複数の時計 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 早川書房
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感想 : 51
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  • Amazon.co.jp ・本 (501ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151300295

感想・レビュー・書評

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  • ドラマで見た覚えがうっすらあるが思い出さないうちに読み終えた。霜月さんの攻略本で低評価だったが、語り手が変わる形式や殺人と諜報活動の2つの謎が入り乱れつつ恋愛要素もあり、最後まで読者を飽きさせないような配慮?が感じられ面白かった。

    • ポプラ並木さん
      111108さん、
      共読ですね。
      本作は何だか面白くなかったです。
      伏線回収が多く、関係ないアイテムが出てきたり。
      ちょっと悩ましい...
      111108さん、
      共読ですね。
      本作は何だか面白くなかったです。
      伏線回収が多く、関係ないアイテムが出てきたり。
      ちょっと悩ましい感じでした。
      2023/05/21
    • 111108さん
      ポプラ並木さん、コメントありがとうございます。

      ポプラ並木さんもこれはダメでしたか。攻略本でもかなり低評価でしたね。私は場面が切り替わるこ...
      ポプラ並木さん、コメントありがとうございます。

      ポプラ並木さんもこれはダメでしたか。攻略本でもかなり低評価でしたね。私は場面が切り替わることでめりはりあって一気に読めたので、伏線回収できないことには目をつぶって(!)それなりに楽しめました。
      ただ、ポアロとスパイ物語の相性は良くない気がしますね。
      2023/05/21
    • ポプラ並木さん
      そうそう!しかもリンクしない2話。単純な事件だったのでがっくり・・・
      そうそう!しかもリンクしない2話。単純な事件だったのでがっくり・・・
      2023/05/21
  • 翻訳の問題か?楽しさが微妙に伝わらない。読者の方の酷い感想が多々書かれていた。やっぱり。。。タイプ引受所に勤務するシェイラは、速記タイピスト派遣の依頼を受け、依頼人のもとへ向かった。しかしそこで目にしたのは知らない男の死体だった。その部屋の住人は目が見えないペプマーシュ。彼女はタイピストを依頼していなかった。また部屋に置かれた複数の時計、死んだ男は何者なのか?誰が彼女を呼んだのか…。多くの謎が残る中、タイピストが殺され、さらにもう1人。犯人動機はまあ納得、が、伏線未回収の酷さと不明なミスリードが多すぎ。②

  • タイピストのシェイラは、派遣先である住宅街の一室で男性の死体を発見する。そこには複数の時計が置かれており、時計の針は本来の時刻ではなく四時十三分を示していた。ポワロは友人の秘密情報部員、コリン・ラムの情報を得て謎を解明する。

    ううむ、これはちょっともったいない。最初に広げた風呂敷をうまくたためていない、という感じだ。
    話のつかみはおもしろい。いきなり現れる身元不明の死体。謎を呼ぶ複数の時計。四時十三分の謎。どことなく怪しげな住宅街の住民。コリン・ラムのくだりに嫌な予感を感じつつも(クリスティの作品はスパイが絡むと面白くなくなる)、『ナイルに死す』のような見事な収束を期待したのだが、一番の謎がかなりどうでもよいトリックだったことが判明し、がっかりする。

    ポアロがほとんど活動しないのも残念ポイントの一つだ。彼はもともと足を使った調査はあまりしないが、それでも自ら関係者に話を聞きに行くことは多い。そしてそのやり取りの中でちょっとした伏線がまぎれこませてあったり、ポアロのユーモアやジェントルマンな振る舞いが読者を楽しませてくれるのだが、この話にはそれもない。それほど切れ者とは思えないコリンのまだるっこしい聞き取りや捜査の様子が終盤まで続くので、退屈してしまうのだ。
    この作品は後期の作品。クリスティ、ちょっと疲れてきたのかな。
    『アガサ・クリスティー完全攻略』ではこの話の評価は甚だ低い。今回は私も著者の霜月氏に一票、である。

