堕天使拷問刑 (ハヤカワ・ミステリワールド)

著者 :
  • 早川書房
3.76
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本棚登録 : 442
感想 : 49
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  • Amazon.co.jp ・本 (475ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152088918

感想・レビュー・書評

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  • 総合評価
     「バカミス」つながりで,その存在を知り,レビューなどの高評価を見て,是非とも読みたいと思っていた作品。新刊は絶版,古本屋でもかなり探したけど見つからなかった。アマゾンで購入するか,図書館で借りて読むかを迷ったが,結局,図書館で借りて読んでしまった。
     期待が高すぎたので,「大満足」とまではいかなかった。作者のサービス精神が旺盛だからだと思うが,明らかに「盛り込み過ぎ」の印象を受ける。主人公の如月タクマがヒトマアマに襲われる描写などは,「悪魔が存在する世界かもしれない」という雰囲気作りのために必要なのかもしれないが,不要な設定のようにも感じた。途中にある「オススメモダンホラー」の紹介の作中作など無駄に力が入っている。王渕家の3人の女性の殺害の犯人が9歳の少女でガラス板を投げると言うトリック。大門大造の密室殺人は大蛇が犯人。大門玲の殺害のアリバイトリックを成立させたのは間秀という坊主が首なし死体を死姦したため。真犯人はデート中に同級生2人を殺害。そしてその犯人は中学生という。姥捨て山という設定。ヒトマアマという人喰いの存在。いやもうお腹いっぱいの詰め込み具合。ヒロイン的存在の根津京香が犯人という点もサプライズだが,そもそもこの作品全体をタクマから美麗へのラブレターにしてしまうという力業。別々に考えていた2つのプロットを1つに詰め込んだ印象まである。大満足とは言えないが満足はできた作品★4で。

    サプライズ ★★★★☆
     最大のサプライズは,2007年の場面で出てくるA先生が江留美麗であるという点。そして「堕天使拷問刑」という如月タクマが書いた手記が如月タクマから江留美麗へのラブレターであり,江留美麗が書き加えて出版するということがその返事であるというトンデモない設定である。これは正直驚く。しかし,この驚きを最大限生かすには本編に当たる如月タクマの手記の部分をもう少しコンパクトにすべきだったと思う。いくらなんでも詰め込み過ぎである。「驚いた・やられた」と感じる以上に,あまりに長く詰め込み過ぎで疲れてしまうのだ。これは綾辻行人の「暗黒館の殺人」を読んだときにも感じた。少なくとも「暗黒館の殺人」のサプライズは綾辻行人のほかの館シリーズより驚けなかった。長すぎたからである。全体の構成は面白いので,もう少しうまくまとまっていれば。惜しい。

    熱中度 ★★★★☆
     猟奇的な設定に,奇妙な町の存在。読者を引っ張ろうというサービス精神をひしひしと感じる。途中で,オススメモダンホラーのエッセイ風の作中作まである。しかし,長すぎるのである。あれこれ詰め込み過ぎである。サービス精神は感じるのだが,さすがに少しダレる。熱中度★5はつけれない。惜しい。

    インパクト ★★★★☆
     大渕家の3人の女性を殺害したのは9歳の少女が投げたガラス板である。すごいバカミス的なトリックである。大門大造の密室殺人のトリックは大蛇に絞殺されたである。おいおい。これもめちゃくちゃなバカトリックである。大門玲の殺人のアリバイトリックを成立させたのは間秀という坊主が首なし死体を死姦したことが原因である。おいおいおい。バカアリバイトリックである。あと二人の殺人は京香がデート中に殺害。いくらなんでもリアリティがない。しかしインパクトは抜群である。そもそも,物語全体の雰囲気も猟奇的。逆さのバベルの塔の大門美術館の存在。町全体にある姥捨て山の風習。あまり意味がないがヒトマアマという人喰いの集団の存在。あまりにインパクトがある設定が多すぎて個々のインパクトが薄れてしまっている。よって★4。何度も書いているが詰め込み過ぎである。

