夜間旅行者 (HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS No. 1996)

  • 早川書房
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150019969

作品紹介・あらすじ

被災地を巡るダークツアーを担当するヨナは、自社企画の査定を命じられベトナムへ向かう。企画は新味に欠け、ヨナは会社に打ち切りを提案しようとするが、たまたまひき逃げ事件を目撃したことで謎の一味に新たなダークツアーを「捏造」するよう脅迫され……。

感想・レビュー・書評

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  • 蟻地獄から抜けられない恐ろしさ… 人間の邪悪な本性が描かれたショッキングスリラー #夜間旅行者

    ■あらすじ
    独特のテーマを持ったプランを提供する旅行会社に勤務する主人公。彼女はツアープログラム業務にあたっており、収益が良くないツアーの見直しを命じられていた。
    あるベトナムのツアーに同行して現地を査定する主人公だったが、途中でコンダクターとはぐれるトラブルに見舞われてしまう。仕方なく街に滞在することになるのだが、なにやら街には秘密があるようで…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    人間の醜悪さが詰まったスリラー。不愉快な怖さが魅力ですね。

    まず独特の背景設定とストーリーが絶妙に厭らしいんですが、きっと何も知らずに読んだほうが楽しめます。そのため、書き記したあらすじ以上のことは詳しくは語れません。

    序盤から嫌な雰囲気が漂うのですが、中盤からは徐々に圧迫さが増していき、悪夢が広がっていく。蟻地獄にハマったしまった様に、ずるずるとしかも着実に引きずり落されている感覚がイヤすぎる。発生している理由も、止める方法も分からない。しかも誰も助けてくれないという恐ろしさ… こわっ

    恐怖のキーワード「ワニ75」

    たったこれだけの単語なのに、身悶えするほど恐ろしい。動物名と数字だけのこのキーワードが、一体どんな意味なのか… 読んでみればわかります。

    またさらに不快感を増す要素として、本書にでてくる人間たちの価値観ですよ。
    そもそもこの旅行会社のプランについて、漫画カイジの鉄骨渡りのあるエピソードを思い出してしまいました。大金持ちの権力者たちは、鉄骨渡りをしている若者たちを見て、自分が安全な場所にいるという優越感を楽しんでいるというシーンです。

    人間は誰しも弱い生き物ということなんでしょうが、非道なことに興味がわいてしまうという事実は悲しいものです。

    そして街の人々ですよ… 貧しさはもはや罪であり、正義がなんなのか分からなくなってしまっている環境が辛すぎる。物語の話だけであって欲しいと、願わずにはいられませんでした。

    ■ぜっさん推しポイント
    物語の終盤はもちろん怖さも最高潮なんですが、さらに切羽詰った感じ、スピード感、なにより哀愁の表現が素晴らしいんです。これまで様々なミステリーで不幸な登場人物を見てきましたが、最たるものですね。

    私はいつも恵まれない人生だよな~と、ボヤいているのですが、決してそんなことはなく十分に幸せなんだなと感じるのでした。

    と…これも、自分が安全な場所にいるという優越感ですよね。私も醜い生き物です。

  • 韓国発、ダークツーリズムにスポットライトを当てた中編小説。

    災害地を訪れるツアープログラマーのコ・ヨナ。
    弱肉強食、栄枯盛衰の職場でそれなりの地位を得ていたものの、いつの間にか落ち目の扱いを受ける日々に浴していることに気付く。
    嫌気が昂じて退職願いを出すも、表向きは出張扱い半ば慰労休暇の、廃止候補ツアーに自ら参加し商品としての存続可否のジャッジを下す任を受け入れ、その決断を先延ばしにする。
    訪れた先で直面する観光地の虚構と欺瞞にまみれながらの生存戦略。
    いつしか災害の捏造に加担することに。。

    ミステリと謳われてはいるものの、謎という謎が現れるわけではなく、打ちひしがれたヨナの心情を抱えながら、その命運を辿るサスペンスのような、むしろ純文学のような趣きさえある。
    にわかに現実感のない展開や、終盤のふわふわとした意識の流れと事実が混濁した描きぶりの地に足の着かなさはディストピア小説のようでもあり、少なくともミステリとは思えない何とも言えない読み心地だった。

    2021年、CWA(英国推理作家協会)トランスレーションダガー賞受賞作。
    著者あとがきに記された年(本国での発行年?)は2013年。

    ゴールドダガーとかシルバーダガーはよく耳にするけれど、トランスレーションダガーは初耳だったのでちょっとググってみたら2019年には『新参者』が、2022年には『マリアビートル』がノミネートされていた!!
    また、過去の受賞作を見るとピエール・ルメートルだったり、ヘニング・マンケルだったりがあり、こちらから見ると海外小説としていっしょくたになってしまうものが、英語圏からは翻訳小説として扱われていることに、当たり前といえば当たり前なのだが、新鮮な感覚を得た。