    ちなみに、先日BSプレミアムでこの話のドラマが放映されていた。話はわりと原作に忠実に作ってあったように思うが、恋人を自分の過失で失い傷心のコリンと、恵まれない境遇のシェイラが、疑心暗鬼になりながら少しずつ心を通わせていく様子が盛り上げ要素としてストーリーにうまく肉付けされていて、原作よりも面白く感じた。

    • b-matatabiさん
      111108さん、こんばんは。いつもレビュー楽しく拝見しています。

      この前のドラマ、よかったですよね。
      クリスティの作品の中で、男性...
      111108さん、こんばんは。いつもレビュー楽しく拝見しています。

      この前のドラマ、よかったですよね。
      クリスティの作品の中で、男性キャラがまだどんな人かわからないのに美しい女性をすぐ好きになって、最後に結婚まで申し込むのがいつも納得いかず…
      この前のドラマは、お互いに惹かれあっていく様子が丁寧に描かれていたので納得しました。
      コリンもちゃんと働いていましたね。
      2021/08/17
    • 111108さん
      お返事ありがとうございます♪
      こちらこそ丁寧なレビューをいつも楽しく感心しながら拝見してます。

      「男性キャラが美しい女性をすぐ好きになって...
      お返事ありがとうございます♪
      こちらこそ丁寧なレビューをいつも楽しく感心しながら拝見してます。

      「男性キャラが美しい女性をすぐ好きになって結婚まで申し込む‥」確かに、ヘイスティングスを筆頭に惚れっぽい男の人多いですね。時代なのか?話を盛り上げるためのクリスティーの常套手段なんでしょうか?
      2021/08/17
    • b-matatabiさん
      クリスティ、結構情熱的な感じなので、会ってすぐ運命感じてしまうのが当たり前、と思っていたのかもしれませんね。
      クリスティ、結構情熱的な感じなので、会ってすぐ運命感じてしまうのが当たり前、と思っていたのかもしれませんね。
      2021/08/17
  • ポアロじゃない2人の人物の視点で話が進められていく。
    でも最後はやっぱりポアロがさらっと事件を解明していくのがさすが!
    今回もポアロの自惚れ具合にクスッとした。

    今回の語り手の一人が殺人犯とは別に、ある人物を探していた。
    最後にそれも明るみに出るけど、予想外の人物で驚いた。
    さらにその人は他の人とも縁ある人だったり…
    最後の最後にビックリさせられた。

  • 盲目の女性が暮らす家で、家主の外出中に突如現れた身元不明の男性の死体、その現場に、何者かに名指しで呼ばれたタイピスト、部屋には外から持ち込まれた複数の時計…。
    物凄くドラマチックに、物語が始まります。
    舞台となる住宅地の形状も特徴的で、読みながら想像する楽しさがありました。
    若者目線で話が進んでいくからなのか、ポアロが面倒くさいおじいちゃんと化していて、何だかふふっと笑ってしまいました。
    実は2つの事件が同時進行、殺人事件の片が付いた後にもうひと展開あり、クライマックスの対峙シーンの、静謐でびりびりした空気感がとても好きです。

  • 中学生の頃読んで話は記憶にないけど、とてつもなく面白くなかったという印象だけ覚えていた本書。例の『完全攻略』でも⭐︎と最低評価だったのでちょっとクリスティ完全読破のためとはいえ、少々気が重かったが…

    読み出してみるとそれほど悪くない。すぐに事件は始まるし最初に提出される謎も興味を惹かれる。が、そこまで。

    謎は中途半端でしかないし後出しの設定も多い。なんだかテンポも悪くコリンの手記風に語られる章も一人称が変わるだけでその必然性が分からない。ポアロの態度も何だか煮え切らないし、スパイものテイストが混じるのもポアロものでは良かった試しがない(トミーとタペンスは好きだけど)。中学生の頃の記憶は正しかったかな…
    しかしビッグ4よりはましかもしれない。

