哀惜 (ハヤカワ・ミステリ文庫 HMク 25-1)

  • 早川書房
4.04
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感想 : 39
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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151853012

作品紹介・あらすじ

海岸で発見された男性の死体。彼の死に隠された真相とは? 小さな町に起きた奇妙で複雑な事件に、刑事マシュー・ヴェンが挑む。

感想・レビュー・書評

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  • ★5 保護や支援が必要な人々の現実と不安… 人間の弱さと脆さを丁寧に描いたミステリー #哀惜

    イギリスの海岸で発生した殺人事件。主人公である刑事マシューと部下たちが、街に住む人々の環境、仕事、関係性から事件解決に導く北欧ミステリー。
    事件の背後関係と関わる人間たちが何重にも厚く絡み合い、ずっしりと重みのある作品になっています。

    人生勉強のためにも体験しておくべき作品なので、興味ある方は是非お時間をとって読んでみてほしいです。

    ■きっと読みたくなるレビュー
    〇事件の背景
    本作においては、どの国、どの地域でも社会課題になっているテーマを描いています。
    ・学習障害のある人
    ・過去の人生において失敗をした人
    ・彼らを支援したり、支えたりする周囲の人々

    セリフや行動が丁寧に書かれていて、彼女たちの生活、不安、純粋な想いがやたらリアルに伝わってくるんです。悲劇に巻き込まれてしまった彼らの運命を読んでいると、胸が詰まって何とも言えなくなってきますね…

    〇警察も人間である
    圧倒的に推したいのは、警察官の同僚ジェン。
    離婚後シングルで子育てをしつつも、重責な殺人事件の現場で解決のために奔走を続ける。いつも叫びたい感情で爆発しそうなのに、決して暴言を吐いたり、人を傷つけたりはせず、じっと目の前の任務をこなしていく。しかも正義や権力を振りかざしたりもせず、公務員の業務を当たり前にこなしているだけ。人ひとりが生きるということがいかに難しいかが伝わってきます。

    そしてなんといっても主人公のマシュー。
    これぞ北欧のミステリーを地でいくキャラクター。
    地味に、ホントに地味にヒタヒタと捜査を進めていく。この粘り強さと実直さがイイんですよ。

    しかも家族の問題や人間的な弱さも垣間見えて、魅力にすっかり引き込まれてしまいました。特に終盤の事件解決に向けて雄々しく立ち向かっていく姿は、めっちゃカッコイイです。

    〇事件の真相
    小さな世界における社会性や価値観の恐ろしさ。
    驚きと悲しさがあふれ出て、読み進めたいと思いながらも、むしろ受け入れたくない真相でした。

    ■きっと共感できる書評
    本書ほど読んでいて悔しくなる作品はない。
    弱い立場とされる保護や支援が必要な人間が、こんなにも強くたくましく生きているのに、本来社会貢献や皆を幸せにできるはずの人間が、なぜこんなに弱く情けないのか。

    はたして現代の日本社会はどうだろうか…
    いまネットを騒がせているやるせない事件がありますが、この事件も本質としては同じです。

    起こってしまった問題について他人事としてスルーしたり、マスコミ報道や周囲の意見をそのまま信じるのではなく、ひとりひとりが自分の責任をもって答えを出していく必要があるのでしょうね。懸命に生きる人々を支援、応援できる人間になりたいものです。

  • 当たり前の話しなんですが、物語が持つ雰囲気みたいなんて、主人公の持つ特性に依存しますよね
    当たり前ですが

    本作の主人公マシューは礼儀正しく落ち着いていて、公平で清々しく凛としている
    そしてまさしく物語はそのように進む

    とてもとても落ち着いてゆったりと進む
    だけどダラダラしてるわけじゃなくてページはすいすい進む
    なんか変な感じ
    ゆっくりだけど澱みがないんよね

    そしてマシューにはジョナサンという彼とは正反対の夫がいるんだけど、彼がいることでさらにマシューの人となりが際立つんだよね
    そう、そしてこれめちゃくちゃさらっと書かれてるんだよね
    最初なんのひっかかりもなくさらっと進行しちゃうの、マシュー(男性)に旦那さんがいるってこと
    これがすごくいいんだよね

