カブールの燕たち (ハヤカワepi ブック・プラネット)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (182ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152087973

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  • タリバン支配下のアフガニスタンの首都、カブールが舞台。
    賑やかだった都の面影は消え去り、美しいかった街は荒廃しきっている。
    公開処刑が毎日のように行われ、人々の心も荒んでいる。
    女たちは顔を含めて全身を隠すチャドリの着用を義務付けられ、外で働くことはできない。
    男たちとて自由ではない。音楽も娯楽も禁じられ、厳しい戒律を課すタリバンに監視されて、笑うことも楽しむことも許されない。
    食糧も十分ではない街で、人々は恐怖に怯える日々を過ごす。

    2組の夫婦が描き出される。
    一方は、拘置所の看守を務めるアティクと、不治の病に侵されたムサラト。
    もう一方は、ブルジョア階級だったモフセンと、教養がある美貌のズナイラ。
    アティクは、昼は死刑囚の女たちを見張り、家に帰れば死にそうな妻になすすべもなく、息が詰まる毎日を送っている。
    温和な性格だったモフセンは、家を奪われ賎民として暮らす日々に徐々に心を壊されている。無為に街を彷徨っていたある日、群衆の狂乱に乗せられ、公開処刑の女に石を投げつけてしまい、自分でもショックを受ける。彼の唯一の慰めは、家に帰って妻の美しい顔を眺めること。だが、司法官の仕事をタリバンに不当に奪われたズナイラは、身体の内に激しい怒りを秘めていた。

    2組の夫婦の運命が、荒れ果てたカブールで交錯する。
    ズナイラは夫との行き違いから怖ろしい罪を犯す。
    独房でチャドリを脱いだズナイラの姿を見たアティクはその美しさに魂を奪われる。
    夫が恋に落ちたことを知ったムサラトは、夫を救い、美貌の女を助け、自らも自由になるために、1つの提案をする。

    物語はどこか、寓話的な余韻を残す。
    ムサラトの計略は、衝撃的だが名案でもあった。だが、ことは思うようには運ばない。
    残酷な世界の無残な定め。
    けれどもそこにいくばくかの希望と美しさが宿る。

    黒い布に身を包まれた、燕のような女たち。
    彼女らはいつか再び、空を翔べるだろうか。
    青い空を、何ものにも縛られず、思うがままに身を翻し。

    著者のヤスミナ・カドラは女性名だが男性で、アルジェリア出身である。
    アフガニスタン人が自国の物語を書いたのではない点が、この物語をどこか神話的・寓話的にしているのかもしれない。
    だがここに描かれた自由と不自由は、普遍的な重さを持ち、物語をずしりと忘れ得ぬものにする。

  • 中東舞台の作品を読み慣れないのでどんな風景なのだろうと苦労しながら読みました。
    「カブールの燕たち」というタイトルからなんとなく、結ばれない若いカップルの希望に満ち溢れたお話なのかなと考えていたのですが(映画のイメージとあらすじがそれっぽく見えたのかも)、それどころか(一応の)主人公アティクは40代くらい?で、カブールの燕とは黒いチャドリ(ベール)をかぶった女性たちのことを表していた。ここでかなりショックすぎた。
    希望もなく、互いに思いやることも忘れ、姦淫を働いた(それも身勝手な基準だろう)女性たちに石打ちをするのを楽しみにしているような場所で、笑うだけでも警官に詰められるような場所で、他にどんな選択肢があったんだろうとアティクに同情しないことはない。
    が、もしもズナイラが美人でなくアティクの眼鏡にかなわなかったら、ムサラトが献身を思いつかなかったら?ムサラトが逆に泣き喚こうともアティクが一方的に離縁しようと思えばあっさり出来たんだよな、みたいなことをつらつら考えると、ラスト数ページ前までの展開を受け入れられないなと思いながら読み進めておりましたが、とんでもないラストで逆になんとなくスッキリしてしまった。
    もちろん読後感がきれいさっぱりするわけではない。何人、何十人何百人のムサラトとズナイラが殺害されたことに変わりはないので。ズナイラの怒りはもっともすぎる。なぜ男たちはこんな悪法を通しっぱなしにするのかと思うに決まっている。
    確かにズナイラは助けられたからといってアティクの妻になる筋合いはないのですよ。というかむしろ賢く聡い彼女ならばアティクのような独善的で粗暴な男は最高に大嫌いなのではなかろうか?と思うので、美しい燕が一羽だけでも、すぐに他の誰かに捕まるとしても、死の恐怖と心の通わない夫から離れられたのはこの世界の中でかすかな希望に思えてしまった。
    出版するのも怖かっただろう話なんですけども、ならなんで奥さんを矢面に立たせるような発表の仕方したのかしら(ペンネームが奥さんの名前らしいので)、と多少作者に対してもモヤモヤが残ってしまうのは残念。

  • 熱量というのが正しいのか、彼らがいる場所の暑さ、息苦しさが伝わってくるような物語だった。
    誰もが見張られて生きている。
    女性はチャドリの中に個性も主張も収められて生きる。

    そんな中でも愛を見出す人々がいるが、決して報われる思いだけではない。

    正義はどこにあるのか。
    自由はどこにあるのか。

    喜びを禁じられた人たちの物語は、フィクションじゃない。

  • 愛し合うということは、恵まれた環境にいてさえむつかしい。ましてや、困難な状況に置かれたとき、最後に残るのが愛だなんてことが、絶対であるとは言えない。

    ムサラトが終盤に見せる態度がなんとも胸に迫るなあ。

  • アフガニスタン首都カブールに住む二組の夫婦をめぐるストーリー。
    荒廃するタリバンが支配する街で生きていくことで、次第に追い詰められいく様が何とも恐ろしい。

