きみの血を (ハヤカワ文庫 NV ス 17-1)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150410278

感想・レビュー・書評

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  • 在日米軍基地で問題を起こし、
    アメリカに強制送還された23歳の兵士ジョージ・スミス(仮名)。
    陸軍病院の独房で精神鑑定を受けることになった彼は
    何故、手紙を検閲し、質問を投げかけたマンソン少佐を殴ったのか、
    また、その際に
    自ら握り潰したグラスで負傷した手から滴る血を舐めたのか……

    というミステリ。
    ジョージ・スミス(仮名)に問診する
    若い精神科医アウターブリッジ軍曹の奮闘が、
    上官であり親友でもあるウィリアムズ大佐との、
    皮肉と友情に満ちた往復書簡によって浮かび上がり、
    成育歴を知るべく、ジョージに綴らせた回想記が開陳される、
    いわゆる「雑多なテクスト」構成の小説。

    ジョージがどういうタイプの吸血鬼か、そして、
    いかにしてそうなったのかを暴く
    探偵小説風の作品なのだが、探偵役を精神科医が務める点が、
    精神分析学や性科学が人口に膾炙した発表当時(1961年)、
    多くの読者を惹きつけたのだろうか――

    と考えつつ、実は再々読くらいの段階で、
    これはもしやブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』への
    オマージュではないのか、とも思っていた。
    本作も『吸血鬼ドラキュラ』同様、
    様々な文書がズラズラーッと並べられているのだが、
    大きな違いは、そうしたテクスト群を整理して
    読者に差し出す「誰か」が存在する、という点。
    これがオープニングとエンディングで
    怪しい囁きを発する「信頼できない語り手」で、
    しかも、それが催眠術師のような口調で語っているところが、
    何とも不気味なのだった。

    つくづく地味で、華やかさのかけらもないけれど、
    妙に味わい深くクセになる、不思議な物語。
    きっとこれからも何度となく読み返すだろう。
    私は貴族的な風貌のイケメン吸血鬼が
    恋愛に奥手でシャイな女の子を見初めて云々……
    といったタイプの話より、
    こういう普通の人間の暗黒面に光を当てるような小説が好きだから。

  • ジャンル的にはホラーになるのか?
    ファンタジーなのか、ミステリなのか、あるいは恋愛小説なのか?よく分からない不思議な作品。
    手紙のやりとりがあったり、Q&A方式の医師の診察があったりで、構成もかなり独特。
    この作品の著者がスタージョンでなければ、作品の評価は違っていた気もするが、まあまあ楽しめたことは確か。
    ジョージの独白パートの、自然の中での暮らしの雰囲気が好み。

  • 予備知識ゼロだったので驚愕しました。途中まで「平凡な」でも超絶に貧しく虐待されている男の子の物語の手記、でつまらなくはないがやや退屈・・・これがあのスタージョン?と思っていたらば!そこから、ええええ!の怒涛の展開があり、まさかこのジャンル物とは思いもよらず、ラストにもう一度手記を読み返しました・・・ああ・・ここにもあそこにも・・・と激しく納得したことが。信頼できない騙り手物語としてまた精神分析の手法に現れることも非常に面白く読みました。どういう手紙を女性に書いたのか、その三行がぞくっとします何よりも。

  • 陸軍大佐のアルは、部下であり親友でもある精神科医のフィルに、問題行動を起こしたある兵士の精神鑑定を依頼する。その兵士は、恋人に書いた手紙の内容について上官に尋問され、突然持っていた水の入ったコップを握り潰して割り、自分の手の傷から流れ出した血を啜ったという。フィルは無口なその兵士ジョージ・スミスに、自分のことを文章で書くように勧め…。

    吸血鬼もの…と思って読み始めたら、かなり様相が違って意外でした。一種の書簡体小説で、アルとフィルの手紙のやりとり、および、フィルがジョージに書かせた手記の内容、終盤はアルの助手であるルーシーの手紙などが挿入されており、ある意味、ブラム・ストーカーのドラキュラや、フランケンシュタインなどの古典ホラーの手法を踏襲しています。

