世界の名著 38 ベンサム ミル 道徳および立法の諸原理序説 自由論 代議政治論 功利主義論
- 中央公論新社 (1977年6月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (542ページ)
- / ISBN・EAN: 9784124001181
感想・レビュー・書評
-
ここに収められているのは、
ベンサム:道徳および立法の諸原理序説(1789)
J. S. ミル:自由論(1859)
:代議政治論(1861)
:功利主義論(1861)
ミルの「自由論」「功利主義論」以外は翻訳に当たって紙面の都合上、若干割愛された部分がある。
ベンサムとミルの主著は再読である。
ベンサムのはイギリス功利主義の、おそらく原型と言って良いものだろう。かの悪名高い「最大多数の最大幸福」はこの本の注記のところに出てくる。もちろん、幸福も快楽・苦痛もそもそも計量不可能だし、多数者に含まれないマイノリティの運命がどうなるか心配になるので、このスローガンを現在も有効なものと見ることはできない。
ベンサムは快楽や苦痛などをリスト化して提示してみせる。フーコーが指摘したように、こういった「タブロー化」が当時の知のスタイルだったのだ。それにしても、ベンサムの時代は我々からはあまりにもかけ離れているので、ほとんど同意できないばかりか、へえ、こんな考え方するのか、といった好奇心の対象にしかならないかもしれない。
それに引き替え、ミル「自由論」は、やはり素晴らしい名著である。ここで述べられている自由についての理論の大半は、現在の一般的な常識とほとんど変わらない。
ベンサムの著書からミルの本書を隔てる70年というのは、近代西洋にとってなんと実り豊かな「進歩」の時代だったのだろう。逆に、ミルの著書から現在に至る150年というものは、政治論・社会論的なコモン・センスにおいて、さほど強力な飛躍はなかったということだ。
ミル「自由論」の、とりわけ「言論の自由」の擁護の箇所は、ちょっとくどくどと長ったらしいけれども、胸を打つものがある。
もちろん、ミルは「自由」は社会内の隣人の自由に不当な支障をきたす場合は制限されるべきだ、としている。
こうした自由を目指しつつ、ミルが念頭に置いているのは、各個人の「能力と個性の進展」という大目的である。そこは私が思うに、ちょっと楽観的すぎたかなあと。こんにち、自由を満喫しつつ、大衆はTVのくだらないバラエティ番組や低劣な週刊誌にうつつを抜かしている「だけ」だという状況は、なんだかなあ、とつくづく思う。
ミルは経済学の本も書いているようだが、リカードの受け売りらしい。
自由主義と功利主義、民主主義が資本主義経済とあいまってこの150年を支配してきたが、私たちはどのように総括し、あるいは「先に」進むことが出来るのだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示