    キャラクター ★★☆☆☆
     主人公のタクマや不二夫などの存在がさっぱり中学生として読めない。出てくる登場人物はいずれも奇妙。やや漫画チックである。リアリティがないせいもあってさっぱり感情移入できない。かなりたくさんの人が死んでいるが人間がさっぱり書けていないのでなんとも感じない。飛鳥部勝則という作者の個性かもしれないが,登場人物にさほど魅力を感じることができなかった。

    読後感 ★★★★☆
     なんというか読後感は悪くないのである。これだけたくさんの分量で猟奇的な殺人事件を描いているにもかかわらず,これをラブレターにしてしまうという強引さ。この点にちて読後感が悪くないのである。この部分がこの作品を単なるバカミスではなく,一部の熱狂的なファンがいる傑作といわれている原因だろう。

    希少価値 ★★★★★
     ネットで購入しようとすると1万6000円~5万円ほどの値段。古本屋では全く売っていない。新刊で再販される可能性は,現時点ではそれほど高くないように思われる。希少価値は★5だろう。

    メモ
    〇 王渕の妻と二人の娘の死の謎
     王渕の妻と二人の娘が,わずか1分程度の時間で,道で首を切られて死亡した事件
    〇 大門大造(主人公の祖父)の死の謎
     大門大造が,密室でねじ切られるようにして死んでいた事件
    〇 老人が少ない街→姥捨て山。
    〇 ツキモノハギの小屋が全焼
    〇 大門松が老人ホームへ行く(失踪)
    〇 江留美麗との出会い
    〇 根津京香が遊びに来る
    〇 大門玲の死の謎
     首を切られた状態で死体で発見
    〇 大門玲の死の推理・捜査
    〇 江留美麗との月についての会話
    〇 大門玲の葬式の日に悪魔の紋章が郵便受けに入る。
    ● 2007年の光景。ある人物の講演
    〇 大門玲殺害の日の夜にグレンとガンと謎の女性が揉み合っているという目撃有り
    〇 敬老の日がない町→学校が休みにならない。
     ※ 姥捨ての風習の伏線
    〇 大門美術館(私設美術館)は昇り崖の跡地にある。この町の臍と言われる。
    〇 文化祭の出し物への落書き事件
    〇 文化祭のお化け屋敷に参加。江留美麗と思われるおばけにだきつく
    〇 大門美術館の見学。受付にはアクという人物がいる。アクは見たままの要素から直接犯人の意図を汲み取るのは危険という。
    〇 タクマは美術館に向かう途中なぞの集団に出会う。
     ※ 後でヒトマアマと分かる。
    〇 大門家の蔵の床の抜け穴の存在を知る。
    〇 タクマがヒトマアマに襲われる。
    〇 遠足でタクマが突き落とされる。江留美麗に助けられ外で一夜を共に過ごす。
     →美麗がタクマが好きだったという伏線
    〇 不二男による「オススメモダンホラー」の紹介
    〇 江留麻夜(美麗の祖母)に会う。
    〇 ツキモノハギの小屋の放火事件の犯人はエ留麻夜だとの告白
    〇 京香とのデート
     →大門美術館。ここで京香は充を殺害
     →京香の家。ここで康子を殺害
    ● 2007年の光景。如月タクマと名乗る男がA 先生に1000枚の手記を渡す約束をする。
     →このA先生が江留美麗だという点がサプライズ
    〇 町中による如月タクマに対するツキモノハギが始まる。
    〇 不二男から大門美術館には秘密のスペースがあるのではないかと聞く。
    〇 体育館脇の倉庫で康子の死体発見
    〇 村山舞がグレンの彼女と分かる。
     →これは見え見えではあるが。
    〇 充の死体が発見される。
    〇 タクマはグレンなどに囲まれるが京香の力で脱出
    〇 玲の葬式の日に悪魔の紋章をポストに入れたのが不二男と分かる。
    〇 秘密の抜け道を使って不二男とタクマが脱出する。
    〇 不二男による謎解き。大渕家の3人と大門大造を殺害したのはアモンという悪魔。玲はアガレスという悪魔。康子がシトリーという悪魔。充はラウムという悪魔。そして天使である江留美麗が犯人というトンデモ推理。ダミーの真相だがこれもあり得ると思わせる世界観を作ろうとしているのか。
    〇 大門美術館に10メートルはある大蛇がいる。
     →この蛇が大門大造を殺害したというのが真相。バカミス
    〇 大門美術館には江留美麗がいた。美麗は本当に天使レミエルなのかと思わせる無茶な展開
    〇 大地震が起こる。大門美術館は崩壊。多数の人間が死ぬ。
    〇 大門美術館には多量の老人の死体があった。町では80歳を過ぎるとかつては昇り崖に,現在は大門美術館に行って自殺することになっていた。大門美術館は姥捨て山だった。
     →これも見え見えではある。
    〇 江留家の仕事は隠し部屋の門番の仕事をしていた家だった。
    〇 タクマによる推理。大門大造を殺害したのは佐賀だという。トリックはエンジンが動く漁船で網を使ったもの。これはエンジンも壊れていたという事実で真実でないとされる。
    〇 アクから大門大造殺害の真相が語られる。大門大造は大蛇に殺されていた。
    〇 アクが仕掛けた罠により間秀がタクマを襲いにくる。しかし,こちらはダミー。真犯人は根津京香
    〇 根津は充を大門美術館で殺害していた。青銅器に水を入れていた。そのことからアクは根津京香を疑った。
    〇 京香はテーブルに康子を括り付け,タクマの目の前で絞殺した。
    〇 京香は玲を殺害した。その後,間秀が玲を死姦したのでアリバイが成立した。
    〇 グレンたちが絡んでいた女性は事件とは無関係
    〇 王渕家の3人を殺害したのも京香。ガラス板を滑り落して殺害した。
    〇 エピローグ
     タクマの美麗への思いが語られる。
    ● 終章(2007年)
     A先生が江留美麗であることが分かる。サプライズ。江留美麗のタクマへの恋心が明かされる。