  •  救いのない街カブールで、救いのない夫婦に起こる救いのない事件。最後に浮かび上がる妻ムサラトから看守アティクへの珠玉の愛が、悲惨な結末へと進むエンジンになる。
     ついに山へと入ったナジシュのみが一筋の救いであるという皮肉。精神が錯乱したアティクに訪れた完全な静寂。
     カドラの『テロル』よりひとつ前の作品だけど、そのぶん、登場人物の性格がやや荒削りでカリカチュアっぽい。でもタリバン政権下で残骸と化したカブールの風景描写は詩的で、とても満足。

  • 愛とは何か考えさせられた一冊

  • タリバン支配下のカブール。ふた組の夫婦を交互に描き、後半で交差する。

    男性はあご髭を生やさなくてはならない。女性が外出する時には、チャドリで顔だけでなく、全身を覆わなくてはならない。道端で笑い声を上げてはならない。サッカー、映画、音楽、一切の娯楽は禁止。…公開処刑以外は。

    いきすぎた信仰と暴力に支配され、人々の精神はどのようにして崩壊していくのか。
    本当に怖いのは、支配ではなく、自分を失うことなのだろうか。もしかしたら、自分を失えないことが、不幸なのかもしれない。

    読後は、やり切れない気持ちを持て余すしかない…。
    カブールの現実を、現実離れしてると感じてしまいそうな自分にも。

  • タリバンに支配されたカブールの街に暮らす二組の夫婦の物語。
    それぞれが関係に破綻しかけた悲劇的な状況。一組の男がもう一組の女に恋をし、男の妻の自己犠牲の上に女を救おうとしたけれど…と言った内容。
    女の身代わりに公開処刑になった妻の心がすごいと思う。
    身代わりで助かった女は何も知らずに残りの生を生きるのだと思うとちょっとやり切れない。

    でも何よりも普通に暮らすことの出来ない荒んだカブールの街や人々の様子が一番心に堪えた。
    宗教は人をここまで縛って許されるものなのか、と。

  • かつては愛し合っていた、少なくとも互いにいたわり合っていた二組の夫婦が、絶望的な日常のなかで悲しい結末を迎える。過酷な現実を前にした愛のもろさ、人間のはかなさに胸をつかれる。

  • [ 内容 ]
    タリバンに統治されたアフガニスタンの首都カブールは、まさにこの世の地獄。
    廃墟と化した町では私刑が横行し、人心は荒廃していた。
    拘置所の看守アティクの心もまた荒みきっていた。
    仕事で神経を病み、妻は重い病に冒されている。
    友人は離縁を勧めるが、命の恩人である妻を棄てることは…。
    だがやがて、アティクは夫殺しで死刑を宣告された美しい女囚に一目惚れしてしまう。
    女を救おうと走りまわり、憔悴していくアティクを見て、彼の妻は驚くべき提案をするのだった。
    壮絶なる夫婦愛を描いた衝撃作。

    [ 目次 ]


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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • ものすごく息苦しい世界。女たちのお仕着せの衣装のなかで篭ってしまったため息のよう。女たちはこの現状に鬱屈しながらも夫にやさしい言葉をかけ、励まし続け、決断する。男たちは絶望と戸惑いのなかで他者への配慮に欠け、自分のことで精一杯。小説ではなく新聞の悲惨な記事を国際欄で読んだときに、心は痛むが部外者だなと実感してしまったような、珍しい読後でした。

  • 「テロル」のほうが読み応えがあったし、内容も良かった。物語の展開自体が「テロル」より非現実的だからかも。
    「カブールの燕」は、何より人間の生きる場としてのカブールの過酷さが強烈。描かれている人間のほうは、「テロル」ほどには複雑ではなかったように思うが、「テロル」どうように印象深い面はあった。二組の夫婦どちらも、精一杯ながらすれ違ってしまっていること。カブールという場所で、完全な無気力に陥るのでも、ずるがしこく生き延びるのでもない、無意識に誠実な人間。でもすこし、この本での女性は型に嵌められているようにも感じてしまった。

  • 大変に重く厳しかった。救いは、どこにあるのか・・・アフガニスタン首都カブール。タリバンに蹂躙され、明日の希望のない街。ここに暮らす2組夫婦。希望のない抑圧された日々の中で、夫婦の絆は崩れていく。ある日、囚人看守の仕事をする男の元に、夫殺しで死刑の判決をうけた美しい女囚がおくられる。男はその女囚の美しさに我を忘れて一目惚れして、彼女の命を救うべく走りまわる。男の妻は死の病に罹っていて、男の日々を苦しめる。妻は愛する男のために、信じ難い提案をする。結果は、残念ながら誰も幸せには出来なかった。極限下での心情心理、冷静な決断などとても出来まい。小説ではあるが、現実はこれ以上に厳しいのだろう。なんと言っていいか、自分のおかれている場所、日々の不満、それが何?と思い知らされる。

  • タリバンに支配されてるアフガニスタンの首都のカブールの2組の夫婦の話。

    通りで笑っちゃいけないとか、女の人はチャドラをつけないと外出できないとか、私刑が横行してるとか。
    この国に生きてたら息が詰まるだろうな。
    これが現実に起こってるなんて何だか信じられない。

    最後の場面のやるせなさ、絶望感は相当衝撃的でした。
    愛って怖いね。救われたり、打ちのめされたり。

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