- Amazon.co.jp ・本 (428ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150311650
作品紹介・あらすじ
米情報軍大尉クラヴィス・シェパードは、後進諸国で頻発する内戦や虐殺の背後に存在する謎の男、ジョン・ポールを追うが……。現代の罪と罰を描破した30万部のベストセラー。
感想・レビュー・書評
-
最終章の最後の編を読むまで、正直苦痛な読書でした。
まず虐殺のシーンがそもそもキツイ。にも関わらず殺しの特殊部隊である「ぼく」の語り口が淡々としていて、読んでいて落ち込むことも多い。中盤は論文を読んでいるようで、内容が難解。半分くらいしか理解できない。
物語はテロを未然に防ぐためにセキュリティが強化され、テロを首謀する人物を暗殺する事が黙認されている世界。
ナノレイヤーだのオルタナティブだの人工筋肉だのと、近未来の世界観もすごい。
そもそもテロとか罪とか罰とかって今の私の生活からかけ離れていて、あんまり共感できないわ…SFってあんまり読んだことないから、私にはあまり向かなかったのかなぁとか思っていた。
それがどうだ。
終盤でいきなり物語の本質が姿を現し、今まで暗示のように繰り返されてきたフレーズが自分に襲いかかってくる。
【人は見たいものしか見ない】
そうか。
なんて事だ。
これは私のことだったんだ!
利益を独占する一部の先進国と、その国を富ませる為にいつまで経っても貧しい発展途上国。昔「世界が100人の村だったら」って本が流行ったなぁ。でもあれ読んで「自分たちは数少ない恵まれてる国でよかった」って安心したっけとぼんやり思う。
そうじゃないのにね。
物語は主人公の贖罪を示し、私を残し急速に終わっていく。
後書きの筆者略歴がまた胸に迫る。
癌に犯されながら僅か10日で書き上げた物語。死を前に何としてでも伝えたかった事。
簡単に答えは出ないけど、これから私は考え続けるだろう。
とにかく、すごい読書体験だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
やっと読み終わった。伊藤計劃さんの作品はハーモニーを読んだことがあったのだけど、やっぱりSFと言うこともあって世界観を受け入れるのに時間がかかってしまった。あと所々言葉の本質とは何かみたいなところが私には難しかった(т-т)。でもやっぱり面白かったし、所々考えさせられたりもして読んで良かったと思う。
人は自分とは関係の無い誰かが殺し合うのを目撃することで初めて己を規定する。故に戦争は必要だ。
という考え方が出てくるのだが、残酷な考え方なのに共感する自分がいてしまった。今、ロシアとウクライナの戦争が続いている。かつて世界は第二次世界大戦や冷戦などを体験して戦争は悪であるということを学んだはずであった。しかし、今は世代も変わり、戦争を経験した人がごく少数になったことで、また同じ過ちを犯している。そして他の国は自分とは全くでは無いが関係の無い人達が争ってるのを見て己を規定している気がする。これは20年弱くらい前の作品かつSFなのに現在にも通ずるないようなのが素晴らしいと思った。
また、最後の主人公がジョン・ポール(敵)の役割を代わって行ってるのを見て少し胸が痛くなってしまった。(ただし目的は少し違う。敵は自分の愛する人々を守るためなのに対して、主人公はおそらく自国に嫌気がさしていたのもあってか、自国を犠牲にして他国を助けようとその役割を全うせんとしていた風に私は受け取った。)
正直虐殺の文法とは何かなどもう少し深めてほしいところはあったものの読んでよかったと思っている。また、伊藤計劃さんは闘病生活で苦しかったはずなのに、残り少ない期間(3年ほど)を小説に費やしてくださったことは本当に感謝しかない。SFでこの難しい設定を作り一貫性を持たせ、それだけではなくメッセージ性を添えるのは本当に天才だと思う。
最後の解説前にインタビュー記事があるのだが、そこでの発言は私の頭からは出てこない発想と語彙で満たされていて改めてすごい人だったのだと感じた。 -
まず、海外ドラマっぽさを感じた。アクションあり、ミステリーあり、そしてSFあり。1冊の娯楽小説として、安心してその展開に身を委ねることができる。
構成としては、主人公の生い立ちや悲しみというミクロ的なテーマがある。それから、世界構造や正義の在り方などマクロ的な観点で物語が進行していく。という2層構造。
筆者の見識の広さに下支えされた世界観は、安心して没入することができた。言語学を中心に、医学からゲーム理論まで手広い。クレオール、あるいはクレオール言語というのは知らなかった。あとは、サピアウォーフの仮設。
それから嗜みとして、ジョージ・オーウェルを2作とも読んでおいて良かった。作中で引用されるので読んでおいて損はない。