    さて、本書の大半を占めるのはジョージ・スミス(実は仮名)の手記。病弱で愚痴っぽい母親と共に、アル中DVネグレクトおやじに理由もなく殴られ育った幼少時代、彼の楽しみは森で小動物の「狩り」をすることのみ。やがて母が亡くなり、軽犯罪に手を染めた彼は更生施設に送られるが、誰にも殴られないし三食食べられる生活は意外と快適。やがて父親も他界し、母の姉であるおば夫婦に引き取られ、アンナという恋人もできるが、急に彼は軍隊に志願し…。

    この手記には、意図的に語られていないことがいくつかあり、フィルは催眠暗示などでジョージからそれを聞きだしていく。やがておぞましい事実があきらかになり…。

    真相がわかると、吸血鬼というよりは、カニバリズムに近かった印象。それも精神分析で原因が解明されるタイプの近代的なやつ。ジョージの手記にある「狩り」という行為の持つ意味や、尻切れトンボになっていて引っかかった部分(父に似た夜警、罠にかかっていた少年)、そして秘密にされていたアンナとの性行為の内容についてなど、もれなく回収されていてそこはスッキリ。ただ、いずれも想定内の内容ではありました。

    ネタバレかもしれませんがルーシーの手紙の一部が、最も本質を突いていたと思うのでそこだけ引用。「兎もりすも、少年も老夜警も――みんなそれぞれに、暖かく滋養たっぷりの液体にあふれたママだったのではないでしょうか、生き物はすべてママの乳房であり(後略)(220頁)」

    余談ですが最近1970年代の和製吸血鬼ホラー「血を吸う」シリーズ3作まとめて見たのですけど、やたらと催眠暗示とか、ロールシャッハテストとかしていたことが気になったんですが、1961年出版の本書でも、フィルが精神科医ということもありやたらとそういうのが出てきます。アメリカで60年代に流行った精神分析が、70年代には日本で流行り出した…みたいな感じだったのかな。

  • 狩の描写が克明でこれ作者のたいけんなのかなとかおもった

    吸血鬼ものではないけど大きく見れば吸血鬼ものなのかな

    西部劇では悪い奴は腹を撃たれいい奴は胸や肩を撃たれるというモチーフが後半よく効いてる

  • ホラーやミステリーには手を出さない事にしてるのですが、スタージョンと言う事で読みました。
    ホラーです。確かに。
    スタージョンといえばどうしても幻想的SF「夢見る宝石」を思い起こします。と言うよりも、その一冊だけ(「人間以上」は有名だし、読んだという記憶だけはあるのですが、内容は全く思い出せない)。そのせいでしょうスタージョンについては、なんともいえない暗さと独特の美の世界。そんな印象があります。
    暗さという面では「宝石」よりも日差しがある感じがします。「宝石」は全体が暗く、その中で小さな明かりを際立たせてるのに対し、これは全体は明るいのだが、その裏の暗さを浮き出させているのでしょう。
    じんわり・・・ですね。

  • シオドア・スタージョンと言うとスタージョンの法則(SFの90%はクズ、でも全てのものの90%はクズ)で有名なSF作家と思ってしまうわけですが、著作リストを見たりすると、SFだけではなくむしろこの小説のような奇妙なミステリともホラーとも区別のつかない奇妙な味の小説を多く書いた作家と見た方が当たっているようです。

    この小説も昔の創元推理文庫なら、マークをどう付けるか困るようなお話です。でも、帆船やSF、ピストルでないことは確かです。

    東京の米陸軍駐屯地で、精神科医の少佐が一通の手紙の差出人である兵士を訊問します。兵士は少佐から何かを問いただされると態度を急変させて、渡されたコップを握り潰して彼に飛びかかろうとしました。ところが、傷ついた自分の手から流れる血を見て、それを舐めはじめます。