    後々周囲からの視点が加わることで、やっぱり差別的な視点に晒されたりするんだけど
    最初めちゃくちゃ当たり前に物語が進行していくのがとても良かった

    そして事件の真相が明らかになるにつれマシューが一転して激しい怒りをあらわにするんだけど、これがまたいいのよ

    魅力的な主人公マシュー・ヴェンと警察小説らしい捜査の過程が楽しめる本作はどうやらシリーズの一作目とのこと

    楽しみなシリーズが増えてしまって困ったちゃん

  • 面白かった!マシューはじめ登場人物達が微かに前シリーズの誰かを感じさせつつも魅力的。字体を変えた心の声も健在。殺人と誘拐というピースが集約して事件が解明されるあたりは本当に圧巻。事件の背景も人間模様も読み応えあった。

    • 111108さん
      ちぃさん♪
      やっぱり!マシューとペレスは雰囲気似てますよね。繊細で内向的なのとこの僻地の事件が相性いいのかなと思いました。
      もう第二弾もある...
      ちぃさん♪
      やっぱり!マシューとペレスは雰囲気似てますよね。繊細で内向的なのとこの僻地の事件が相性いいのかなと思いました。
      もう第二弾もあるのですか?私も予約しないと♪
      2024/02/20
    • ちぃさん
      ごめんなさい…!
      マシューとジミーがごっちゃになってました。
      次に読むのは「空の幻像」です。
      ごめんなさい…!
      マシューとジミーがごっちゃになってました。
      次に読むのは「空の幻像」です。
      2024/02/21
    • 111108さん
      なるほど!
      マシューとジミー混ざりますね笑
      なるほど!
      マシューとジミー混ざりますね笑
      2024/02/21
  • イギリス南西部にある海岸で死体が発見された。
    その日マシューは、父の葬儀を見ているところだった。
    ゆるやかで不思議な感じで読み始める。

    部下からの電話で近くにいたマシューは、死体発見現場に向かう。

    事件捜査も静かに流れていくのだが、これはマシューの警部らしからぬ礼儀正しさと落ち着いた雰囲気からだろうか。

    舞台はウッドヤードという施設で、そこの所長を務めるジョナサンがマシューの夫である。
    さらりとLGBTQであることが描かれているのだが、部下も施設関係者も知っているという普通さにも慣れてくる。

    次々とキャラの濃い特徴のある面々が登場し、事件は複雑なように見えてくる。
    結局殺されたサイモンが薄い存在に思えて、しかも弱者救済のために…と思うとなんともやるせない。

    とても読み応えのあるページ数だったが、細かな描写は無駄がなく真相に繋がっていく道筋になっている。
    はっきりと手応えを感じていくにつれて、意味がわかるという…その少しずつの前進を楽しめた。



  • シェトランドシリーズのアン・クリーヴスの新作。
    もしかして新シリーズになるのかな?
    (本国ではシリーズ3作が刊行されている様子)

    今回も主要な登場人物たちの心の声、ダダ漏れ。
    これによってその人となりが理解できるのがうれしい。
    主役の警部、マシュー・ヴェンは見た目冷静で、できる男な雰囲気なのだけど、内面はナイーブで繊細。
    家族関係に問題を抱えていて、
    同性婚をしているという設定も新鮮。

    今作は事件の真相自体にはさほど目新しさはないものの、描かれるキャラクターがとても魅力的。
    マシューとその部下たち、
    マシューとパートナーのジョナサンとの関係性など、
    まだまだこの先変化していきそうで楽しみ。
    ダウン症の女性たちの描かれ方も胸に迫るものがあり、
    彼女たちの笑顔や仕草が思い浮かび切なくなった。

    • 111108さん
      心の声、ダダ漏れ←本当に‼︎ 雰囲気は前シリーズと同じで読みやすいですよね。好きなキャラもいるので早く次作読みたいです♪
      心の声、ダダ漏れ←本当に‼︎ 雰囲気は前シリーズと同じで読みやすいですよね。好きなキャラもいるので早く次作読みたいです♪
      2024/02/17
    • ちぃさん
      心の声!これが好きか嫌いかで、この本の好き嫌いも分かれるところですね。わたしは馴染んできましたよ。
      舞台が島から本島に移ったせいか、時間の進...
      心の声!これが好きか嫌いかで、この本の好き嫌いも分かれるところですね。わたしは馴染んできましたよ。
      舞台が島から本島に移ったせいか、時間の進み具合も早くなった気がしました。
      お気に入りのキャラクターが誰だか気になります!
      2024/02/17
    • 111108さん
      心の声、私は大好物です!笑
      確かにちょっと時間の進み具合が早くなった気がしますね。

      好きなキャラクターは、名前覚えてないのですがマシューの...
      心の声、私は大好物です!笑
      確かにちょっと時間の進み具合が早くなった気がしますね。

