- Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150766061
感想・レビュー・書評
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アガサ・クリスティーを彷彿とさせるような、
カントリー・ハウスという舞台、
奥様や村の名士たちやメイドといった登場人物、
言いたいことを言わずに抑えた会話、
クラッシックな味わいのミステリーだった。
とはいえ、最もアガサ・クリスティー「らしい」のは、
話の中心であるメイドのサリーをはじめ、
登場人物の描写が、
なめらかでありながらくっきりとしているところだろう。
あまりのうまさに、
自分の負うべき責任を軽んじ、いや軽んじている意識もないままに、
愛情ですらない、自らの心情に流される次期当主を憎んでしまったぐらいだ。
それでいて、
謎解き役であるダルグリッシュ主任刑事は、
ちらりと、彼の私生活に触れられただけで影が薄すぎるのではないだろうか。
彼については、次作以降に期待。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ダルグリッシュもの。マーティンゲールという田舎町のマクシー家で、長男のスティーヴンが、メイドのサリーにプロポーズしたと発表する。サリーは皆に嫌われており、男たちに媚びっていると言われている女性だった。そのプロポーズをした晩、サリーは何者かに殺害されているのが発見される。
正直言うと、最初から非常に退屈だった。そのへんは読み終わってからいつも読む解説に載っていて、ああそうだなあと納得してしまった。ジェイムズ女史の作品を読むのは二作目で一作目は「女には向かない職業」だった。いまみると評価がなかなかよいけれど、いま思いだしてみると、かなり退屈して読んでいたような記憶があるのは記憶違いなのかしら。
まあ、何れにしてもとても退屈だったという印象がある。ジェイムズ女史の作品は、探偵中心だったり事件中心の推理小説ではなく、あくまで人間が中心の推理小説だからというのは、読んでいる途中からわかってきた。読み終わって冷静になってみると、この作品は殺人事件が起こった周りの人間たちの物語および、殺害されたサリーは本当はどんな助成だったのかが主題だった。
殺人事件をないがしろにしているわけではなく、その中に事件の解決ヒントが混ざっているわけなのだけれど、どうも、事件中心ものばかりを読んでいるので、この女史のスタイルは肌に合わなかったですね……。これといったトリックなどがあるわけでもないので、印象がどうも薄い……。 -
「女には向かない職業」に登場したダルグリッシュ警部が初登場した処女作。英国のとある村の旧家であるマクシー家が舞台。廃人同然の当主サイモンの看病の手を増やすため、最近雇い入れた使用人の若きシングルマザー、サリー・ジャップ。彼女の一見控え目で実は挑戦的な性格は、女性陣の反感を少なからず買っており、屋敷には不穏な空気が雰囲気が漂っていた。教会主催の園遊会・バザーが行われたその夜、サリーは突然マクシー家の長男スティーブンに求婚されたと明かしたのだから、一同は驚愕。旧家の跡取りが、使用人でしかもシングルマザーと結婚とは!だが、そのあくる朝、サリーは寝室で絞殺死体となっていた…。ダルグリッシュ警部の性格づけが弱く、よくいえばいぶし銀。でももう少し何か特徴を持たせてもいいのでは、と勝手に思った。だが、この作品の主軸はあくまでマクシー家の人々。だからあえて、いち探偵であるダルグリッシュ警部を控え目にしたのかも。犯行当夜の容疑者たちへの事情聴取では、警部の指名順で行われたはずだが、なぜか○○○の番だけ飛ばされて描写されていたので、○○○が犯人か?と思わされたり。はじめは限られた人数だった登場人物がだんだん増えていき、モノローグのない人物が犯人か?と勘繰ったり。読者に犯人を当てさせようとしてか、警察の捜査の進捗状況はあまり明らかにされない。結局、ラスト7ページの「じゃあ、あなたでしたの!あなたが---」という部分までわかりませんでした(゜_゜)ガクー。英国調の雰囲気が好きな人にはお勧め(自分は好み)だが、訳が古くてちょっと読みづらさを感じた。
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たくさんのシリーズがあるようです。次も読んでみます。
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アダム・ダルグリッシュ警視シリーズ第1作。
イギリスの片田舎にある屋敷で、その家の長男と婚約を発表したばかりのメイドが殺された。調べが進んでいくと、被害者の好ましからざる言動が次々と明らかになる。
エリート警視の活躍を描いたミステリ(この作品ではまだ主任警部)。著者デビュー作とのことで、ぎこちない文章や展開がところどころ見受けられるし、訳文も読みにくい感じがする。だが、さりげなく披露される人間心理の描写が秀逸で、読み応えがある。 -
アダム・ダルグリッシュ警部シリーズ第1作目にしてジェイムズデビュー作。彼女の諸作品からは想像がつかないほど、本の厚さが薄いことに驚かされるだろう(大げさか)。本の薄さと相まって物語もシンプルだが、では内容も薄いかというとそうではない。
物語は富豪の旧家で起きたメイド殺しの捜査にダルグリッシュ警部が乗り出すというもの。富豪の家で起きた殺人事件で当然容疑者はその屋敷に住む人間達と従事する人々という、実にオーソドックスなミステリに仕上がっている。で、この事件を捜査するにつれ、表面では見えなかった人間関係の綾、愛憎入り混じった御互いの感情などの相関関係が浮き彫りにされる。このスタイルはジェイムズ作品特有のものであり、すでにデビュー作から彼女の創作姿勢は一貫しているといえるだろう。元々ジェイムズ作品の舞台となる場所というのは、実は裏側に潜む悪意などで、ぎくしゃくした人間関係が微妙な均衡で保たれており、それが殺人という行為が崩壊の序曲となり、ダルグリッシュが関係者を彼ら・彼女らに新たな方向性を指し示す導き手という役割を担っていることだ。本作でも外から見ると何不自由なく、平穏無事にその暮らしを継続しているような旧家の人々が実は危うい均衡の上で関係を成り立てさせており、その中心に被害者がいたと解る。
そしてジェイムズがこのデビュー作で最もやりたかったことは被害者の人物像を浮き彫りにすることだろう。通常殺人を扱ったミステリならば、動機を探るべく被害者の周辺を容疑者たちの間を渡り歩くことで犯人像を浮き彫りにしていくのだが、本作では被害者となったメイドの隠された本性が捜査によって見えてくる。未婚の母にして富豪の長男との婚約にこぎつけた、シンデレラのような女性が、実は・・・と解ってくるのはなかなか面白い。
だからといって本作が面白いかというとそうでもない。後の長大重厚作品に比べれば読みやすいものの、既に本作からくどいまでの緻密な描写が盛り込まれており、ミステリ初心者にはすんなり読める類いのものではないだろう。ミステリを求める向きの方々よりも濃厚な人間ドラマを求める方の方が性に合うと思える作家だ。