- Amazon.co.jp ・本 (431ページ)
- / ISBN・EAN: 9784151300929
感想・レビュー・書評
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ノンシリーズ。以前ドラマで見たから知ってるけど‥と思い読んだら、犯人が違う‼︎と驚きの結末。犯人が違うから当然動機も違う。どちらかと言えばドラマ版の方が好きな結末。解説の濱中利信さん言うように「愛すべき失敗作」ゆえに忘れ難い話。
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友人に勧められて読んでみました。
登場人物の心理描写が巧みに表現され引き込まれる作品でした。人に与えすぎる事が時として人の自由を奪うことにもなるという作者の痛烈なメッセージも感じられました。 -
老婦人が殺され、養子のジャッコが犯人として獄中死してから2年、突然彼のアリバイを証明する男が家族のもとを訪れる。しかし、家族の反応は意外なものだった。
クリスティ作品によくある「過去の殺人」ものである。ただ、『五匹の子豚』や『象は忘れない』などでは、犯人とされてきた人物を慕い、犯人ではなかったらいいのに、と考えてくれる登場人物が一人はいたが、ジャッコにはそういった人は皆無である。彼が根っからの悪党であるうえに、殺された状況から、屋敷にいた家族と使用人以外に犯人が考えられないため、ジャッコが逮捕されて皆ほっとしていたのである。
この話には探偵役がいない。ジャッコのアリバイを証言するキャルガリが最後に謎を解くものの、出番はあまりなく、終盤に至るまで推理の過程はほとんど明かされない。物語は登場人物たちの秘められた心のうちを中心に描かれ、少しずつ新たな情報が明らかになることで真相に近づいていくしかけとなっている。
これを推理小説として読むと物足りなさを感じるかもしれない。しかし犯人が分からないまま疑心暗鬼になり、びくびくしながら暮らす彼らの様子は緊張感にあふれ、読む者を飽きさせない。良質なサスペンスとして楽しめる作品である。 -
無実はさいなむ
女性資産家の殺人事件。逮捕されたのは養子の息子(ジャッコ)。息子は獄中で半年後に亡くなり、しかしアリバイを主張していたが、確認されなかった。二年後、事件の起きたアジール家にキャルガリという学者が訪れる。彼は二年前の事件当日、屋敷から離れた場所で逮捕されたジャッコを車に乗せた事実を伝えにやってきた。
事件当時は交通事故に巻き込まれ、その後僻地での仕事の為、彼が逮捕されたことを知らず。せめて死後であっても彼が犯人ではないという事実を明らかにする為にアジール家を訪問する。
殺人の罪で逮捕された無罪の男。彼のアリバイを持ちながら不幸により証言できず、良心の呵責を持つ学者。犯人と思われていた人物の無罪がわかり、動揺するアジール家の人々と関係者。
そして当然、事件は再捜査になり、それを担当する陰気な警視のヒュイッシ。
この作品では主人公と言われる人物がいない為、様々な目線、心情から物語が明かされていく。アジール家の人々は子供達は全員養子で性質も異なり、全員が一癖、二癖もある人物達で、その他主人の秘書やお手伝い、娘婿等人物も豊富で一体どういう性質の事件で女性資産家が殺害されたのかが終盤までわからない。また、アジール家の人々は事件を掘り返す事を拒み、それでいてそれぞれがそれぞれを疑う様な状態になっていく。屋敷全体に不穏な空気が蔓延り、様々な物が崩壊していく手前にある。
当然、二年前の事件で警察が新事実や証拠を押さえる事も難しく、更にはアジール家の人々も非協力的だ。一方、キャルガリも自身の行動によりもたらした結果が更なる不幸の連鎖になる事に責任を感じ、独自に真相を追求する。
