円: 劉慈欣短篇集 (ハヤカワ文庫SF SFリ 6-1)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150124014

作品紹介・あらすじ

三百万の軍隊を用いた驚異の人間計算機により十万桁まで円周率を求めようとする「円」など全13篇を収録した短篇集、待望の文庫化

感想・レビュー・書評

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  • 「鯨歌」「地火」「郷村教師」「繊維」「メッセンジャー」「カオスの蝶」「詩雲」「栄光と夢」「円円のシャボン玉」「二〇一八年四月一日」「月の光」「人生」「円」の13篇収録。

    この中では、「カオスの蝶」、「栄光と夢」、「月の光」、「人生」の4篇のアイデアが面白かった。全体的にちょっと読みにくかった。「円」、どっかで読んだことある話と思ったら、「三体」の第17章に同じエピソードがあったんだな(ありがとう解説)。

    「鯨歌」
    デビュー作。シロナガスクジラを操ってヘロインを密輸。鼻をチョン切られて平然としているホプキンズが怖い。ラストの「この恥知らずども!」「あいつらが道徳なんか気にするもんか」って、日本人に喧嘩売ってんの?

    「地火」
    炭鉱の地下に埋まる炭層に点火し、石炭をガス化して取り出す危険なプロジェクト。科学者の驕り。

    「郷村教師」
    死期迫る田舎教師が生徒に教えたニュートン力学が人類を救う。

    「繊維」
    多元世界が交差する。

    「メッセンジャー」
    憂鬱なアインシュタイン老人に未来からのメッセージが。

    「カオスの蝶」
    バタフライエフェクトでユーゴスラビアを救えるか?

    「詩雲」
    神のごとき高次宇宙人(なりきり李白)、そこそこ賢い恐竜族(人類を家畜化した呑食帝国の使者)、詩歌を愛する教師(人類代表)の漢詩談義。

    「栄光と夢」
    戦争に代えてスポーツで紛争を解決しようとする2国間オリンピック=ピース・ウィンドウズ・プログラムは果たして平和をもたらすのか。

    「円円のシャボン玉」
    シャボン玉テクノロジーが砂漠化を防ぐ。

    「二〇一八年四月一日」
    遺伝子改造生命延長技術(改延)。

    「月の光」
    環境破壊を食い止めろと未来の自分から電話で指示が。早速構想を練っていると、再び未来から電話。

    「人生」
    赤ちゃんが親の記憶を引き継がない訳。

    「円」
    秦の始皇帝が人間コンピュータで円周率を計算する。

  • 『三体』はいつになったら文庫化されるのだろう?
    と思っていたところに本作登場!

    いろんな角度のSF作品で気にいる作品は必ずあるはず!

    個人的には『円円のシャボン玉』『カオスの蝶』『栄光と夢』『月の光』が良かった!
    順番は付けられません。


    鯨歌:鯨を使った麻薬密輸の話、オチが秀逸

    地火:炭鉱労働者の為に石炭を石炭ガス化させる話、学者の理論と現場の理屈の話かと思いきや・・・

    郷村教師:中国の寒村で子供達に自分の人生を捧げて教育を施す教師の話と、全宇宙の覇権を賭けて争う巨大帝国の話が何処で繋がるの?

    繊維:パラレルワールドの話

    メッセンジャー:有名な理論物理学者のもとに若者が現れた!?その若者の正体は?

    カオスの蝶:バタフライ効果を技術として確立した話

    詩雲:伊依、恐竜と李白の詩作の旅!?この3人の関係は?テクノロジーによる芸術の限界に挑む!

