臨床認知心理学 (叢書実証にもとづく臨床心理学)

制作 : 小谷津 孝明 
  • 東京大学出版会
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784130111232

作品紹介・あらすじ

基礎研究と臨床実践のインターフェースは,いま,認知行動療法,精神分析療法,森田療法などの機序を実証的に明らかにし,療育などにおける認知心理学研究の実践性を同時に切り拓いている.本書は,臨床に携わる人の絶好のヒント集であり,実証的な認知心理学研究の実践性を確かに示す書である.

感想・レビュー・書評

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  • 幾分か「どっかで読んだお話(CBT絡み)」を含みつつ、
    精神分析や認知リハビリテーションと認知心理学との関連が
    明確&熱意を持って書かれていて秀逸。
    特に、4章、6章。

  • ある本のレビューにこんな記述があった。

    “キリスト教的ではなく,例えば仏教的な洞察力も持ち合わせうる日本人としての柔軟性,そして時空を俯瞰できる視点をもった臨床心理士の育成が望まれる。”

    仏教的な洞察力? 時空を俯瞰? 仮にそういう視点あるいは能力が存在し得るとして,大学院修士課程2年間の即席プログラムでそのたいそうな視点を持つ人材を養成できるのか? 公認心理師は6年間で想定されているが,6年あれば可能なのか? そもそも教員側がその時空を俯瞰できているのか? こういったあやふやなものを払拭せずに「学」を名乗り,有料の相談が成り立つのか?

    本書は臨床に科学性をどう織り交ぜていくべきかの考察であり,宗教との乖離を真面目に深めようとする取り組みだと思われる。

    クライエントのためという意識は同じでも,科学性に対する積極性の濃淡で取り組みは異なってくる。潜在的なクライエントとしては,お金を出すのであれば,科学的なエビデンスに基づくアプローチであって欲しいと思う。

    ちょっと調べると分かることとして,欧米の臨床心理士は,①博士号の学位を有し,②学位取得後1年間の臨床研修1500時間以上(博士課程でも1年間のインターンシップが必要でこれも1500時間以上),③ライセンス試験をパスしないとClinical Psychologistを名乗れない(合格せずに名乗ると法に触れる)。日本は修士号でClinical Psychologistと名乗れるし,科学性も乏しい教員の指導を受ける環境がまだまだ残っている。そういう質・量の差が,職への社会的信頼,職の社会的安定性の差を産んでいると思う。

    *****
     …近年の日本では,臨床心理学と基礎的心理学との交流は希薄である。臨床心理学の側では,基礎的心理学は実践の役に立たないと批判し,逆に,基礎的心理学の側では,臨床心理学は科学ではないと批判する。「科学」対「反科学」の様相を帯びてしまい,感情的な対立ともなってしまう。両者は「共通の言語」を持たず,対話ができない状況となっている。…(pp.1-2)

    英米では,臨床心理学と基礎的心理学の交流が失われるようなことはなく,むしろ両者の関係はより密になっている。このような日本との違いはどこから来るのだろうか? ひとつのポイントは「認知行動療法」にあると思われる。英米の臨床心理士を支えているのは認知行動療法である。認知行動療法は実証的な心理学の申し子である。基礎的・科学的な心理学をしっかり学んだ学生だけが「臨床心理士」の資格を得て,現場で仕事をしている。認知行動療法を身につけた臨床心理士の現場での臨床能力は極めて高い。(p.9)

    日本では,心理療法とカウンセリングは導入されたが,臨床心理学や認知行動療法はまだ導入されていないために,基礎的心理学との交流が希薄なのだと思われる。(p.10)

     行動療法の考え方は狭くて臨床では使いにくいところもあったが,認知療法と合体することにより,治療効果は格段に進歩した。認知行動療法という技法を手に入れることによって,欧米の臨床心理士は,精神科医と対等の立場になれたという (Kuipers, 2001)。認知行動療法は,今や心理学的治療法の世界標準 (グローバル・スタンダード) となっている。(p.14)

    [欧米では]心理学会というひとつの傘のもとで,基礎的な心理学者と臨床心理学者が共存している。心理学会では,臨床心理学への支援を精力的におこない,臨床心理士の指定校を認定したり,臨床心理士の資格制度を統括している。学会の体制がしっかりしているので,臨床心理学が社会に対して多大な貢献ができるようになり,臨床心理士の社会的地位は高くなっている。(p.15)

  • 3024円購入2010-01-07

  • 「実証にもとづく臨床心理学」シリーズの5冊目。テーマは、臨床心理学で扱われるさまざまな現象を「認知」という視点から捉えなおそうという、とても斬新な試みです。
    本シリーズ全体に共通して存在している認識として「現在の日本では基礎的心理学と臨床心理学との交流は希薄だ」という問題意識があります。私も全く同感ですが、では、両者のインターフェイスを構築するには何が必要か。本書は、基礎と臨床の双方が互いに歩み寄る必要性を指摘します。その上で本書は2部に分けられ、前半では臨床が基礎に歩み寄る途として「認知心理学的視点を踏まえた心理療法研究」が、後半では基礎が臨床に接近する途として「精神病理への認知心理学的研究」が、ぞれぞれ紹介されます。
    前半では5種類の心理療法についての認知心理学的アプローチが取り上げられます。しかしその内容を実際に読んでみると、もともと基礎領域との理論的結びつきが強い認知行動療法や認知リハビリなどと精神分析学とでは、やはり基礎領域に対する姿勢に温度差があるような感があるのは否めません。また紙幅の都合からか、ロジャーズを始祖とするパーソン・センタード・アプローチやエンカウンターグループ、さらに言えば子どもを対象とした心理療法などは本書の考察から外れています。こうした課題は今後確実に取り組まれるべきものだと思いますが、心理療法の効果が生ずるメカニズムなどを実証的に検討しよう、という動きが出てきたことは大きな前進だと思います。何よりも、森田療法が思いのほか認知心理学的研究との親和性が高いことには驚きです。
    一方の後半では、「精神病理への法則定立的アプローチ」とでも言うべき研究法が紹介され、とても興味深いものでした。本書の中で取り上げられる、先天盲開眼者の体験世界や聴覚障害者の言語発達といった研究を読んでいると、一見従来の「神経心理学」となんら違わないように思えます。しかし本書が唱える「病態心理学」には「観察によって得られた成果を、障害を持つ当事者だけでなく広く人間一般の心的機能の解明にも役立てる」という大きな特徴があります。そしてそれは基礎領域に新しい知見をもたらすと同時に、臨床領域に「実証性」をもたらしてくれるものとなるでしょう。
    私が読んできた本シリーズの他巻と比べると、本書の内容は「実証性への志向」からややトーンダウンしたな、という印象を受けるかもしれません。しかしそれは、臨床心理学を認知心理学するという試みがまだ生まれて間もない動向であることに理由がある、と思いたいものです。この研究領域のこれからの発展に大いに期待したいですね。

    (2010年3月入手・9月読了)

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