    なお、アジア圏でのトランスレーションダガー賞受賞は本作が初とのこと。
    日本勢も惜しかったねー。

  • 被災地を巡るツアーを企画しているジャングル社に勤めるヨナ。収益の低いツアーに参加し査定することになり、ベトナム沖の小さな島ムイに行く。が、そこに隠された驚愕の現実を知り行動を起こすが・・

    ということなのだが、このジャングル社、ソウルにありスタッフは千人以上いて、災害を33タイプに分け、そこから152の商品が生まれていた、と説明される。このジャングル社の”商品”企画もさることながら、ツアーの内実たるや、空恐ろしいものがある。ありきたりの言葉で表現すれば、何でも商品としてしまう経済社会の現実の恐ろしさ、ということだろうか。しかし最後は自然の力はそれを上回っている、と作者は梶を切っている。

    最初はジャングル社内の派閥争い、次にムイ島でのツアー、そして知る現実、さらに現地案内人とヨナの淡いロマンス、などもありドラマにしたらおもしろいかも。最後は怒涛の出来事。星新一の「おーいでてこい」なんかもちょっと想起した。

    書評七福神のwebページで10月の推薦で3人がイチオシしていたので読んでみた。姜芳華さんの訳文がとてもいい。まるでもともと日本語で書かれた文章のような読み心地だ。倉敷生まれとあるので韓国語も日本語も自然に身についているのか。


    2013発表
    2023.10.15発行 図書館

  • 世界中の災害地を巡るダークツアーを企画する韓国の会社で働くヨナ。社内では中堅のつもりだったが、上司からセクハラに遭い閑職にに回され退職しようと思ったところで、あるツアーを存続させるかどうかの査定を命じられる。過去に巨大なシンクホールが発生し多数の犠牲者が出たベトナム沖の島ムイにやってきたヨナは、様々な事情からツアー後も現地に残り、災害を捏造して観光客を集めようと計画する一味に協力することになる。
    そもそもダークツアーなるものを知らなくて、ショッキングだった。ムイの災害ツアーの虚構があらわになっていく過程は、ただただ恐ろしい。会社でもムイでも不条理な事の連続で抗おうとしながらも保身の為に流されてしまうヨナが、とてもリアルで胸が痛い。他人の犠牲の上に自分の生活や幸せが成り立っていて、ほとんどの人がそこに無自覚なのに、誰がヨナを責められるだろう。忘れられない作品になりそう。

  • 主人公のヨナが列車に乗ると、読者の私はいつのまにかジェットコースターにライドオン、ここから始まる怒濤の展開。
    とくにダークツアーの大掛かりな計画の設定が秀逸で、例えば(自粛)

    スケールの大きな物語で読み応えがありましたが、読後はすーっと波が引くように熱が醒めてしまいました。なんだか不思議な読後感でした。

  • ツーリズムと名のつくものの裏にはこういうことありそう。観光客は見たいものを見て、それを確認するんです。こなれた訳文で読みやすかったけれど、内容にはちょっと入りきれず残念です。

  •  韓国人気作家の日本初上陸作品である「夜間旅行者」。災害ツアーという奇妙な商品を企画・提供する韓国ツーリズム会社に勤務する女性が物語の主人公。会社に10年勤続するも燃え尽きかけた主人公ヨナ。退職勧告代わりの休暇で会社の災害ツアーモニターとしてベトナムのある地域へ。そこで人工的に作り出される災害。話の展開がヨナ主導で進むも、ヨナの知らないところで事態は動いていて、読んでいて飽きないストーリー展開に楽しませてもらった。ただ、人間をこのように扱われるのは残酷極まりない読後感であった。

  • ダークツーリズム訪問地の興亡を賭けた捏造の事故。人災を引き起こして、人々の関心を取り戻そうと着々と進行する企画と、知らず巻き込まれるであろう住民をマングローブの林一帯に移動させる水面下の攻防。会社のシナリオ通りに追い詰められる社員が最期にあらがえることが出来たとはいえ、元はと言えばツーリストの欲望が引き起こした事故だと思うと恐ろしい。

  • SL 2023.12.12-2023.12.14
    主人公は被災地を巡るツアーを扱う旅行社に勤務するヨナ。世界の災害を商品としてしか見られなくなっていることもすでに十分恐ろしいのだけど、故意に災害をでっちあげて旅行ツアーを企画するというなんとも不気味な展開に。
    そして最後は驚異的な自然の力に薙ぎ倒されていく人間たち。
    救いがあるのかないのかわからないようなラストだった。

  •  訳者あとがきによるとエコ・スリラーというジャンルに属するらしい小説。ソウルの旅行会社でダーク・ツーリズム専門の企画を担当してきたヨナは社内での立場を失いつつある。業務の意義に疑問を感じ退職願を出したヨナは、上司のキムから、休暇代わりに社内のパックツアーを体験してくるよう提案される。エレベーター内でお尻を掴んでくるような最低な上司の提案になんでのっちゃうの?と思いながら読んでいくと、どんどん物語は破滅へと突き進んでいき、なんの救いもないまま終わる。観光というものの持つ加害性を、我々は自覚すべきかもしれない。

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