こころが折れそうになったとき

著者 :
  • NHK出版
3.63
  • (3)
  • (5)
  • (7)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 42
感想 : 9
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140815434

作品紹介・あらすじ

苦難に直面した人たちを取材し続けてきた著者が考える、よるべない時代を生きるすべとは?「私」を見つめ、「手放さない」ことの大切さを綴る、不思議な浸透力に満ちた一冊。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • この著者は声高になにかを主張する、イデオローグ的な書き手ではない。だが、彼の声は私の心に深く響く。それはこの著者自身が彼が敬愛する鶴見俊輔の思想を身を以て生きている、「実践する」エッセイストであり大げさに言えばアクティビストでもあるからだろう。様々な人びとの声を実に丁寧に拾い、そこから決して蔑ろにすることのできない「ひとりの人生」を立ち上げる。ボブ・グリーンに似ていると言われているそうだが、確かにタッチは似ている。沢木耕太郎的でもあり、しかしカッコつけたところのないリラックスした態度において私は信頼したい

  • とてもナイーヴな題名ですが、内容はそんなことなくて、とっても面白かったです。

    上原隆さんは1949年生まれ(団塊の世代。その特徴が見事に表現されています)横浜市生まれなのに立命館大卒。
    生活のためと割り切って仕事をし、57歳で退社。その前から「書く」という表現を始めたそうです。

    >困難にであったとき、他の人は何によって自分を支えているのだろう。知りたいと思った。
    私はこの問いを手にして、人に会うことにした。
    その時から十数年がたつ。その間に300人以上の人と会い、話をきき、行動をともにし、それぞれの人の自分を支える仕方についてきいてきた。その中で私が感動したものだけを文章にした。ノンフィクションコラムとよばれ、その数は百近くになり、五冊の本となった。
    今回、これまでの百近くの話を振り返ってみようと思った。
    一人ひとりの問題は違うのだが、自分を支える仕方にはいくつかの共通点がある。その共通点を取り出してみたら、少しは役にたつのではないだろうか。
    しかし、それだけでは不十分かもしれない。私が学び感動した書物にも触れることにした。話をききたい人にも会いに行った。

    それは村上春樹さんであり、池澤夏樹さんであり。
    村上春樹さんの本をたくさん読んだわけではないけど、上原氏の言うことは実に的を射ていました。須原一秀さんについては、私は本を予約しました。あらためて書くことになるでしょう。
    「物語化」「自死」「私を掘る」「限界哲学」など、じっくり考えさせてくださる内容が満載です。

  • レビューを見て興味を持ち、読んでみた。
    上原氏の著作を読んだのはこれが初めてである。

    タイトルやレビューから想像した内容とは少し違ったが、読み応えがあった。
    心が折れそうになった時はこうしたらいい、というような
    単純であったり押し付けに近かったりするような内容ではなく、
    どうしたら良いのか、どうするのか、どうしたのか
    ということをひとつひとつのエピソードから、人に体当たりで取材したり
    様々な創作物から引用したりして、人の考え方、そこから得た自分の考えが書かれている。

    これが良いとかあれが駄目だとかいったことはひとつもなく、
    人それぞれのやり方があるのだと実感した。

    将来のことを考えるのは結構だが、その為に今を犠牲にするのは違うと思う。
    自死した哲学者のエピソードは中々に衝撃だった。
    また、自分探しという言葉に対する自分の疑問について、
    明快に書きだされており非常に共感した。
    自分探し自体は否定されるべきことではないはずなのだが
    そこに感じる違和感というのは、どこかへ行けば自分が見つかるという
    安易で他力本願なやり方をする自分探しと、
    自分自身を見つめ直す自分探しとは全く違うものと言えるのに
    一絡げに議論されることが多いからだと思う。

    自分を深く掘り下げていけば、井戸が地下水脈に繋がるように
    外に広く繋がっていうというのはなるほどと思った。

    心が折れそうになった時、自分を支えるのは自分の経験と
    そこから何を得て何を決めどこへ進むかということであり、
    そんな自分を形作ったのは今まで出会ってきた、親をはじめとする周囲の人間関係なのだと思う。

  • 「将来のことを考えては今を生きていけない」という話を訊き、週末に居場所を持たない土曜出社して一日を過ごす男女のことを語る。自死した哲学者の家族や友人を訊ねて、自殺の畏怖を確認する。自分探しの掘り下げ方を就職活動生に探ったり、人が救いを求める啓蒙やスピリチュアルの言葉を、実用面から「限界哲学」と考えてみる。 上原隆自身の、生きることに対する強い関心に貫かれた取材内容にも「共感」することしきりなのだが、共感させられてしまう、「ノンフィクション・コラム」と称する上原の書き物のスタイルに興味を持った。 本書の「「物語化」の力」というコラムで上原自身がスタイルを証している。 「私の考えている「物語化」は、フィクションや理論のことではない。/私の「物語化」は一人ひとりの体験を物語のように組み立てるということだ。そうした作業だということと、フィクションではないということを示すために、私自身は「物語化」といっている。」 上原の考える「物語化」は意味深長だと思った。過去の自分と現在の自分をつなぎ、無意識を意識につなぐ「物語化」によって、人びとの体験を紡ぎ出す。さらに著者は、「物語化」はそれを感動的に紡ぎ出すためだと自覚的である。取材をし上原自身が深めていった感動を前景化することが、著者の「ノンフィクション・コラム」の肝だ。読者に上原自身の感動を追体験させることでしか、人びとの体験を客観的な対象に押し上げることができないと言わんばかりの、著者の自信の表れである。が、共感しなくては摑めない人びとの物語、ひいては、人びとを通じてはじめて見えてくる著者自身の、読者自身の物語があるということを、上原はこの本を通じて「感動的に」伝えていることが重要なのだと思う。

  • 「『自死』という生き方をめぐって」「限界哲学」が面白かった!

  • これまでのコラムは、他者を暖かいながらも客観的に淡々と描写することによって「人が困難に直面した時にどう対応するのか」を書き綴ってきた.
    今回は、一転して自身の内面をさらけ出し、内面を奥のほうまで掘って掘って掘りまくる.
    「良き自分探し」とは内面に向かって自分を掘ること、「悪しき自分探し」とは自分の外側に向けて、どこか別の場所に行けば本当の自分が見つかるのではないかとさまようこと.

    62歳とは思えないような、悪く言うと「青臭い」悩みもどんどん開陳してくれる.

    人がいざというときに頼りにするのは「限界哲学」いわゆる俗な日常にありふれた言葉であるのは納得がいくものであった.
    いかにありふれた言葉であろうとも、その言葉が心に腑に落ちてしっかり根付いていれば、言葉の高貴さや俗さはあまり問題じゃないんだと思う.

全9件中 1 - 9件を表示

著者プロフィール

1949年、神奈川県横浜市生まれ。立命館大学文学部哲学科卒。エッセイスト、コラムニスト。記録映画制作会社勤務のかたわら、雑誌「思想の科学」の編集委員として執筆活動をはじめる。その後、市井の人々を丹念に取材し、生き方をつづったノンフィクション・コラム『友がみな我よりえらく見える日は』がベストセラーとなる。他の著書に思想エッセイ『「普通の人」の哲学』『上野千鶴子なんかこわくない』『君たちはどう生きるかの哲学』、ノンフィクション・コラム『喜びは悲しみのあとに』『雨にぬれても』『胸の中にて鳴る音あり』『にじんだ星をかぞえて』『こころが折れそうになったとき』『こころ傷んでたえがたき日に』などがある。

「2021年 『晴れた日にかなしみの一つ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

上原隆の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×