作品としてプロットはクリスティの中でも屈指では無いだろうか。現代のミステリーでもこの様な多角的な視点でのミステリーは少ない様に思う。真実を告げたキャルガリ学者目線、再捜査により何としても事実を明らかにしたいヒュイッシ警視目線、そして養子の婿であり屋敷に留まり事件の究明に好奇心を燃やすフィリップ目線が主な視点だが、その他登場人物達の目線から語られる章も沢山あり、かつ養子姉弟という関係性を考慮しながら進行する為、少し複雑になっている(探偵や語り手が固定されていない為、その部分が不満の人もいる様だ。しかし想像してみると多角的な視点から物語の本質へフォーカスされていく様子はとても見事でドラマチックだ)。
残念な事は、最後結末(犯人が判明してからエピローグに至るまで)がまるで手抜きの作文みたいに一瞬で終わってしまう事だ。犯人を究明するパート迄至高の流れだったのにいきなりトーンダウンどころかクリスティがどこかへ行ってしまったかの様だ。実はもっと話を長くした方が重厚感や様々な人間模様が見れるし(絶望感、愛情、信念、守秘、悪意、憎悪の全てがあるはずの作品なんだ)最後の陳腐なメロドラマオチも丁寧にまとめれば傑作の一つだったのではと思う。
しかしそれでも星は5なんだ(笑)。設定、犯人の意外性、動機、悪意。これだけでもこの小説が充分に面白いと思ってしまう!! -
NHKで同名の海外ドラマとして放送された作品の原作。
殺人事件というのは往々にして、エゴイズムの塊であるが、本書はそんなエゴイズムが、悲劇を巻き起こす。
資産家の女性、レイチェルが殺された。
殺人犯とされるのは、彼女の養子である、今は亡きジャッコ。
なんと、「おまえはもう死んでいる」状態の設定。
話、終わりじゃん。
しかし、第三者であり、本作の探偵役のアーサー・キャルガリが現れたことで、事件が蒸し返され、改めて真犯人探しが始まる。
解説にもあるが、めでたし、な終わり方は妙な唐突感があるし、真犯人が判明するのも、なんとなく取ってつけた、感はある。
その意味では、ドラマ版の方が、私は鮮やかで面白かったと思うし、登場人物たちの育ちの背景や心情が補足されていて、面白かった。
ただ、そちらを先に見ていたからこそ、本作が分かり易かったし、読みたいと思ったきっかけであるので、優劣をつけるつもりはない。
登場人物たちにあまり感情移入ができなかったが、自分勝手さは誰もが持つ心の動きであろう。
母親との関係も、よく問題になる。
愛したのに、その愛は帰ってこないし、良かれと思っても疎まれる。
愛は自己満足に過ぎない。
それでも、愛を持って解決したのは、著者の心のうちに、愛を信じたい気持ちがあったからではないか。
何とも陳腐な憶測ではあるけれど、私も、それでも愛を信じたいと思う。 -
慈善家の婦人が殺され、評判の悪い養子・ジャッコが逮捕された。彼はアリバイを主張するも有罪、獄中で病死した。それから二年後、外国帰りの男がジャッコの冤罪を告げるために遺族の屋敷を訪れるが──。
ご家族は冤罪でしたよ!と伝えて、これほど冷淡に扱われるとは思わないよね(笑) 事故で記憶障害になり、その後は仕事で国を離れていた地理学者のキャルガリ。アリバイを証明できていれば、ジャッコは無罪となり獄中死もなかったという責任感から伝えた事実は、皮肉にも事件の闇を蒸し返す結果になる。
巻末にある書評家・濱中氏の指摘通り、ミステリとしては粗さが目立つ作品。ただ、それ以上に人間の弱さをこれでもかと抉り出す筆致に魅せられる。慈善家・レイチェルの行き過ぎた母性愛と、それを受けた養子たちの心の傷は、普遍的なテーマでもある。ミステリの緊張感を維持しながら、心理も巧みに描くのはさすが。同じくノンシリーズの『春にして君を離れ』『終りなき夜に生れつく』『ねじれた家』あたりが好きな方にオススメしたい。
過保護で正義を振りかざす母から解放された子どもたち。彼らが欲しかったのは正しさや裕福な暮らしではなく、素朴な愛情と人間としての尊重だった。この親子関係は自分にも通じる話で胸が苦しくなるほど。そんな彼らが母の気持ちを少しずつ噛み砕いて進んでいくシーンも読み応えあった。ラストは突然の赤川次郎先生的なエンタメ感が出るも、これくらいサッパリした方がちょうどいい。冤罪だから問題なんです!っていう目の付け所も面白かった。
p.131,132
