死が最後にやってくる (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 早川書房
3.59
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本棚登録 : 351
感想 : 36
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  • Amazon.co.jp ・本 (428ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151300837

感想・レビュー・書評

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  • クリスティーの未読作品が減っていく中、最後にがっかり本を引き当てたくない、という気持ちから、霜月蒼氏『アガサ・クリスティー完全攻略』で低評価の作品を先に読んでしまおうとしている。
    本書は霜月氏の評価で5段階評価の星0.5。これまで私が読んできた中では、霜月氏の星1.5以上は問題なしで、星1も場合によってはOK。ただしそれ以下はかなり残念、という感じだった。そのためやや身構えながら本書を読んだのだが、意外に楽しめた。

    舞台は古代のエジプト。レニセンプは最愛の夫を亡くし、子どもと共に裕福な実家に戻ってきた。結婚前と変わらない家族の様子に安らぎを感じる彼女だったが、実権を握る父、インホテプが年若い愛妾ノフレトを北の国から連れ帰ってきたことから状況が一変する。インホテプが自分の言いなりなのをいいことに周囲をかき乱すノフレト。まわりのフラストレーションが頂点に達した時、彼女は崖から転落死してしまう。そしてそれをきっかけに一人、また一人と家族が不審な死を遂げていく。皆はノフレトの呪いだと恐れおののくが、果たして真相は。

    舞台は古代エジプトだが、内容はいつものクリスティーだった。ノフレトのサークルクラッシャーぶりは『メソポタミアの殺人』を思い出すし、二人の男の間で揺れるレニセンプは『満潮に乗って』の主人公を、強い権限を持つ家長に逆らえず家族が不満を募らせる構図は『死との約束』を彷彿とさせる。つまり、この話はクリスティーの様々な要素がてんこもりなのである。そのため、一つ一つの要素が薄味になってしまい、印象に残りにくいという残念な結果になっている。
    ただ、ミステリの面白さはちゃんとあるし、この作品から他のクリスティー作品の要素を探すというマニアックな読み方もできるので、私はそれなりに楽しめた。
    脇役のキャラが立っているのもよい。特に、家族の秘密を探り、毒を加えて吹聴する召使のへネットや、愚鈍で子どもの事しか見ていないようだが底のしれないカイトなどは、主人公以上にインパクトがある。

    決して良い作品とは言わないが、たまにはこんなものも書きたかったのね、とおおらかな気持ちで受け止めれば問題なし。

    • ひまわりめろんさん
      冒頭と末尾めっちゃ分かります!w
      共感しかないレビューです
      冒頭と末尾めっちゃ分かります!w
      共感しかないレビューです
      2024/02/02
    • b-matatabiさん
      ひまわりめろんさん、コメントありがとうございます。
      わかっていただけてうれしいです!

      この作品は割と楽しく読めましたが、面白くないか...
      ひまわりめろんさん、コメントありがとうございます。
      わかっていただけてうれしいです!

      この作品は割と楽しく読めましたが、面白くないかも‥と思うと手に取るのも気が進まず、最近はレビューを書いていない既読本ばかり読んでいました。
      残りは星1以上なので、少しは安心して読めそうです。
      2024/02/03
  • ノンシリーズ。

    紀元前二千年のエジプトが舞台という異色の設定ではありますが、良い意味で“いつものクリスティー”ともいえる、人間ドラマ&ミステリを楽しませて頂きました。

    墓所守をしている一族の長・インホテプが、北方からノフレトという美貌の愛人を連れて帰ってきたことから一族内の空気が不穏なものに包まれていきます。
    インホテプの娘・レニセンブの胸騒ぎも虚しく、ある日ノフレトが墜落死してしまい・・。
    ノフレトVS一族の妻女達のバチバチの対立から、ノフレトの死を皮切りにしての連続不審死。
    その真相は、殺人のトリック云々ではなくて“まさか、あの人が!?”という、“印象操作”的な目くらましで見事に騙されました。
    そして、レニセンブの恋の行方は?誠実なホリかイケメンのカメニを選ぶのか・・というロマンスパートも注目です。
    解説でも書かれていましたが、本当にクリスティーは“人間関係の綾”を描くのが上手いですよね。
    個人的に、トリック一辺倒のミステリより“物語性重視”なので、私がクリスティーを殊更に好む理由がこれなんです。
    と、いう訳で久々にクリスティーワールドを堪能させて頂きました。うん、これこれw。

    • 111108さん
      あやごぜさん、こんばんは。

      これ完全にノーマークでした!
      あやごぜさんのレビューからすると、隠れた名作の感ありますね。
      「印象操作的な目く...
      あやごぜさん、こんばんは。

