青い眼がほしい (ハヤカワepi文庫 モ 1-1)

  • 早川書房
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感想 : 91
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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200069

作品紹介・あらすじ

ノーベル文学賞作家、トニ・モリスン逝去。代表作に『青い眼がほしい』など。

誰よりも青い眼にしてください、と黒人の少女ピコーラは祈った。そうしたら、みんなが私を愛してくれるかもしれないから。白い肌やブロンドの髪の毛、そして青い眼。美や人間の価値は白人の世界にのみ見出され、そこに属さない黒人には存在意義すら認められない。自らの価値に気づかず、無邪気にあこがれを抱くだけのピコーラに悲劇は起きた-白人が定めた価値観を痛烈に問いただす、ノーベル賞作家の鮮烈なデビュー作。

感想・レビュー・書評

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  • 筆者に初めて触れたのは「ホーム」を読んだ時。朝鮮戦争から戻った兄妹の無残な、救いのない話。あたかも御須メルを文でなぞるような癒しと救いの魂を感じた。

    先日フォークナーを久しぶりに読み、難解で捉えようのなかった偉大なノーベル賞作家に再度くらいついてみる気になったから。
    読むという行為は「単に頁を捲り、その世界に触れる」だけでは無謀で、入念な下調べとプロット研究、筆者の成育、生活歴、家柄を知って・・成って行くと私には初めての足踏みをしつつかかる。
    そこに浮き上がってきた、トニ・モリスン・・フォークナーと同じ、ノーベル賞作家、しかも扱うテーマが人種差別。

    何も知識がなかったら、やはり食いつき辛かったと感じさせられた。
    叙述が積み重なり、時系列を度外視した一見ばらばらの連作が集まってできている。
    ピコーラという少女は12歳、物語を綴るのは筆者の分身と思しきクローディア。そしてピコーラの父チョリーと母ポーリーンの過去が掘り起こされて行く。表題になっている「青い眼が欲しい」と請われるソープヘッド・チャーチの身辺が浮かび上がる。

    作品の舞台は1941年、太平洋戦争が始まろうとしている暗雲垂れこめた米世界。フォークナーがノーベル賞を受賞したのは1946年。アメリカ社会を分断した北軍と南軍のしこりが歪みを持ったまま、南北戦争の解決は南部貴族、プアホワイトなどを新たに生み出したまま世界大恐慌へ。追い打ちをかけるような相次ぐ天災の爪痕(スタインベックの作品によく書かれている)を持ったまま、なだれ込んだのがこの時期だ。

    南部の貧困層(大半は黒人、それも奴隷層)を抱え込んだまま今に至っている。フォークナーの信奉者であるトニ・モリスンの想いが随所に表れている。フォークナーは南北分断の犠牲者が抱く虐げられた感情をそのまま負とするのではなく、乗り越えて行くために勇気が必要とうたったが・・その後続いた数々の事件を盛りスンはどう捉えたであろう。2019年に世を去るまで彼女の胸に去来した想いの原点がここに詰まっていることを静かに、重く、まるで霊歌の響きのように訴えている作品だ。

    グリーンブックを見て感じたのは主役の演奏家の姿、瞳の毅然とした輝石のような煌めき。あのような方も、同時期に苦悩と差別と煩悶の中で戦い生きていたのだという感慨が再度蘇った。4半世紀かけないと世の光が当てられなかったことを噛み締める、そんな作品だった。

  • 「誰よりも青い眼にしてください、と黒人の少女ピコーラは祈った。そうしたら、みんなが私を愛してくれるかもしれないから。白い肌やブロンドの髪の毛、そして青い眼。美や人間の価値は白人の世界にのみ見出され、そこに属さない黒人には存在意義すら認められない。自らの価値に気づかず、無邪気にあこがれを抱くだけのピコーラに悲劇は起きた-白人が定めた価値観を痛烈に問いただす、ノーベル賞作家の鮮烈なデビュー作。」

    「暗い話だが、読むのをやめようという気にはならない。モリスンは差別を見据えて憎みながらも、人には優しいからだ。ピコーラの両親の生い立ちにも触れながら、なぜこの悲劇が起きたのかを構造的に見せていく。
    社会は、白人による価値観でできていた。だから黒人は、白人による差別だけでなく、黒人同士のさげすみや偏見にもたらされた。例えばピコーラがいじめられる場面。いじめているのは黒人の少年たちだ。ー「侮辱にはげしい勢いを与えているのは、自分たち自身の黒さに対する軽蔑だった」とモリスンは書く。」
    (『いつか君に出会ってほしい本』田村文著 の紹介より)

