〈心〉はからだの外にある: 「エコロジカルな私」の哲学 (NHKブックス 1053)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140910535

作品紹介・あらすじ

「心」とは、自己の内に閉ざされたプライベートな世界なのか?環境と影響しあうエコロジカルな「心」という清新な視点から、他者や社会と生き生きと交流する自己のありかたを提示。行動や社会現象の原因を人の内面に求め、不毛な「自分探し」を煽る心理主義的発想を、身体性や他者の軽視につながるものとして批判しながら、「個性」「性格」「内面」など自己をめぐる諸問題に鋭く迫る。社会(環境)を個々人のニーズに合わせて改善し、快適な生活を主体的に形成してゆく展望を示す、自己論の革命。

感想・レビュー・書評

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  • こういう良い本は、誰がどう紹介しても(難解という印象から)あまり読まれないだろうし、そもそもひろく一般に読まれる必要もないので、感想もどうでもいい気がする。

    本書が明らかにしていくのは、
    「自己の本質とは何か」
    「性格や人格とは何か」
    「本当の私とは自分の内面性のことか」
    「個性的とはどういうことか」
    「世界は私の主観的表象なのか」
    といった感じ。

    探偵小説の主人公(フィリップ・マーロウ)をもちいて、「秘密」とは私や社会にとって何かというのを明らかにしていくくだりは読んでいてドキドキした。

  • 実に余剰を削ぎ落とされた鮮やかな手つきで、著者は「この私」に属すると信じられている「心」「内面」「人格」といった要素についてメスを入れていく。アフォーダンス理論などを駆使したその分析から見えてくるのは、ぼくたちの信じる「主観」が実は「外部」にある世界の事物とのインタラクティビティによってでき上がっているということだ。そうして得られた「内と外の相互作用性」という図式から、著者は実に野心的に(ある意味では欲張りにも)「障害は個性か」「性格とは何か」といった問題にまで切り込んでいく。その野心、実に侮りがたく思う

  • NDC(9版) 114.2 : 人間学

  • タイトル通り。
    心は本来その人の外側に有って周りから見えるもの。
    成長するにつれ、少しずつ自分を隠すことを身につけていく。
    「人に理解されない本当の自分」というのは「理解されないように自分で隠してきたごくわずかなもの」で、本当の自分は自分よりも周りの方が良く理解しているもの。
    内面へのこだわりは自分が隠していたものへの強い思い入れでしかないのかもしれない。
    自分に素直になる事がいかに大事で、かついかに難しいかを思い知らされる。

  • J・J・ギブソンの生態学的心理学の立場に基づいて、デカルト以来の近代的な自我に典型的な、「心」を意識の内面としてとらえようとする見方をしりぞけ、「心」は隠れもなく環境や他者とのかかわりのなかに現われているという立場が語られています。

    著者は、人間の行動の原理を、性格や意識、心的内容といった内面に求める「心理主義」の考え方が、どのような社会的・歴史的経緯のなかで生まれてきたのか、またそうした考え方が人びとの社会的・政治的行動をどのように規定しているのかを白日のもとにさらすという、フーコー的な課題にも取り組んでいます。さらに、われわれがテクノロジーも含めた環境とどのような関係を取り結んでいるのかを明確にし、環境をリデザインするような「環境リテラシー」という視点が示されます。ほかにも、教育やビジネスなどの問題に新しい視角をもたらす可能性について論じられています。

    とりあげられているテーマが多岐に渡っているため、一つひとつの問題に詳しい検討がおこなわれているわけではありませんが、生態学的な「心」のとらえかたの実践的な可能性について、多くのことを考えさせる内容になっているように感じました。

  • 途中で頓挫、再度日を改めて挑戦。

  • 駆け足でいろんな論点のつまみ食いであるが、すごく読みやすい。
    専門書であるよりも、むしろ著者が立ち向かった問題意識に沿っている気がして、目的のない読書には向く。
    心理学批判や個性批判については、「それでもなお残るものがあるんじゃないか」とか思ってしまった。心理主義は社会の価値観を投影しているし、内面なんてないと考えた方が、というのは現実的にわかるが、果して芸術創作をするような内面はどのように扱われるのだろうか?
    生態学的自我論はすごく分かりやすく面白かった。この著書の他の文章も読みたいと思わされた。