      これ完全にノーマークでした!
      あやごぜさんのレビューからすると、隠れた名作の感ありますね。
      「印象操作的な目くらまし」で私もクリスティーに騙されてみたいです!
      2022/04/05
    • あやごぜさん
      111108さん、コメントありがとうございます♪

      おお。ノーマークの作品だったのですね!
      紀元前二千年のエジプトという異色の舞台設定...
      111108さん、コメントありがとうございます♪

      おお。ノーマークの作品だったのですね!
      紀元前二千年のエジプトという異色の舞台設定なのですが、クリスティーお得意の人間描写が冴えわたっていて、確かに隠れた良作だと思います♪
      クセの強いキャラも出てきますし、お楽しみ頂けるかと思いますので良かったら読んでみて下さいませ~(^_-)-☆
      2022/04/06
  • 古代エジプトでも連続殺人は起こる。

    父親が若い愛妾を家に連れてきた。彼女の態度に家の者たちが反感を募らせる中、彼女は亡くなった。そして続く不幸。夫を亡くして実家に帰ってきていたレニセンブの運命はいかに。

    いや古代エジプトの意味あったかな、と言ってはいけないのだろうけど、クリスティーがエジプトにハマっていたことは伝わる。しかし別に古代エジプトでなくてはいけない理由は特になかった。だからこそ普遍的なミステリは時代も場所も選ばないんだなぁと思う。多分実写化するならセットを組めばロンドンでも東京でも大丈夫な古代エジプト。

    気の強い義姉、気の弱い兄、自尊心の強い兄、おっとり静かな義姉、我儘で自惚れ屋の弟、老獪な祖母、落ち着いた管理人、湿っぽく押し付けがましい召使い、若くて歌の上手い書記、一家の主人、性格の悪い愛妾。これだけキャラクターが揃っているだけでお腹いっぱいである。一人、また一人と死んでいくのはなかなかスリルがあり、最後にレニセンブに迫る害意もハラハラする。そして明かされる犯人。

    確かに自分で毒を入れたなら飲む量を調節できる。ずっと低い評価をされてきた抑圧からの悪に染まってしまった心。探偵役が犯人に示す温情とレニセンブへの誠実さ。最後のロマンスも含めてクリスティーだなぁと満足。

  • 深堀骨氏による後書きが腹におちた。
    いわくミステリとは人間関係の綾を描くものなのだと。
    そう、そうなのよ、だから私は皆がくさそうとも、キャラの造形と配置が見事な『検視官』シリーズをいまだ愛読してるし(新刊出るんかいな…)、ディーヴァーといえど人が魅力に乏しい『エンドゲーム』はピンと来なかったのよ(いえ、ライムのシリーズなどは心から愛してます)!
    古代エジプトの裕福な一家で起きる連続殺人事件を追う本作は、しょーじき、こう、サンドラ・ブラウンとか、ハーレクイン的なロマンチックミステリー仕立てなんだけど、妙に心を打つのは、さらりとした筆致ながら人々の欲望と愛情の描写がお見事だから。少女漫画にもありそうじゃん!って話だけど、重くも希望を感じされる読後感は、やっぱり天才の技だなあ

  • 古代エジプトが舞台になっているが、時代はいつでもよくエジプトである必要は無さそう。

  • 古代エジプトを部隊にしたお話。
    数ヶ月に渡る長い期間の話が描かれているのが特徴。とは言え、その長い期間における人間の間の機微が事件に関わってくる的な点話で、要はいつものクリスティ。
    事件が開始すぐに起こらないのは、前作「ゼロ時間へ」と似ているとも感じた。

  • 死ななかった時点で犯人はわかったので、あとは、ほんとにカメニと結婚するの?ホリがいいよホリが!とレニセンブの結婚が気になってしょうがなかった。
    ホリでよかったけど、カメニかわいそう。でもすぐ誰か見つかるかな。

  • 古代エジプトの一家の生活の様子が面白い。
    家庭が崩壊していく様子が面白い。
    犯人の内情が面白い。

  • 舞台が古代エジプトになっているが、中身はいつものクリスティのミステリ。
    ミステリの謎解きに加え、タイトル「死が最後にやってくる(原題Death comes as the end)」が、最後の一行「言い換えれば―もう死はないということ」と対応するのが面白い仕掛け。

    「どうしてこの腐敗が、あなたの言うように、内側から起こってくるの?」「(中略)たぶんなんであれ成長していくものなのでしょうね―つまり人が少しずつやさしく、賢く、より偉大な方向へ成長していかない場合、逆に邪悪なものを育てることになってしまうのかもしれません(p408)」

  • 神や悪霊や祈祷が日常にある古代エジプトの神秘的な世界で、徐々に顕になる本格ミステリの顔、ぞくぞくする。面白かった。

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