  • デビュー作?
    とんでもない作品だ。
    比べるべき作品は、『苦海浄土』しか思い浮かばない。

    差別を僕らはある決まった物語の尺度でしか見ていなかった。

    その奥底、本当の意味をトニ・モリスンの言葉、表現で初めて知る。しかし、それは序の口という印象だ。悲惨に底はない。

  • ああ、久々に読書にこんなに時間を要してしまった。
    以前から翻訳小説は苦手だったが…
    私には難しすぎた。
    感想を述べるほど消化出来ていないが、だからもう一度読んでみたいとも思う。

  • やはり洋書の翻訳本は読みづらい。副詞が多くて回りくどい表現の嵐。ストーリーを理解するので精一杯でした。私には不向きのようです。気が向いたら再読してみます。

  • 文章の素晴らしさに驚いた。「秘密にしていたけれど、1941年の秋、マリーゴールドはぜんぜん咲かなかった」「秘密にしていたけれど」の言葉の意味が持つ親密さ、打ち明け話、信用、このニュアンスが持つ子供の無垢さ。それが差別、暴力の助長につながる。そこをとてもうまく同居させている。

  • 難しかった
    白人の容姿が美しい、黒人はひどいという対比を白人が書くことはできないと思うが、だからといって黒人である作者が、そう考えて差別的なことも書いていくのは衝撃だった
    確かにピコーラが白人の青い眼を持っていたら、いじめを受けたり、父親から酷いことをされずに済んだのだろうか
    文体がピコーラをただ憐れに思わせないようにしているとあったが、結末的にいえば、やっぱり暗くピコーラは可哀想と思ってしまった
    ただ、チョリーの過去話も挟んでいるので、なんとなく理由はあったのかなという同情する余地はすこしだけあった
    貧困、差別、黒人だからしょうがないのかという諦めのように受け入れつつ、青い眼を望むピコーラの姿が悲しい

  • 読んだ本は1994年6月30日初版発行の早川書房の本、黒人女性だから書ける本、深く重い印象、ピコーラと言う黒人の女の子の名前が記憶に残る、著者と訳者が1931年の同年生まれ。

  • 白人による黒人の差別だけでなく、黒人の間でも差別があること、それも無邪気な子供の頃から。悲劇は何故起こったのかを考えるとズシッと心に響く。この本が立派に出版されるまでに25年もかかったと言う。それでも社会は少しずつ動いている。

  • 白人思想に覆われた日常に、白い肌や青い眼であれば自分も自分として愛されるのか?という黒人少女の純粋で真っ当で身を切るような願い。
    自分たちが劣っているとされる、値打ちがないとされるとしても、同じ黒人のモーリーンは「かわいい」。彼女を美しくしているものを憎むべきだ、という観察眼の鮮やかな切れ味が随所に描かれ、堪能した。現実の根深さに心をえぐるような小説だけど、決して読むのを諦めたくなるようなものではなかった。
    日を跨いで読むよりも一気に読むのがおすすめです。

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著者プロフィール

1931-2019。アメリカ合衆国の作家。小説に、『青い眼がほしい』(1970)、『スーラ』(1973)、『ビラヴド』(1987)、『ジャズ』(1992)、『ホーム』(2012)など。彼女の長編小説はすべて日本語に翻訳されている。絵本に、スレイド・モリスンとの共著『子どもたちに自由を!』(1999、長田弘訳、みすず書房、2002)『どっちの勝ち?』(2007、鵜殿えりか・小泉泉訳、みすず書房、2020)、『いじわるな人たちの本』(2002)、『ピーナッツバター・ファッジ』(2009)、『小さい雲と風の女神』(2010)、『カメかウサギか』(2010)、『ほんをひらいて』(2014、さくまゆみこ訳、ほるぷ出版、2014)など。写真絵本『忘れないで――学校統合への道』(2004)はモリスンの単著。ノーベル文学賞(1993)のほかに、全米批評家協会賞、ピュリツァー賞、大統領自由勲章など数々の賞を受賞。プリンストン大学などで教鞭をとった。

「2020年 『どっちの勝ち?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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