    栄光と夢:戦争の代替手段?経済制裁により衰退していく国家とアスリートの話

    円円のシャボン玉:シャボン玉を科学する、シャボン玉に魅せられた少女の話

    二〇一八年四月一日:寿命を三百年に伸ばす為には会社の金を横領しなければならない、若者は悩む

    月の光:エネルギー問題、何かを選ぶと何かが狂う・・・

    人生:産まれてくる胎児と母親の会話

    円:始皇帝暗殺のエピソードから始まる、当時のスパコン開発

  • 短編集なのに一気読みしてしまいました!最高傑作揃い!劉慈欣氏の作品は『三体』を最初の1冊だけ読んだことがあるのですが、いろんなアイデアをひとつのストーリーに押し込むより、短いストーリーでサクッ、サクッと読める短編集の方が私は良いと思いました。世界観もひとつひとつのアイデアに合わせているので、壮絶だったり、底抜けに明るかったりバラエティ豊かな感じです。

    個人的には、自然と立ち向かう『地火』、壮大すぎるコメディ『詩雲』『月の光』が超オススメ!『円』もオチまで考えるとやっぱり短編にしなおして良かったと思います。未来への希望感も、貧乏の描き方のエグさも日本の作品にはないものがありますね。西側諸国の価値観マンセーじゃないところも中国作品の良さでしょうか。ほかの劉慈欣氏の短編作品もぜひ読みたい!!

    …と、その前に、『郷村教師』を読んで、科学の基礎を勉強しなおそうかな~と思っちゃったり(^_^;)


    追記:『三体』の方はイマイチみたいな書き方をしてしまいましたが、別の方のレビュー曰く、『三体』の5冊目のラスト100ページが最高らしいです。…やっぱり『三体』も全部読むべきだろうか…むむむ。

  • 『三体』著者の短篇集。「鯨歌」は麻薬の売人が驚きの秘密兵器で麻薬を密輸しようとする話。兵器として開発されたものを使って麻薬の密輸を企むことは、依存性薬物を使って侵略された阿片戦争の過去を持つ中国らしい発想である。麻薬の売人を破滅させる結末にすることは健全である。

    「郷村教師」は高次の文明を持った宇宙人が人類を調査する話。宇宙人からすれば会話でコミュニケーションする人類の方法は情報伝達の在り方として非効率この上ない。「記憶遺伝もなく、音波で情報を伝達し、しかも毎秒わずか1ビットから10ビットの速度でしかコミュニケートできない生物」と評される(110頁)。コロナ禍によってテレワークが普及したが、日本には対面コミュニケーションにこだわる主張がある。しかし、メールなどの文章に比べて会話の情報量は少なく、残らないことをもっと考えるべきである。

    「詩雲」も人類よりも高次の文明を持った宇宙人の話である。人類は支配され、家畜のようになっている。しかし、優れたテクノロジーがあれば、李白のような優れた漢詩を創作できるかというテーマになっている。宇宙人は全ての漢字の組み合わせを生成して保存すれば、そこに優れた漢詩も含まれると考える。

    しかし、漢詩を生成するソフトウェアは作れても、優れた漢詩を判断する鑑賞能力を持ったソフトウェアは作れなかった(218頁)。現実世界ではChatGPTなどGenerative AIが話題である。AIができること、人間でないとできないことの線引きを示唆する話である。

    「カオスの蝶」はNATOの空爆からセルビアを守ろうとする科学者の話。「栄光と夢」はアメリカ合衆国から攻撃される独裁国家シーア共和国の話。シーア共和国は架空の国家であるが、フセイン政権のイラク共和国を連想させる。セルビアはモスレム人やアルバニア人を弾圧し、イラクのフセイン政権はクルド人やシーア派を弾圧した。アメリカなど西側が介入することが必要という意識がある。これに対して中国ではアメリカが侵略する側という意識もあるのだろう。

  • 劉慈欣の短篇集。このSF作家は短編が巧いと思う。
    気に入った作品を幾つか挙げてみる。

    「鯨歌」。ドラッグの密輸に鯨を使う麻薬組織のボスと科学者の短篇。鯨の雄大と人間の卑小の対比が上手い。

    「郷村教師」は訳が分からないが読んでしまう。中国の貧村で子ども達に教える余命僅かの教師。最期の授業と壮大な宇宙戦争が交差する。大きな物語が収斂し小さな物語に一致する構成が読ませる。

