ハイ・フィデリティ (ハヤカワepi文庫 ホ 3-1 epi107)
- 早川書房 (2022年12月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
- / ISBN・EAN: 9784151201073
作品紹介・あらすじ
35歳男のレコード店主、彼女に振られる。でも気にしない。恋人よりも音楽が大事、のはずだった。長い青春の終わりを描いた名作
感想・レビュー・書評
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自分が魅力に感じたのは共感力と文章力でした!そして心と体の年齢ギャップを抱え、後ろ向きに生きる自分にはとても他人事に思えない感じがしました。
本作の主人公ロブはまさに体は大人だけど心はまだ子どもな35歳独身男性。不景気なレコードショップを経営し、ロマンス溢れる80年代ポップソングに心酔しているオタクです。彼は音楽に描かれるようなロマンティックな恋愛を求め、世帯をもつなんて我慢ならないといった感じです。
当たり前の生き方や単調な幸せを選べない、小説や漫画のようなドラマティックな何かが自分の人生にあれば…と思ってしまう自分はロブにとても共感しました。その一方で自分はこのままでいいのか、10年もしないうちに彼と同い年だ、こんなんでいいのか…と思いつつ読んでいたので、ある意味でロブは同士であり反面教師とも言えます。
そんな彼の特徴としては自己憐憫にかられているところも挙げられます。自分を擁護しながら責めている様子が随所に見られ、そこがとてもフランクな文章で表現されています。大人になりきれない心理を楽しく読めるのもやはり魅力的です。
本書ではクソッタレなロブが少しずつ内省の果てに、幼い精神を成熟した体に合わせて調律していくような内容です。そこに大きな事件や魔法、不思議な力なんてものは全く出てきません。過去と現在そして未来と不器用に向き合いながら大人になっていく35歳児の姿をみて、自分もなんとかしなきゃなと思わずにいられませんでした!
好きなものに囲まれているのに、このままで自分は良いのだろうか…と考える人々にとてもオススメの作品です!!
※音楽の内容が多いのですが、注釈が細かくあるので置いてけぼりにはならないで済みます!その注釈からは訳者の作品への愛が感じられてそこも良いです!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
少し前、読書会で「ニック・ホーンビィ」「チックリット」などのワードが30代以下の若者たちに通じなくてビックリした経験がある。まあ私も映画『アバウト・ア・ボーイ』面白かったな程度で詳しくはないが、1990年代?この手の小説結構人気でしたよね?今回、新版が出たということで、コメディとして古いかなと思いつつ読んでみたが、訳者の方が主人公の声を見事に日本語になさっていてとても読みやすかったし(音楽関係の詳しい訳注も圧巻!)、さすが一世を風靡した(したよね?)だけあって、今読んでも笑えるところはたくさん。だがしかし、自分の狭い趣味にこだわり、半径数メートルにしか興味なく、わかれた女にしつこく電話して迷惑をかけるなど、主人公の幼さにはドン引きせざるをえなかった。そしてその幼さは私ら世代特有の幼さ(主人公は私よりは10個くらい年上だが誤差みたいなもんだろう)であり、今若者たちを苦しめるような世界にしてしまった責任はやっぱり私たちにあるよな…みたいな苦い気持ちにならざるをえなかった。主人公は最後にいろいろ反省し、ようやく大人への道を歩み始めるわけだが、それにしたってなあ…。女性たちが短所を抱えつつも自分らしさを大事にしてる感じがうまく描かれているのが救いかな。野暮な感想ですいません。