  • クリスティーでよくある展開。特に目立ったトリックやキャラはいなかった。柿沼瑛子さんの後書きが良かった。

  • ポアロシリーズ29作目。
    あらすじの内容に惹かれて読みはじめたのだけれど、<死体を囲むあまたの時計の謎に、ポアロが挑む>というほど時計は多くない。笑
    そして晩年の作品だけあって、年老いたポアロの登場が少ないのが残念。
    ほとんどが情報部員のコリンとハードキャスル警部の捜査でストーリーが進む。

    でも、いいとこ取りのポアロの謎解きスピーチはやっぱり引き込まれる。
    複雑な人間関係と、こことここが繋がるのか、と読んでいるだけでは想像つかない結末だったけれど、ポアロの謎解きでおおー!と合点がいった。
    ポアロが読み耽っていた歴史ミステリーと、その講義のような紹介も大事な構成のひとつだったのだと納得。

    ヘイスティングズを想い、回想するシーンは切なくなってしまった。
    ポアロシリーズ、やはりポアロとヘイスティングズのバディがいちばん好きだ!

  • ポアロ@住宅街!隣近所を巡りながら、噂話を聞いて歩く。この街、なんか変じゃない!?といっても動き回るのは警部と諜報部員で、ポアロは安楽椅子に座り小説を貪り読んでいるのだけど。そのポアロの口を借りて展開される推理小説論がすこぶる愉しい。大仰な事件の仕掛けと、それの解決される顛末は、古今東西の小説で繰りひろげられる、奇妙奇天烈なトリックを嘲笑うかのよう。晩年のクリスティーは、自ら創りあげたミステリの枠組みそのものを破壊しようと腐心していたようにおもえる。枠の、本の外側へ!ポアロだって時には外へ出たくなるのだ。

  • なぜ殺害現場に時計が置かれていたのか?とか、指していた時刻にはどんな意味が?とか、…真剣に頭を捻った自分がバカみたいだなぁ、と思いました。

  • タイトルからして時計が重要な役割を担っているのかと思いきや、時計である必要性はなくしょぼい解答で拍子抜け。
    また、話はダラダラと長いですし、ご都合主義的な展開が多く鼻につきます。ポアロによるミステリー評論も感心する内容ではなく、総じて不出来な印象です。

  • 1963年というクリスティにしては晩年に近い作品。
    ポワロ物だが登場は後半。

    ドラマを見たら原作と違うようだったので、再読。
    そう探偵役というか語り手がコリン・ラムだったよね。
    レイス大佐の息子の人格に疑いがかかるような改変でした。不自然に思えた部分はほぼ改変。まあさらっと見ればいいんだけど。

    高齢で盲目の女性ペブマーシュさんの所へ、秘書斡旋会社から派遣された若い女性シェイラ・ウェッブ。
    名指しでの依頼で、入って待っているように言われた部屋には、時計がやけにいくつも置いてあった。
    そして、ソファの陰には男性の死体が!
    悲鳴をあげて飛び出してきたシェイラを受け止めた若い男性コリンは、ある仕事の捜査に来ていたのだったが…?
    ウィルブラーム・クレスントという三日月型に2列に並んだややこしい家並み。裏庭が接しているのだ。
    クレスントとは、新月の意味。クレスントというのは実際に幾つかある地名らしい。

    見えそうで見えない隣近所。
    ペブマーシュさんは秘書を依頼したことはないという。
    男性のことは近所の誰も見たことがない。
    各家の住人達の個性が面白い。
    猫を14匹飼っていて、猫のことしか見ていない隣人とか。
    男の子二人の子育てに疲れ切っている主婦とか。
    たまたま警部と友人だったコリン・ラムは捜査にも同行。
    シェイラへの好意をからかわれつつ。
    半ば隠退して、退屈しているポワロに連絡を取る。ヘイスティングスは南米に行ってしまったとか。
    さて、ポワロの推理は。