    「カオスの森」。ユーゴ内戦をモチーフにバタフライエフェクトをひとつの物語へと昇華したような作品。

    「栄光と夢」。やるせない結末と現実世界の厳しさを表した思考実験のような短編。紛争当事国同士がオリンピックで決着を付けるというスポーツを代理とした紛争解決法の希望と哀しい結末。

    「円円のシャボン玉」。シャボン玉で砂漠化した都市に雨を降らす科学者の娘と父親のお話。これぞSF!と思わず膝を打つ発想とサイエンス・フィクションの醍醐味が詰まった短篇だった。巨大シャボン玉が青空に漂う描写が幻想的で美しく、そこが更に良い。

  • ご存知「三体」の劉慈欣さんの短編集。
    どれも面白いけど、僕は「地火」と表題作「円」が好き。
    円はキングダム好きにも読んでほしい!

  • 買ってはみたものの、SFが苦手な自分を省みると
    『もしかしたら読む事はないかも』と思って積んどいた本。
    DUNE*3冊+DUNE MESSIAH*2冊を読み終わった時
    『円を読むなら今しかないんじゃね?』と読み始め、
    想像を遥かにこえて楽しく読めた。
    短編集にありがちな『何故か入ってる面白くない作品』がひとつもない。

    『メッセンジャー』は唯一ほのぼのとしてる作品だった。
    未来の彼からの言葉は、創造だとわかっていても胸を撫で下ろす。

    どの作品もドキドキしながら読み進められる。
    SFと言えば未来を思いがち、最後の円で『秦の始皇帝』の時代に遡られたのはやられた感。
    やってる事はめちゃ現代。

    こんなに面白く読めたのは翻訳の良さにも起因すると思うと同時に、心からの感謝を。

    読み終わった瞬間、目の前にあったみなとみらい丸善で『三体』買ってしまったわ。

  • 読書記録 2023.7

    #円
    #劉慈欣 

    『#三体』は長編ならではのスケールの大きさがあったけど、長すぎて散漫になることも。『円』は短編なので、作者の着眼点を楽しむことができて、SFエッセンスが凝縮されてる感じ。短編ならではのスピード感もよき。
    新海監督の帯コメントにひかれて買ったけど、期待通りだったよ。

    #読書好きな人と繋がりたい
    #読了

  • 中国SF界の至宝と言われる著者の短編集で、13編が収録されている。

    著者の「三体」シリーズが去年読んだ小説の中でも、ぶっちぎりで面白かったので、この短編集が文庫化されて発売されるのを楽しみにしていました。

    表題作の「円」は、軍隊による隊列で人間コンピュータをつくるという内容で、その他の短編にも、秀逸な設定があったり、
    何より、主人公の行動が思わぬ大規模な変化を引き起こしてしまうような、個人の行動が世界の命運を変えるような、怒涛の展開をみせるストーリー構成が魅力だと思います。

    短編集なので、1つ1つは読みやすい文量でもあるので、普段SFを読まないという人にも読んでもらいたい短編集です。

  • おっと、これはなかなか…つい一気読みしてしまった。
    何処となく過去の名作SFのエッセンスが感じられるSF短編集。
    それもクラークから藤子F不二雄、野尻抱介や小川一水、イーガンまでと幅広い。
    テクノロジーを推し進めた結果、見慣れた風景を、世界の在り方を(良くも悪くも)まるっきり別物に変えてしまうというSFならではの楽しさを味わえる。

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著者プロフィール

1963年、山西省陽泉生まれ。発電所でエンジニアとして働くかたわら、SF短篇を執筆。2008年に刊行された『三体』で人気に火が付き、“三体”三部作(『三体』『黒暗森林』『死神永生』)は中国で2100万部以上を売り上げた。2014年にはケン・リュウ訳の英訳版が刊行され、2015年、アジア人作家として初めてSF最大の賞であるヒューゴー賞を受賞。2019年には日本語訳版が刊行され、11万部を超える大ヒット。

「2023年 『神様の介護係』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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