蜂起 〈インティファーダ〉: 占領下のパレスチナ 1967-1993
- 東京大学出版会 (2020年3月28日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784130363013
作品紹介・あらすじ
1987年にパレスチナで起こったイスラエルに対しての民衆蜂起(インティファーダ)はなぜ起こったのか? パレスチナ人の抵抗の歴史と蜂起の背後にあった構造的な変化を,さまざまな史料を渉猟しスリリングに描き出す.パレスチナ問題に新たな視角を提供する画期的な論考.【第9回東京大学南原繁記念出版賞受賞作】
感想・レビュー・書評
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[世界のいまを読む]1(新連載) パレスチナ情勢とイスラエル国内事情 「分離(ハフラダ)」の先に安定はあるのか 鈴木啓之
UP 2021-07 - 東京大学出版会
http://www.utp.or.jp/smp/book/b587272.html
蜂起 〈インティファーダ〉 - 東京大学出版会
http://www.utp.or.jp/smp/book/b497142.html詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
生まれながらにして学者、というのはおそらく極めて稀な存在だ。しかし本書の著者鈴木君は、少なくとも10数年前に大学のキャンパスで初めてあった頃から、既に将来の学者としての風格を漂わせていた。お互い9.11をきっかけとして中東の世界に入り込んで以来、そのままどっぷりと浸かってしまっている。彼はその間、それこそ地を這うような努力を続け、この書を書き上げた。
分かりやすさや白黒はっきりした説明が好まれる昨今の風潮に背を向けるかのように、本書では「なぜ1987年にインティファーダが起こったのか?」と、世に、そしてそれ以上に自分自身に問いかける。その答え”らしきもの”を創り上げるため、日・英・アラビア語の文献資料の海を泳ぎ、現地で関係者にインタヴューし、また先行研究の成果を活用する。決して断定せず、しかし膨大な調査によるファクトに基づいた確からしい主張を積み上げ、他者からの批判を受ける余地を残すその筆致は、圧巻の一言だ。
このようにして描かれた本書だからこそ、私の心をすぐに虜にした。280頁という決して薄くはない本であるのに、4日ほどで読み終わってしまったほどだ。
あとがきに著者自身も書いていたが、次はぜひ、イスラエル側から見たインティファーダの歴史を、彼に語って欲しいものである。 -
インティファーダは突発的・衝動的な出来事ではなく、そこまでの系譜を見れば起こるべくして起こったと理解できるものであり、そしてパレスチナ人一帯の協力、妥協、調整の認識が共有されていたことこそがインティファーダの強靭な基礎となっていたことは本書が提示する重要な歴史である。イスラエルによる一方的な"パレスチナ問題解決"に抵抗し、パレスチナ人というアイデンティティを放棄しない姿勢、具体的活動には驚きの連続だった。そして著者が30代前半でこの本を書き上げたという、中東に対するエネルギーには震えた。
また、販売価格6000円を越す本書を読めたのも大学図書館のおかげである。良い機会となった。