    三人称で語られる小説ではありません。本土に送り返された兵士の手記と、担当の精神科医が上司との間で交わす書簡で構成されます。徐々に兵士の不幸な生い立ちや性癖が明かされますが、あくまでも兵士が書いた手記の中です。

    事件も謎解きも伏線もちゃんとありますから、フェアなミステリと読んでもいいし、あるいは兵士の残虐さに着目してサイコサスペンスと読んでもいいと思います。でも、私はこれは人間の孤独と愛に関わる物語だと思いました。

    『きみの血を』は1961年の作で、日本ではハヤカワのポケミスで発行され、後にハヤカワ文庫NVに入りました。翻訳が名訳と言って良いほどの読みやすさです。一晩で一気読みしてしまいました。

  • バイオハザード好き向け、抹香臭さには目を瞑る

  • 二人称で書き始められる物語。
    ドクター・フィリップ・アウターブリッジの机の引き出しに隠されたファイルを読むようにと、誰かが私をそそのかす。

    兵士のジョージが恋人に書いた手紙のことで尋問を受ける。
    おとなしく受け答えしていたジョージが、突然暴れ出す。
    それはなぜか?
    一体手紙には何が書いてあったのか?

    そんなことが陸軍大佐と、精神科医でもある軍曹との間の往復書簡で明かされる。
    そしてジョージの生い立ちが三人称で書かれる。

    ジョージの半生を読み終わって気づく。
    これ、小説だった。
    すっかり、実在する人物のつもりで読んでいた。
    作者の名前を観たときは、SFだと思っていたはずなのに。

    なにか、見えないところで怖ろしいことが起こっているような気配はある。
    でも、はっきりとしたことはわからない。
    家庭的にあまり幸せとは言えなかった少年時代のジョージ。
    父親が酔って暴れる時は、森に出かけて狩りをする。
    そうすることで、ジョージの心は落ち着きを取り戻し、穏やかに過ごすことができるのだ。

    無口で貧乏なジョージは学校でもいじめられていた。
    そんな時も森で狩りをすれば、ジョージは満足だった。

    しかし病気がちだった母親が亡くなり、父親と二人の生活。
    食料品を盗もうとしたジョージは少年院に入れられる。
    そこで、生きていくために必要な知識や技術を身につける。

    父親の死。
    それに伴う伯母夫婦との生活。
    恋人ができたジョージ。

    何かがちょっと不穏な気がするけれど、でも、いるでしょ、なんか不幸な人って。

    けれど精神科医はいうのだ。
    この自伝には、明らかに欠落している事柄がある。
    それが何かがわからなければ、この事件の謎は解けないと。

    忍耐強くジョージの気持ちに寄り添い、知能テストや精神分析の検査を行ううちに明らかになってくるジョージの心の一番奥に隠されていたもの。
    それが、不憫でねえ。
    ああ。そういうことだったのか。

    他人と接することが極端に少なく、不器用で純粋なジョージという男。
    最初に感じた薄気味の悪さが嘘のように、読後ジョージを愛おしく感じる。
    いやこれはすごい本だわ。

  • 全然SFじゃないです~。
    ダニエル・キースかいって感じ。

    凝った構造とか最後の看護婦の使い方とかちょこちょこ仕掛けが小粋でしたが、「人間以上」や「夢見る宝石」を期待して読むと、ちょっと・・・

    和訳が遅かったのもまあそうでしょって感じ。

    小ネタで、「西部劇の善玉悪玉の見分け方」ってのが
    面白かった。

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著者プロフィール

シオドア・スタージョン(Theodore Sturgeon):1918年ニューヨーク生まれ。1950年に、第一長篇である本書を刊行。『人間以上』(1953年)で国際幻想文学大賞受賞。短篇「時間のかかる彫刻」(1970年)はヒューゴー、ネビュラ両賞に輝いた。1985年没。

「2023年 『夢みる宝石』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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