プレートテクトニクスの拒絶と受容: 戦後日本の地球科学史

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  • 東京大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784130603072

作品紹介・あらすじ

1960年代後半に登場したプレートテクトニクスは、欧米では70年代初めには地球科学の支配的なパラダイムとなった。しかし、日本の地質学界ではその受容に10年以上の遅れが見られた。なぜこのような事態が生じたのか。

感想・レビュー・書評

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  • プレートテクトニクスは欧米においては1970年代初めには地球科学の標準的な見解になっていたが、日本の地質学界での受容はそれに10年以上も遅れた。その理由・背景をさぐるのが本書なわけであるが、地団研なるマルクス主義というかスターリン主義にかぶれてしまった組織の活動が、(それだけではなかったにしろ)主な理由として掘りさげられていく。

    自然科学にまでマルクス的な「歴史法則主義」を求めてしまう地団研の思想には、現代の後知恵からすると「本気で?」という以上の感想は出てこないのだが、いまでも社会科学、たとえば経済学なんかは洋の東西を問わず思想というか政治的ポジションと学説が切っても切り離せないようだから、地団研みたいな話を知る面白みはあるかなと思う。人間の知の営みが、いかにそれぞれの時代のパラダイムから自由でないかを知る意味で。格は違うが『磁力と重力の発見』を読んだ楽しみとちょっと近い。

    読んでいて気になったのは1970年には文部省が高等学校学習指導要領の改訂にあたって、旧来の学説に代えて海洋底拡大説や大陸移動説を教えるように舵を切っていたこと。地団研はその方針を批判したし、彼らの勢力の強い大学では依然として旧来の学説にそって授業がなされていたわけだが、それなりに保守的というか慎重であろう学習指導要領の改訂でスルーされてしまうような学説を唱える一団が、自分らの界隈では勢力があったとしても果たして世間一般で見てどれほどの勢力だったのか。たまたま世間の片隅に時代遅れの集団が固まっていただけではとも思える。著者は自身、新聞記者として当時からこのテーマに関わっており、ジャーナリズムの世界でもプレートテクトニクスが当然と思われていたとも。よくわからんのだが地質学界とは別に地球物理学界があって、日本のそれは地震学が世界の先端であったこともあってプレートテクトニクスはスムーズに受容されたと。地質学界≒地団研は言い過ぎでもそれに近いところはあったようなので、日本の地質学界全体の弱さまたは歪みだったのか。なお地団研以外にも東大の木村敏雄という先生がまったくちがう立場からプレートテクトニクスを批判していたそうではある。

  • 日本の地質学の歴史がわかりやすく解説されていたが、戦後、地学以外の科学分野でも地団研のような組織が生まれたのかとか、社会主義国と資本主義国でPTの受容に差があったのかとか、読後いろいろと疑問も浮かんだ。

  • 日本におけるプレートテクトニクス理論の受容についての本。プレートテクトニクス以前の理論について興味があったのでその説明を期待したのですが、私があまりに地質学苦手すぎて理解できませんでしたよ。。地向斜造山論でしたっけ?
    もっともこの本の主題はそこではなくて、日本の地質学界でなぜプレートテクトニクスの受容が遅れたのか?ということ。その理由について著者が分析している点についてはぜひ読んでいただきたいです。特に地球科学を専攻する学生のみなさんは学ぶことが多いと思います。その心は、という部分を一か所だけ引用します。

  • ●:引用 →:感想

    ●ジャーナリズムの世界ではその10年以上前から、プレートテクトニクスが「常識」になっていました。にもかかわらず、プレートテクトニクスを受け入れようとしない地学関係者が少なくないのをどのように理解すればよいのか、大変困惑しました。(中略)プレートテクトニクス反対の背景にあった「弁証法的唯物論」や歴史法則主義的な考え方は、当時の社会のあり方に疑問を抱く学生にとって、慣れ親しんだものでした。(中略)「科学とはただ1つの心理を求める活動である」と理解している人も少なくないようですが、自然を理解するにはさまざまな解釈がありえます。その解釈には、そのときどきの社会・政治的情勢や科学者集団内部の権力・利害関係などさまざまな要素がからんできます。科学とは自然を忠実に模写したものではありえず、科学集団による社会的な営みとしての側面を持つものなのです。「日本でのプレートテクトニクスの拒絶と需要」というフィルターを通して見えてきたのも、そうした現実の人間味あふれる科学でした。現在進行中の科学もこうした社会的なさまざまな要素がからみあって営まれていることを、理解して欲しいと思うのです。
    →権威に対抗する勢力が新たな権威となる皮肉

  • 1960年代後半に登場したプレートテクトニクスが欧米では1970年代初めには地球科学の支配的パラダイムとなったにも関わらず日本の地質学会ではそれを受容するのが10年以上遅れた。
    その背景にあった「日本列島第一主義」、学会におおきな影響を及ぼした研究団体とその方向性などがこの本によって明らかにされている。というか2000年代になってやっと総括してもいい雰囲気になったのであろう。
    文系理系問わずこの手の話ってどこの学会にもあるよね…とかチラッと思ったり。

  • 地球科学におけるパラダイムシフトにおける、当時の状況が詳細に書かれている。科学の大きな流れの中における、自分の研究の立ち位置について考える参考になる。

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著者プロフィール

泊 次郎
泊 次郎:

「2017年 『新装版 プレートテクトニクスの拒絶と受容』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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