    後書きは脇明子さん。
    巻末の著作リストが親切。

  • このシリーズを読み続けているからこそ、見当違いの方向に導かれた感がある。
    これぞ無意識の先入観か。
    正体不明の男の死体と、彼を囲むように置かれた複数の時計。
    もうこれだけでワクワクしてしまうもんなあ。
    それにしてもポアロってこんなに年老いてたっけ?
    すごくお爺さん感があって、ちょっと驚いてしまった。

  • アガサ・クリスティー。ポアロシリーズ。
    盲目の教師の家でタイピストが謎の男の死体を見つける。
    現場には謎の複数の時計が置かれていた。
    ポアロシリーズではあるがポアロの出番は少なく、ぽっとでの情報部員が語り手となり進んていく。
    正直平凡以上のできではなく、複数の時計の意味も拍子抜けで、情報部員側の任務も、なぜ混ぜたのかわからないできでした

  • 小説もドラマも初見だと思ってたけど、エドナの件、ドラマで覚えがあった。

    小説版でのポアロの登場シーンは少なく、コリン・ラムさん中心でしたね。ラムさんとハードキャスルさん。
    ラムさんの一人称の章も多かったし。
    わざわざ一人称である必要があったとは思えないけど。

    よく読んでたつもりだったけど、最後はやっぱり、『これが関係してたのかぁ!』てなった。

  • 久しぶりに最初から引き込まれる舞台装置だった。動機の部分(人に成り代わっているから、成り代わった人を知っている人に会いたくない)は他にもあったような。舞台装置はめくらましで関係ないのは、よくあるパターンかもしれない。それにしても二重の解決編があるとは。

  • 映像で見たことがあったので、犯人はなんとなく覚えていたけど、やっぱり本で読むと詳細がわかる。もう一度映像を見直したい。

  • タイピストが登場するミステリーという点に惹かれて読んだクリスティー作品。奇妙な殺人事件。個性的な隣人たち。スパイ要素もあり。お馴染みの名探偵ポアロが主人公ではなく、ゲスト的扱いで公物語後半から登場。もったいぶりながらしっかり美味しいところを持っていく老人探偵。推理しながら読むのは楽しかったけど最後の最後で正直なところ え?!というような終わり方だった。タイトルの複数の時計が実は…若干拍子抜け。犯人が誰かわかりそうでわからない感じが楽しい。

  • 「ことにワトスン医師というすばらしい人物の創造。あれはまさに大成功だよ。」
    「あの愛すべき友。ヘイスティングズ。きみにも幾度となく話したことのあるわが友、ヘイスティングズ。」
    歳をとったポアロのこういう発言はなんだか切ない。

  • 数あるアガサ・クリスティ作品としてそれほど目立ったものがあるとは思いませんでしたが、1960年代の作品とあってか当時ブームとなったスパイ要素が加味されていてそこが面白かった

  • ポワロおじさんはソファに座って事件を鮮やかに解く。
    スパイもののような展開もあり、その時代の、というか、語り手の?社会主義に対する目線もあり、おもしろい。
    読むのに、ちょっと時間がかかりましたか、ね。

  • ポアロはほとんど登場せず。
    おいしい所だけちゃっかりと持っていく。

    主人公の出番が少ないのは
    「バートラム・ホテルにて」と似ているが、
    それと比べると物足りない。
    ポアロもので彼の出番が少ないのはいまいちかも。

  • ポアロシリーズ久しぶりだぁ。
    でも、あんまりポアロ出てこなかった。。。の割に、面白かった。
    最初読んでたときは犯人を予想出来てたんだけど、いろんな人が次々に出てくるもんだから、頭の中こんがらがったよ。
    ほんと、ポアロの言うように真相は単純だったわけですね。
    しかし、その犯人とは別に衝撃的な真実も最後にわかってびっくりしました。あれは予期せぬことだった。
    盲目のペブマーシュさんの毅然とした態度、素敵です。
    もっと、彼女を登場させてもらいたかった。
    したら、もっと感慨深いものになったのに。。。ざーんねん。