  • デカルトの心身二元論から生じた、「心理主義」「個人主義」についてギブソンの提唱した生態心理学的な立場から批判的に解説する自己や心についてについての書。

    デカルト的二元論からは、社会問題を個人の内面から見つめ直すという傾向にあるが、本来的に個人は環境の中での相互作用として存在する。そして、生態学的アプローチでは、自己とは徹底的に身体的な存在だと言う。

    生態学的知覚論あるいは生態学的実在論では、知覚においても、より拡大した解釈をしている。それは、知覚が脳の中で表象されたものではなく、環境との相互作用によってなされるものであり、意味や情報はその個が生きる場(ニッチ)に埋め込まれている。

    「障害は個性である」と言う表現に対して、痛烈に批判する頁が非常に面白かった。
    きわめて、コントロールされた言葉であるかもしれないと思う。

    個性とは何かという点、また、身体図式についての解説もかなり深く掘り下げて解説されているので、関連分野に興味のある方は楽しめると思う。

    この本では、自己や心についてかなり深く、また広範囲において議論がなされている。
    生態心理学の書では知覚を中心に語られることが多いが、この本ではより社会的な存在としての自己としてかなり拡大して説明がなされていて、興味深かった。
    また、一貫してデカルト的心身二元論と、そこに束縛された近代科学・社会を痛烈に批判しているので、知覚論より拡大したエコロジカル世界をを学ぶには、よい本だと思う。

    正直、解説はかなり難解だが、読みかえすことによって、深く考え直すことができた。

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    【内容(「BOOK」データベースより)】
    「心」とは、自己の内に閉ざされたプライベートな世界なのか?環境と影響しあうエコロジカルな「心」という清新な視点から、他者や社会と生き生きと交流する自己のありかたを提示。行動や社会現象の原因を人の内面に求め、不毛な「自分探し」を煽る心理主義的発想を、身体性や他者の軽視につながるものとして批判しながら、「個性」「性格」「内面」など自己をめぐる諸問題に鋭く迫る。社会(環境)を個々人のニーズに合わせて改善し、快適な生活を主体的に形成してゆく展望を示す、自己論の革命。
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    【目次】
    序論 心理主義の罠
    第1章 環境と共にある「心」―ギブソンの知覚論から
    第2章 なぜ「自分探し」に失敗するのか―「性格」という自縛
    第3章 行動すなわち心―「内面」へのエコロジカル・アプローチ
    第4章 なぜ私はかけがえがないのか―「個性」を考える
    第5章 世界は私の表象だろうか―身体図式と所有
    終章 身体と環境のデザイン―「真の自分探し」に向けて
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  • 良い書き手だ。面白い。

  • 学生時代に講義を受けた教授の著書。

    『自分探し』『個性』など、一種の流行語のようになっているが、その言葉の本質に迫っている一冊。

    図書室でたまたま見つけたが、また学生時代のように哲学に浸りたくなった。

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著者プロフィール

立教大学文学部教授。NPO法人 アーダコーダ副理事。
専門は、心の哲学・現象学・倫理学・応用倫理学。社会が内包する問題に哲学的見地から切り込む。
著書に『メルロ=ポンティの意味論』(2000年)、『道徳を問いなおす』(2011年)、『境界の現象学』(2014年)こども哲学についての著者に、『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』河出書房新社、『じぶんで考えじぶんで話せるこどもを育てる哲学レッスン』 河出書房新社、『問う方法・考える方法 「探究型の学習」のために』ちくまプリマー新書、『対話ではじめるこどもの哲学 道徳ってなに?』全4巻 童心社、共著『子どもの哲学 考えることをはじめた君へ』 毎日新聞出版など多数。

「2023年 『こどもたちが考え、話し合うための絵本ガイドブック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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