「昔の中国人は、慈善は美徳ではなくて罪であると考えていたそうじゃないですか。そこですよ、問題は。慈善というものは、たしかにひとのためになる。と同時に、ひとにいろんな気まずい思いをさせる。人間の心というのは複雑なものでね。ひとに親切にしてやれば、親切にしたほうの人間は結構いい気持ちでいる。しかし親切にされたほうの人間は、はたして相手にいい感情を抱くだろうか。感謝すべきことはもちろんだが、はたして実際に感謝するだろうか」
p.133
「子供は可愛がられすぎた。夫人が子供らに与えなかったもの、そして子供らにほんとに必要だったものは、ごく自然な、悪意のない放任ということだったんだな」
p.135
「ところで子供がグレた場合、たいていの両親の言うセリフはきまってる。“ちいさいときに、もうすこしきびしくしつければよかった”か、さもなくば、“きびしくしすぎた、もうすこし可愛がればよかった”ですよ。わしに言わせれば、これはどっちもおなじことで、子供がグレるのは要するに家庭が不幸であって、子供自身が愛されていないと感じる場合なんだ」
p.264
「もう憎む相手がいなくなったのね。だから、急に淋しくなったんでしょう? でも、あなたは憎しみなしで生活することを学ばなきゃいけないわ、ミッキー」
p.377
「これを捧げます、お母さん。ぼくはわるい息子でしたが、あなたも賢い母親じゃなかった。しかし、あなたの善意はよく分かっています」 -
久々に再読。途中まで読んだら犯人と動機を思い出した。
資産家の義母を殺害したとして逮捕されたジャッコは、無実を主張したがかなわず獄中で死亡した。その後、ジャッコのアリバイを証明する人物が現れたことで事件は振り出しに。彼が犯人でなければ誰なのか‥
ジャッコの冤罪が証明されたことで家族が疑心暗鬼になっていく描写がうまいのはさすがクリステイ。ノンシリーズでミステリというより登場人物の心情が読みどころだが、個人的にはこういうのも好き。 -
あまり楽しめなかった。ミステリーは人間ドラマを楽しむタイプだが、キャラクター描写が一面的すぎるし、往々にして偏見や差別(時代背景があるとはいえ)が隠せない視線を感じる。ミステリーの種明かしにも小気味良さはない。
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母親を殺したのでは末の養子ではなかった。
では、夫、秘書、使用人、養子養女たち、のうち、
だれが殺したのか?
という、ショッキングな状況のわりに、
淡々と進む印象を受けました。
三人称視点で書かれていますが、
人物の心情描写が薄いからでしょうか。
でも、人物の心情描写を詳しく書くと、
誰が犯人かがすぐ分かってしまいますね(笑)
なお、実行犯はトリックのためだけに創造されたということを、
あからさまに感じさせるのがクリスティの怖いところ。
そうですそうです!安宿でしばらく泊まってる主婦の回想みたいなお話です。「私の人生は間違ってない。何...
そうですそうです!安宿でしばらく泊まってる主婦の回想みたいなお話です。「私の人生は間違ってない。何もかも上手くやってきている。」と言いつつ、よく読むとそう思ってるのは本人だけなのでは?という。
「無実はさいなむ」の殺された継母も自分のやってる事は正しいと思い家族を支配してるので、「春にして〜」の人と同じだなあと。何回もそういう人を出すのはアガサ・クリスティー自身もそういう目にあったのかもですね。
似た感じの人けっこう出てきますよね。それで私わからなくなる事があります。前、こういう人出てたよね。何で出て...
似た感じの人けっこう出てきますよね。それで私わからなくなる事があります。前、こういう人出てたよね。何で出てたかな?みたいになります。
「春にして君を離れ」は自分の経験した事を小説にしたんだと思います。
似た感じの人、たしかにいろいろ出てきますよね。私も記憶が曖昧です(*´-`)
自分の経験した嫌なことでも小説にしてしまい高く評...
似た感じの人、たしかにいろいろ出てきますよね。私も記憶が曖昧です(*´-`)
自分の経験した嫌なことでも小説にしてしまい高く評価されるなんて、何だかすごい人だなぁと思います♪