  • 思わせぶりなタイトルだなあ。
    思わせぶりなタイトル…ということがポイントなのかな。
    あまり印象に残らない話だった。
    ポワロの出番も少ないし。

  • ポワロ作品

    【あらすじ】
    タイプ事務所に勤める女が訪ねた家で男の死体が見つかった。死体のあった部屋には複数の時計が置かれていたが、事件の後処理の最中、その1つがなくなった。別件で付近にいた情報機関の男は、警察と一緒に聞き込んだ情報を持って、ポワロの元を訪れる。

    【感想】
    今回、ポワロはあまり表に出ず、情報機関の男の目線で多くが語られている。話の構成としては、住民の聞き込みから不審な点を調査している内に、気になる動きを見せた人物が魔の手に…という展開になっている。
    序盤に興味を引く伏線が幾つか張られているのだが、あまり意味が無かったり、軽い説明で片付けられるため、全体的に拍子抜けしてしまう点が残念。タイトルの「複数の時計」もさほどトリックには関係なく、読み始めの期待が裏切られた感が残る。
    なお、本中にはポワロを通して語られる推理小説の批評があり、古典が好きな人は読んでおく価値はあるかも。

  • ポアロが安楽椅子探偵でまるでマープルみたいだった。犯人だけでなく親子関係や被害者の正体まで推理しながら読めるので面白い

  • 中学生の時から、どうしても途中で退屈になっちゃって、どうしても最後まで読めなかった。私にはまだ早いということなのだろうか……。もう二十を過ぎたというのに。

    またいつか再挑戦したい。

  • ポワロの出番が少なくて残念。意外な結末には驚いた。

  • エルキュール・ポアロ・シリーズ

    秘書派遣会社から派遣されたシェイラ・ウェッブが尋ねた家にあった謎の男の遺体。持っていた名刺からカリイという名が浮かび上がるが・・・。実在しない会社。現場から飛び出したシェイラと出会ったコリン・ラム。現場に残された4つの時計の秘密。消えた1つの時計。コリンが援助を求めたポアロ。安楽椅子探偵のポアロ。検死法廷の日に電話ボックスで絞殺されたシェイラの同僚エドナ。被害者の妻だと名乗り出たマリーナ・ライヴァル。派遣会社の所長マーティン・デール女史。殺害されたマリーナ。隣人のブランド夫人の証言に隠された秘密。

     2011年11月3日読了

  • んん、コレクターズアイテムですよね、これは。
    クリスティーは面白い小説を書く人として有名ですが、
    面白い小説を読みたい人は読まない方がいいです。
    ポアロが(つまりクリスティーが)ミステリ論をぶつ、
    いや、論というよりは寸評か、そういうところが唯一
    面白いので、第十四章だけがおすすめです。

    オリヴァ夫人は名前だけ登場。
    ポアロはこんなことを言ってます。
    「当時はまだ若かったから、無茶にもフィンランド人の探偵を登場させたりしているが、
    あのひとはフィンランド人もフィンランドという国についても、
    たぶんシベリウス以外は、全然知識がないことは明らかだ」
    わははははは。無茶にもベルギー人の探偵を登場させた
    ある若きイギリス人作家とそっくりですね。

    ポアロは、ミステリの古典については実名を挙げ、
    同時代の作家は名前を変えて論じています。

    古典でいうと『レブンワース事件』(『隠居殺し』)
    『アルセーヌ・ルパンの冒険』『黄色い部屋の謎』
    そして『シャーロック・ホームズの冒険』。
    「シャーロック・ホームズではない! その作家だ。
    アーサー・コナン・ドイル卿にわたしは敬意を表す」
    なんてあたりはさすが負けず嫌いのポアロ。

