概説現代政治の理論

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  • 東京大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784130320283

作品紹介・あらすじ

この本は、大学で政治学を専攻する学生に、現代政治を理解するのに必要な政治学の理論的枠組みを説明する概説書として書かれたものである。

感想・レビュー・書評

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  •  1991年出版なのでやや古い感じはあるが、今でも読める良書。著者はデューイ『公衆とその諸問題』の翻訳を手掛けているだけあり、ここに関連する第5章「公共性の理論」が勉強になった。
     古代においては可視的な領域だった「公共空間」は、近代において国家の範囲が広くなり社会の同質性を保障できなくなると、擬制的な領域に変質した。そこで政治経済的には、貨幣制度の発展が、公共性の曖昧さを乗り越える共通尺度となり、これが「自由放任主義」という形をとる。
     とはいえ、やはり「公共」は擬制にすぎず、客観的に見える形で実在しているわけではない。そのため、問題は、公共の実在性の認識(何であるか)についてではなく、「それが何であるべきかを判定すること」(137頁)であると著者は言う。しかし解釈問題だとすれば、時の為政者は、その概念を一般市民の利害から離れた仕方で都合よく解釈する恐れがある。それゆえ、公共性の概念は、民主主義の問題となる。著者は、米国における公共性のあり方についての議論に進む。米国の民主主義はタウンミーティングという直接民主政に近い仕方で始まった。
     それゆえ、欧州において擬制的な性格を持った公共は、米国においては単なる擬制的なものではなく、局地的なコミュニティへの参加を介して、「たえず私的なものによって条件づけられながら、実態的なものと結び付けられた形で存在して」いた(140)。上記のデューイの作品は、「現代社会の諸条件のなかでコミュニティ的公共性を再発見しようとした試み」である(141)。
     要点を言うと、デューイによれば、民主主義は公衆の政治である。しかし、局地的コミュニティが崩壊した現代においては、公衆は没落し、「グレート・ソサエティ」だけが残った。これをいかにして「グレート・コミュニティ」として再生させるかが、デューイの課題である。その再生は、単なる集団行動の累積ではなく、個々の市民間のコミュニケーションという共通経験を必要条件とする。
     デューイが考えるように、局地的なコミュニティを介しての政治参加によって公共性をボトムアップしてゆく必要はある。しかし、全国民的な規模の公共への接続の仕方の問題は依然として開かれている。
     結論的に、著者は、憲法(特に基本的人権)がそうした公共性への媒体になりうる、と考える。「基本的人権が共通の関心事になるとき、あるいは個々人がそれぞれの私的要求を基本的人権に結びつけるとき、全国民的な公共は、局地的な公共を基盤として確立されるといってよいであろう。」(146)

  • 入学後初めて買った(買わされた)政治学の専門書。

    ほんとに薄っぺらい脳みその自分には、日本政治史と政治の世界の事情、常識が身についていることを前提に進められる文章に、辟易したのはもはや懐かしい思い出。

    ゼロではなくマイナスからのスタートでこの本を座右にするなんて今の自分なら絶対にしない。

    今でもこの本の内容を自分の血肉にしたとは全然言えないが、大学入学後すぐ苦闘したのがこの本だったのは、いまとなっては逆によかったのかなとも思う。

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