塩の湿地に消えゆく前に (ハヤカワ・ミステリ1975)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (412ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150019754

作品紹介・あらすじ

他人の強い思いをビジョンとして視ることのできる少女クララは、ある日を境に若い女たちが傷つけられる不吉なビジョンを頻繁に視るようになる。カジノのスパ施設で働くリリーの協力を得て彼女たちを救おうとするが……。エドガー賞受賞のサスペンス。

感想・レビュー・書評

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  • モーテル裏の湿地に、ふたりの女の死体が並んでいる。という冒頭から始まるのだが、犯人に関しての描写がことごとく少ないというか無いに等しい。

    主に16歳の少女クララとカジノホテルのスパで働いているリリーのふたりの目線で描かれている。

    クララは、叔母のクラブの稼ぎと占いの店で凌いでるのだが、家賃を滞納し、ついには叔母の段取りで、男の相手をすることになる。
    もともとクララは、人が心にいだいている強い念を垣間見る力を持っていたのだが、次第に不気味で恐いビジョンを頻繁に見るようになる。

    ふたりの死体から徐々に増えていく死体。
    彼女たちが、どう関わっていくのか…
    そして謎の行動をする清掃員のルイス。

    さまざまな角度からそれぞれの声を聞いているようで…
    それは、いろんな場所で虐げられている者たちの、顧みられることのない者たちの声だろう。

    救いは、あるのか…とさえ思ってしまう事件であるのにスッキリ解決しない。
    消化しづらい結末なんだが。

  • ボードウォークというアイデンティティを持ち、かつてカジノで栄えた町、ニュージャージー州アトランティックシティ。
    今やかつての精彩は消え、多くのカジノ、ホテルが閉鎖されゆく中、しがみつくように残っている商業施設と共に冴えない日々を送っている町の人々。

    この物語が焦点を当てるのは、この寂びれた町に人生を翻弄され、泥沼にはまり込んでしまった、あるいははまりそうなところを何とか抜け出そうともがいている女性達。

    町がら、カジノでのカクテルウェイトレスとして若さを売ることで対価を得ることにも華やかさや誇りを持てた時代があったが、次第に町自身の低迷と共にそうした者達の地位は下がり、またある者は年を重ねることで昔ほどうまくは行かなくなっていくことを身を持って知らされる。
    そしてまたある者は、他の地から自己を解放し、何かを求めるようにこの地へたどり着くが、程なくして行き場のない夢物語だったことに気付く。

    そひて手を伸ばすのが、身売り、ドラッグ。

    何もかもの希望を飲み込んでしまうこの町においては、這い上がろうにも這い上がるチャンスがない。
    日々の生活には先立つものが要る。
    そして、その辛さから逃避するための道具も。

    そんなこんなで慎重に越えたはずの一線に、ことごとく足をすくわれ、墜ちていく女性達とそれを食い物にする男達。
    行きつく先は、商売女に白羽の矢を立てるシリアルキラー狙われ、うらぶれたモーテルの裏の湿地に次々と並べられていく身元不明死体(ジェーンドゥ)。

    途中3人称で淡々と語られるジェーンドゥ達の人生の振り返り方が、何とも言えないやるせなさを感じる。
    決して彼女達だけが悪かったのではない。
    救いのチャンスもあった。
    だが、残酷にも彼女達の命は奪われていく。

    この事件、なんと犯人は捕まらない。
    捕まらないどころか、ほとんど輪郭すら現れないし、警察の捜査もない。
    それぐらい、うんざりするような世界を相手に生きていかなければならない、ある立場に置かれた女性達の救いなき戦い、悲しみに焦点を当てたかったのだろう。

    試みは正当だと思う。
    確かにこの物語において犯人なんてどうでもいい。
    ジェーンドゥ達の悲しき物語。

  • 私にはこの作品を理解し堪能するチカラがないのかもと、約半分の200ページまで読んで気付いた。いつ面白くなるのか、いつ犯人の断片が現れるかと期待していたが、そこには登場人物それぞれの一人称の語りが続き、しかも救い難い日々の現実が突き当てられて、、再トライはないかも。

  • テレパシーなど人には特別な才能がある人がいる。人の思いなどを「透視」することで危機を感知して予防対策を立てることで出来れば無敵となるが。さて本書は物知りの著者だが場所・事柄が点々としすぎ、また文章の「。」が多く文章のつながりが分かり難い。結局盛り上がりがないままで終わるミステリー、ちょっと不満。

  • 湿地に遺棄された女性たちの死体の視点から始まることに驚かされるが、時折挿入されるこのジェーンドゥの章が上手い。
    そして辛い。
    シビアな物語だが、他者を思って手を携えた二人は生き抜けたことが作者の祈りなんだろう。

  • ニュージャージー州アトランティックシティ。叔母のデズとともに暮らす少女クララは、他人の強い思いをビジョンとして視ることができる能力を持っていた。その力を使った占いで生計を立てていた彼女は、ある日行方不明になった少女を捜し出してほしいという依頼を受ける。その日を境に、女性たちが傷つけられる不吉なビジョンを頻繁に視るようになったクララは、カジノホテルのスパ施設で働くリリーの協力を得て彼女たちを救おうとする。だが犯人の魔の手はクララたちにもおよび……。

    ミステリというよりも、普通の小説の味わい。

  • アメリカのティーンエイジャーを含む若い女性の悲哀が描かれている。タバコや酒そしてドラッグを普通に経験し、金を得る手段として手っ取り早く売春で稼ぐ、そこに男につけ込まれ悲しい運命を辿る。
    この小説は犯罪というサスペンス性より若い女性達の心理面が丹念につづられ、手を差し伸べて救ってあげたい同じ女性としての著者の想いが伝わる。
    読み進めていつ高揚感が来るのか分からず、根気よく読んでそのまま最後に至ると言うふうに、読み終えてなる程ね、と言う感じで終了した。

  • ニュージャージー州アトランティックシティを舞台にしたシリアル・キラーもの。とは言え、そもそも被害者たちは発見されておらず、誰もこの事件に気づいていない。ただ一人、占い師のクララを除いては。彼女は他者の思いをビジョンとして受け取るサイキックで、この能力を基に話は進む。主な語り手はクララと、夢破れて失意の中この街に戻ってきたリリーだ。
    犯人探しを目的にすると拍子抜けする(そもそもそこに力点はない)が、衰亡した都市に漂う無力感、そこに集う疲弊した人々の姿で読ませる。
    2021年エドガー賞最優秀新人賞受賞作。

  • 虻より蠅のイメージで。
    ミステリじゃなかった、
    いやミステリではあるけども。

    面白かった。

  • ダメなやつだこれ

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