- Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150101336
感想・レビュー・書評
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川原礫さんの「ソードアートオンライン26 ユナイタル・リングⅤ」を読んでいたら、ユナリン世界が半径700kmの円形で、ウェディングケーキのような段々構造になっているとの説明があった。
なんか似たような世界設定の話があったよなぁ、と思い出したのが本書、フィリップ・ホセ・ファーマーの「階層宇宙シリーズ」の1冊目だ。
――大学講師を退職したロバート・ウルフは余生を過ごすための分譲住宅を下見した際、レクリエーション・ルームのクローゼットの奥からかすかに響くトランペットの音を耳にする。扉を開けたウルフが目にしたのはあざやかな緑色の空と怪物達に大岩の上に追い詰められた若い男だった。キカハと名乗る若者から投げ渡されたラッパをウルフが受け止めると同時に異世界への門は閉じてしまうが、この出来事をきっかけとしてウルフは異世界での冒険へと旅立つこととなる――
異世界転移の冒険もので、けっこう楽しく読んだ記憶がある。
ウルフが飛び込んだ異世界は、惑星サイズの円盤状の大地が5層にわたって積み重なる階層世界だった。それは、上帝と呼ばれる超越的存在が創り出した私的宇宙であり、地球のさまざまな時代・場所からさらってきた人々をそのまま住まわせたり、空想上の生物や化け物に改造したりと神のごとき驕慢なふるまいで弄ぶ箱庭世界だ。
エデンの園を思わせる第1階層の楽園で暮らすうち肉体が若返ったウルフは、黒鳶縞模様の髪をもつ猫目の娘クリュセイスと親しくなるが、上帝の命を受けてラッパを探す怪物達に彼女をさらわれてしまう。クリュセイスを取り戻すためウルフは再会したキカハとともに最上層にある上帝の宮殿を目指して各階層を旅してゆくこととなる。
シリーズとして本書を含む4冊が1973年から75年にかけて翻訳されており、もう2冊が続刊として予定されていたが未刊のままとなっている。
本国では、第5巻「The Lavalite World」が1977年に、第6巻「More Than Fire」が1993年に刊行されている。
また、この2冊の間に「Red Orc's Rage」が1991年に刊行されているが、シリーズの直接的な続編ではなく番外編とも言うべきもので、第4巻で言及された上帝レッド・オルクに関連した物語となっている。
本シリーズに触発されてロジャー・ゼラズニイが「真世界アンバーシリーズ」を執筆したとも言われているが、シリーズ第3巻「階層宇宙の危機」にはゼラズニイがファンレターのような前書きを寄せており、またファーマーは第5巻の献辞をゼラズニイに捧げている。
もう一度読んでみたくなり、実家の既読本箱をひっくり返してようやく見つけてきた。
深井国氏の描くイラストも、きれいでエロティックでとても良い♡。
冒険の舞台となる階層世界も、人魚や雄羊の角と毛深い脚をもつ男など神話世界を再現したかのような第1層楽園、インディアンとケンタウロスが相争う第2層アメリンディア、中世ドイツ・チュートン騎士団が国家を築く第3層ドラキランド、上帝の怒りに触れ破壊され尽くした第4層アトランティス、そして最後の対決の場となる第5層上帝の宮殿とバラエティも豊かだ。
ただ、令和の時代に読み直してみると、その冒険はやや単調なものに思えるかも知れない。また女性キャラの扱いなどジェンダー的に古い価値観も見受けられる。
これらについては、なんと言っても半世紀以上も前の作品なので、そこまで批判の対象とするのは酷というものだろう。
なによりもファーマーが本作で描きたかったのは、冒険よりも階層世界そのものだったのではないかと思われる。
著者が高校時代から夢想しつづけた世界を描きだすことに熱中するあまり、ストーリー展開がおろそかになってしまったようにも感じられた。
ファーマーが自身の理想を投影したキャラクター・キカハは、階層世界の申し子とも言うべきトリック・スターであり、シリーズ後半ウルフに代わって物語の中心となっていったのは必然だったのかもしれない。
未訳のままだった続編も、英語版なら kindle 等で簡単に入手できるようになっている。
さて、どうしようか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
深井国のカバー画も秀逸。
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古書購入
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階層宇宙の設定になれるまで時間がかかる
表紙 6点深井 国
展開 5点1965年著作
文章 5点
内容 490点
合計 506点