      好きなキャラクターは、名前覚えてないのですがマシューの部下の女性です。事情も現状も全く違いますが、私もこの何年かで家族の状況が変化したのでそういう共感と、できることを頑張ってる姿にエールを送りたいなと思って。サンディの時の母親気分とちょっと似たものありますね。
      2024/02/19
  • 初読みの作家さん。しかも新シリーズらしい。
    登場人物たちの描写、背景が丁寧に書かれていることもあってとても長い小説だった。
    マシューの穏やかさ知的さ、自信のなさや自分を過小評価しすぎるところが、今まで読んできた刑事像と違って、新鮮で好感が持てた。
    次回作が出るなら楽しみです。

  • 刑事マシュー・ヴェン 哀惜のうなり|AXNミステリー ~日本唯一のミステリー専門チャンネル~
    https://www.mystery.co.jp/programs/the_long_call/

    Ann Cleeves
    https://anncleeves.com/

    哀惜 アン・クリーヴス(著/文) - 早川書房 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784151853012

  • イギリス、ノース・デヴォン地方。扉に地図があり、西の大西洋にランディ島がある。初めての舞台の場所。まずこの場所に興味が湧く。新しいキャラクター、マシュー・ヴェン警部が登場する。登場人物一覧を見て、ジョナサン・チャーチ・・マシューの夫と出ている。ん? 男性名だが夫、そうなのだ彼らは正式の夫婦。

    海岸で死体が発見された時、マシューは父の葬儀に立ち会っていた、と始まる。署からの電話で現場に行き部下たちと合流するマシュー。この単刀直入な事件提示がとてもいい。殺された男は最近町にやってきた男で、知的障碍者施設で働いていた。しかもそこはマシューの夫が勤めている施設。さらに利用者が行方不明になり・・ 事件の根底で知的障碍者の存立を問うたのかと感じた。

    また、マシューの両親の宗派はとても敬虔な宗派として描かれ、マシューはそれに反発して家を出ている。キリスト教の宗派、というあまりよくわからない世界が描かれていた。

    トー川という川沿いの町バーンスタブル署の刑事マシュー。家はその河口付近の人家のあまりないところで死体のあったのもその付近のようだ。表紙の絵が文章を著しているようだ。また少し離れたところにランディ島という島があり、観光場所ではあるようだが定住人はいないようだ。この島の存在も初めて知った。


    2019発表
    2023.3.25発行 2023.5.15第2刷 図書館

  • ああ…!
    たまらない読後感だった。
    丁寧に丁寧に解かれた真相はとても醜いものだったけれど、その汚いものに塗り潰されない光があちこちにあって、希望の火がこちらの胸にも灯るようなラスト。
    警察ものは、中心となる警察チームにどうにも我慢できないようなキャラクターがいることが割に多くて、そうなると読むのがストレスになってしまうのだけど(まあ現実にはそれよりたくさん、もっと酷いことがあるかもしれないけれどもそれはさておき)、今作はそのストレスがほぼないのもとても良かった。
    いや途中まではイラッとしてたのよ、そしたらさ、そしたらさああ!!
    その他、周囲の人々も一面的にならず、立体的に描かれていて非常に良かった。
    続編の邦訳、待ってます!!

  • アン・クリーヴスの新シリーズ。
    マシュー・ヴェンを主人公とし、装い新たに開幕。

    アン・クリーヴスの小説は決して大立ち回りが多いわけでもなく、とんでもない急展開があるわけでもない(一作だけ例外があるらしいけど笑)。言い方は悪いが、非常に地味な展開が続く。ただ、なぜか定期的に読みたくなる、そんな中毒的な面白さがあると思う。

    今シリーズの舞台はコーンウォールに近いイギリス南西部、ノースデヴォン。相変わらず自然の描写がいい。
    海岸で殺された男。この男が誰なのか調査するところから始まるが調べれば調べるほど、この男の見方が変わる証言が出てきて、読者も翻弄される。この男のキャラクターが見えてくるところが、この小説のターニングポイントか。
    誰が誰に対する“哀惜”なのか、題名も非常に趣深い。

    邦訳が始まったばかりなのでなんとも言えないが、ミステリ度は前シリーズの方が上。ただ熟練されたストーリー展開は遜色ない。主人公のマシューは、一見気弱だが芯には強い信念があり、後半の覚醒パートが良い。
    また楽しみなシリーズになりそうなので、年に1冊出していただければ。。。

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