淡白だけど情感に訴えかける文章も良い。筆者の使いたい言葉を自在に組み込んでる印象。それでいて難解な言い回しにならない。語彙力の多さに支えられた余裕のある文章だと感じた。
戦地に赴く前の感情調整のシーンには、伊藤計劃らしさが光ったように思う。
兵士たちは痛みを認識できるが、感じることのないように調整される。主人公はここで、殺意ですら他者からコーディネートされてるのではないかと疑う。それが自分のものであってほしいと願う独白は、鮮烈な印象を残した。
個人的には、あの結末は突き抜けていて好きな終わり方。だけど、それが世界の正解だとは思わない。痛みを自分のものとして感じること、そのことの自由と幸福は譲ることはできない。きっと人間主義なのだと思う。
そんな風に、読者は伊藤計劃からの問いに向き合わざるを得ない。
総評としては、良作。優れたSF小説はSFの枠に収まらないということを思い出させてくれる1冊だった。
(書評ブログの方も宜しくお願いします)
https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E7%97%9B%E3%81%BF%E3%82%92%E6%84%9F%E3%81%98%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AE%E8%87%AA%E7%94%B1%E3%81%A8%E5%B9%B8%E7%A6%8F%E3%82%92%E7%9F%A5%E3%82%8B_%E8%99%90%E6%AE%BA%E5%99%A8%E5%AE%98_%E4%BC%8A -
表紙は、ラノトノベル風!表紙からは想像出来んほど、中身は…重くてベビー!
出たしから、グロい〜
こんな文法で、ジェノサイド になるのか…
サブリミナル効果の親戚みたいな…
虐殺の文法って、具体的に何なのかは触れず…ひょっとして、作者は本当に知っていて、どこかで実践してたかも?ってないわ!(^O^)
ラストは、賛否両論ありそうやけど、個人的には、好きな感じ。気分は晴れんけど。 -
続編『ハーモニー』を読んだので『虐殺器官』も読み返したくなってしまって再読しました!『ハーモニー』でいうところの〈大災禍〉のきっかけの物語です。何度か読み返してますが、この2冊を立て続けに読んだのは初めてかも。読み比べると主題の共通点もよりはっきり見えてきて面白いです…が、メンタルが元気な時に読んだほうがいいですね(笑)
舞台は9・I I以降の、テロによって超監視社会に移行した世界。主人公は米軍の暗殺部隊の実行部隊メンバー。虐殺が行われる後進国に赴き、虐殺行為の中心人物を暗殺していくなかで、常に虐殺に関わる人物ジョン・ポールを追うことに。SFともミステリとも言える、読みだしたら止まらない一作です。読んだの3回目くらいなのに、また深夜2時まで読んでしまったぜ…。
あらすじから分かる通り、作中の表現はかなりグロテスクでキツイです。そしてそれ以上に登場人物たちの受ける心理的衝撃も相当にキツイ。まぁ、でも、デジタルデータは、大切なものを取りこぼすこともあるんだよなぁ、なーんて思ったり。
それにしても、昔に読んだ本を再読するって面白いですね。あぁ〜、私がこういう考え方するのって、この本の影響だったかぁ〜って思ったり。…って、『虐殺器官』の感想でこんなこと書くのヤバいですね(笑)。 -
もう10年以上も前に読んで、あまりにも素晴らしくて、レビューが書けいないままだった。ブクログ本棚にも載せられなかった。
『ぼくの母親を殺したのはぼくのことばだ』というフレーズがある。この本は、SFというジャンルになっているけど、「言葉とは何か」というテーマに独特の方向からアプローチしている。単に何かを指し示す、表現する、伝える、記録するというツールではない。その言葉の意味することだけでなく、見えない何かまで伝えているのだ。
https://kenrisa.hatenablog.com/entry/388263850.html
伊藤計劃は映画レビューをはじめ圧倒的な知識と思考力を小説というツールで展開したのだ。この本と「ハーモニー」は僕にとって圧倒的な存在である。 -
ラストの謎の清涼感を味わいたくて再読。ムンバイの基地で見かけたリボルバーを腰に挿した銀髪の老兵ってリボルバーオセロットのことかなって思わず考えてしまいました笑。小島監督ファンの筆者らしい作中世界の雰囲気がとても良かったです。
無責任であること無関心であることの罪、自己責任から逃れたい罪への赦しについて色々と考えてしまいました。 -
ハイテクノロジーにも関わらず、結局は好きな女ひとつで人がコロッと変わるその縮尺がシニカルだ。
ずいぶんとグロテスクな描写が多いためぞっとすることも多い。
私たちは普段あまりに綺麗な世界で生きているのかもしれないと感じた。