九時から五時までの男 (ハヤカワ・ミステリ 988)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (211ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150009885

感想・レビュー・書評

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  • 薄気味悪くもどこか滑稽。深いテーマと皮肉、意外なオチが存分に楽しめる短編集です。


    【ブレッシントン計画】日本では深刻な高齢者問題を取り扱っています。まぁ、こういう問題があればこういう計画はそりゃあ思いつかないわけではないですが、ダメですよね。これはそうやって渋っている男が巧みな言葉にどんどん流されていく様が不気味です。そして最後の皮肉に満ちたオチ。
    このオチはおもしろいです。
    こういう介護問題などが同じように海外にもあるのがちょっと新鮮でした。

    【神様の思し召し】純真無垢な信仰心の無敵さというか、恐ろしさというか。しかしあのラストから彼は本当に単純に信じていたのだろうか?とも思います。純粋な信仰心故の、悪気のない結末だったのか?計算した上での猿芝居だったのか?なんにせよどう転ぶかは神様の思し召しということでしょうか。

    【いつまでもねんねえじゃいられない】真犯人についてはすぐに分かるのですが、故に彼の行動が不気味でした。箱入り娘の彼女が鈍感なのも焦らされます。
    被害にあった女性に対する周囲の人々の反応というのも生々しく痛々しい。ラストは「いつまでもねんねじゃいられない」と目覚めた彼女に期待する一方、不安です。

    【ロバート】規律正しく真面目、老後のことをきちんと考えているこの女性教師がいかにも教師らしくリアルで良いです。
    一方でなんとも不気味な少年ロバート。サスペンスな展開が楽しいです。なぜ、ロバートがこのような行動にでたのか。はっきりと明示されてはいないものの、ラストにはゾッとします。

    【不当な疑惑】これはおもしろかったです。オチは予想できるんですが、それにしてもホームでのやりとりには笑いました。
    そして語られていた事件の結末がやはり気になります。実は真犯人は別にいたとか、実は確固たる証拠があったとか無限に考えられますが、語り手が知識豊富な優秀な法律の専門家であると言及されているのですから、法の穴を突いた結末であったと予想します。

    【運命の日】まるで短編映画をみているようなヒューマンドラマでした。善良な一人の少年の運命の日。そこに偶々居合わせその時を目撃した男が、人の人生に思いを馳せる様が深いです。

    【蚤をたずねて】途中までこの「蚤」の読み方を間違えているのではと不安になりました。荒唐無稽なおもしろ話でお茶目な老人が楽しいですが、この老人はわざとなのか本気なのか。

    【七つの大徳】一流企業の経営理念という名の詭弁はおもしろいですが、オチはちょっと悩みます。七つの大罪を七つの大徳と言うこの企業は、人を堕落させようとする悪魔たちでしょうか。神父の息子のえっ、という顔が浮かぶラストです。

    【九時から五時までの男】規則正しく九時に出社し、五時には帰る男の秘密の職業とは?意外性よりも、男の淡々とした手際の良さと、最後の奥さんのセリフがおもしろい話でした。

    【倅の質問】代々電気椅子での死刑執行を担ってきた電気屋の男。長々と自分の仕事の重要性、必要性を説いて理論武装していますが、それが倅の一言によってぶっ飛んでしまうのがおもしろい。真面目な男の狂気が見えます。

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