマ」や軍備競争における「赤の女王」のパラドックス、しっぺ返しのもの、エスカレーションの循環(第5章参照)ーーいずれにおいても対立するものが、制限なき競合体制に固定化されたーーのような理論的な道具立てを概念化しなかったが、人々は、それらを鋭く感じ取り、絶望や深い無力感を持って来れに応じた。戦争とは、のたたりであり、真の希望に反して、人々を虜にしてしまう天罰であり、人類に取り付いた破局的かつ、異質にしてーー飢餓や悪疫と並ぶーー自然の力であると言う捉え方が、広く流布してきたのである。

    p.187 キネアスがその次にどうするのかと尋ね続けると、ピュロスは笑って答えた、「我々は平穏に過ごすことができて、毎日満杯の酒を飲み、打ち解けた会話で違いの心を楽しませるだろう」と。当初からその結論を予測していた哲学者は、大が語る、優雅な日々を過ごすために、必要なものをすでにことごとく保有しているのだから、長期の戦争に伴う様々な面倒や危険、苦痛、流血を耐え忍ぶのではなく、どうしてこうしたゆとりを楽しむ特権を今すぐ享受しようとしないのか、と問い返したのである。

    p.191 「往々して争いは、快楽や財産、領土、富、経済的、支配、あるいは、政治的な優越感といった、物質的なものへの執着から生生する。『中阿含経』第1巻第86から第87節で、官能の快楽は、さらなる官能の快楽への欲望を生み、支配者を始めとするあらゆる人々の間で争いを呼び、そして諍いと戦争を招くものとなると釈迦は解いている」。その一方で、禁欲主義、さらには来世的なもの、究極的な報酬を期待した別の世界への思考は、それ自体として平和主義のみならず、好戦性をも体現してきた。というのも、既に見たように、強制による布教は、ある種の精神的なものによって課されたものであり、大義のために戦いに進んで、命を投げ出すものに対しては、現世的なものよりも、壮大かつ純粋な報酬が約束されてきたし、官能に対する自己抑制は、しばしば、極端な頑強さと一途さへと昇華されてきたからである。修道士の戦士が今日では、一般的な関心を集めるものになってきているように、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教(ヨーガ行者)、そして、仏教徒の間でさえ、禁欲的な狂信者が優秀な戦士となってきたのである。

    p.357 原材料に乏しく、対外貿易に過度に依存していた日本は、1930年代初頭の保護主義の高まりに激しく影響受けた。日本は徐々に、自身の帝国ののための必須条件とみなすに至った。日本は満州を奪取し(1930一年)、中国北部に進出したことで、中国との全面戦争(1937年)に巻き込まれることとなった。反対に、中国との戦争における必要性、ドイツに音楽が占領されていたフランスとオランダ(1940年)の植民地の魅力、そしてアメリカの原材料に対する輸出禁止(1940一年)特に席についてが、いわゆる大東亜共栄圏と呼ばれる自給自足可能な帝国の創設に日本が全てかけるように借りられた円分割された産業・商業世界における帝国の経済・戦略的の論理が、日本が当初持っていた計画から大きく離れる原因となった。

    p.546 以上議論してきたことを求めると、産業技術革命、それに引き続いて生まれた自由主義の進展が、戦争の発生率を抜本的に減少させた点について言えば、こうした変化が起こった理由は、暴力的な手段が、競争的な協力と言う平和的手段に比べて、人間の欲求を満たす手段として有効ではなくなったためである。さらに、社会がますます豊かで、満足度の高いものになり、人々の贅沢な欲求が満たされるようになると、彼らは「欲求のピラミッド」を登り、すべての魅力あるものを手に入れるようになる。そうなると彼らは、命や健康の肉体を奪われる危険を犯す動機をますます失ってしまう。豊かな自由主義社会に生活する一般の人々は、こうした変化を必ずしも常に概念化できるわけではないが、それでもはっきりと感じ取っているのだ。その結果、彼らは暴力的な手段を用いることに対して、急速に拒否的な態度を示すにいたり、より平和的な戦略に訴えるようになってくる。核兵器の登場によって、各保有国の間では、こうした挟み撃ち効果を有する軍事力が強化されたが、相互の核抑止が機能しない地域では、こうした過程が顕著に見られたし、今でもその過程は引き続いて見られる。

    p.562 ここで興味深い事実は、ガットが、地球、規模、化された、貿易、経済、相互依存、さらには、こうした社会の平和的傾向により、社会が戦争の負担よりも経済成長を伴う平和の利益を重視している結果として、戦争を忌避(きひ)する方向に動いていると指摘している点である。

  • 国家の勃興、火薬の発明によって戦争はいかに変化したのか? 下巻は軍事革命による戦いの規模と形態の変化を分析、総力戦に至った近代の戦争を検証する。

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著者プロフィール

アザー・ガット
テルアビブ大学政治学部エゼル・ワイツマン国家安全保障講座担当教授。一九五九年生まれ。イスラエル・ハイファ大学卒。テルアビブ大学(修士)、英オックスフォード大学(博士)、ドイツのフライブルク大学、米エール大学などで研究や教育に携わる。軍事史及び戦争・戦略研究の分野で著作を発表。著書に自身の過去3冊の研究をまとめた『軍事思想の歴史――啓蒙主義から冷戦まで』(A History of Military Thought: From the Enlightenment to the Cold War [Oxford: Oxford University Press, 2001] )。

「2022年 『文明と戦争 (下) 人類二百万年の興亡』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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