    名前を変えた作家が実際は誰なのか、考えてみます。
    まずアリアドニ・オリヴァ。
    これは某ミステリの女王以外考えられませんね(笑)。
    シリル・クェイン。アリバイの巨匠。
    てことはクロフツか。
    秩序好きのポアロはお気に召したようです。
    ギャリイ・グレグソン。スリラーものの多作家。
    流血が多い。つまりエドガー・ウォーレス。
    ポアロは「わたし向きの紅茶ではないね」と切って捨てた。
    フローレンス・エルクス。アメリカの女流作家、
    陽気で活気に満ちていて「酒類にとりつかれている」
    ということはクレイグ・ライスでしょうね。
    ルイーザ・オマレイ。
    フランスの犯罪小説を代表する女流作家。
    カトリーヌ・アルレーのことでしょうか。
    「実にたくみなものだよ」
    ジョン・ディクスン・カーだけは実名で出ました。
    しかし論じる前に聞き手が逃げてしまう。残念!

    「ハードボイルド派についてはどうお考えですか?」
    と聞かれたときの答えがおかしい。
    うるさいハエか蚊でもはらいのけるように手を振って
    「暴力のための暴力かね? いったいいつからあんなものが興味を持たれだしたのかね?
     わたしなどは警察官をしていた若い頃に、じゅうぶん暴力を見てきているよ。ばからしい。
    医学の教科書でも読むほうがましだよ」
    チャンドラーへの意趣返しかな?

    事件はなんのひねりもなくダラダラと続く。
    被害者の身元が延々と分らないままという点では
    『チャイナ・オレンジの秘密』や『ながい眠り』に
    似ていなくもない――なんていったら
    クイーンとウォーに失礼なくらい退屈。
    これが五十頁くらいだったらまだ読めたかも……
    と改訂を試みたところで詮ない話。

    しかしあの『寒い国から帰ってきたスパイ』と同じ年に
    こんな気の抜けたスパイものが書かれていたとは。
    (そうなんですよ、一応スパイ的な要素もあって)

    物語の青年主人公はコリン・ラムという名前。
    彼はスパイなので、ラムというのは偽名ですが、
    この話は『ラム君、奮闘す』なわけで、
    もしかしてポアロはバーサ・クール?
    そういえばポアロはいよいよ浮世離れしてきて、
    全然動いてないんですよね。
    ラムの父親はポアロとオリヴァ夫人の友人であり、
    「あれだけ活躍した警視さん」。
    ということは、彼の父親はバトル警視?
    (スペンス警視だったら笑えるけど)


    旧版は橋本福夫さんの訳者あとがき。
    「正直なところわたしは子供ぎらいであり」と打ち明け
    作中で引用されている『鏡の国のアリス』に少しふれて
    汽車の中で三人の少女と偶然仲良くなったことを報告し
    「わたしがチョコレートをポケットにしのばせていたりしたことは、
    わたしを知っている人にとっては謎だろうが、
    推理愛好家のためにそれは謎のままに残しておくことにする」
    橋本さんって変な人だなあ。
    たしかサリンジャーの“The Catcher in the Rye”を
    日本で最初に訳した人でしたね。
    (そのときの邦題はなんと『危険な年齢』!)

    新版は柿沼瑛子さんの解説。
    イギリス人にとっては子供より犬の方が地位が高く
    いつでもどこでもチョコレートをぱくつくということ、
    なぜかサラ・コードウェルがクリスティーと並んで
    「もっともイギリス的」な作家だといういきなりな断定、
    女王の後期は幻想小説の要素が濃くなるという指摘。
    しかし1926年発表の『アクロイド殺し』を中期の円熟期
    に分類するのはちょっと乱暴すぎやしませんでしょうか。
    ん~、柿沼さんも変な人だなあ。
    ゲイ小説ややおい小説(いや、今はBL小説か)を
    早くから翻訳してきた先駆者です。

    今回は……珍対決ですね。
    どう比べたらいいのやら。
    橋本さんも柿沼さんも我が強そうな人で、
    この二人を研究するといろいろ面白そうなんだけど
    解説としては、さて?
    え~、こりゃ引き分けしかない!

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