    〇 如月タクマ
    〇 根津京香
    〇 土岐不二男
    〇 佐賀あきら
    〇 間秀
    〇 木村修一(ガン)
    〇 鳥新康子
    〇 鳥新啓太(教師)
    〇 鳥新法子(→康子の母)
    〇 大門大造
    〇 村山舞(オカルト研)
    〇 大門松(大門大造の妻。失踪)
    〇 大門玲(被害者。首なし死体)
    〇 王渕一也(グレン)
    〇 憂良希明(巡査とよばれる)
    〇 憂良有里
    〇 憂良充
    〇 王渕一馬(町長)
    〇 江留美麗
    〇 影屋(刑事)
    〇 牧野(刑事)
    〇 アク(亜久直人)

  • 本格ミステリ、オカルトホラー、冒険小説、青春小説、不条理劇、そして骨太の読書案内(?)までもが混然一体となった大作。

    序盤から、転校初日に机から蛇が出てきたり、下駄箱に大量のミミズが入っていたり、ツキモノハギで集団リンチが行われたり…といった暗澹とした展開がこれでもかと続く。これを退屈に感じてしまうと本作は楽しめないが、好きな人はめちゃくちゃ好きなはず。主人公が中学生とは思えない落ち着きを持っていたり、なぜか美少女と仲良くなったり、命の危険に晒されているくせに平然としていたり…という非現実感が、架空の村という舞台の虚構性とマッチして、独特の雰囲気を醸し出している。

    第三部以降の超展開と、並行して明かされる「堕天使拷問刑」という壮大な捨て推理、そして最終的な謎解きに至るまで、手を止められずに読み切った。特に大門玲殺しの真相が解明され、それと合わせて明らかになるある場面のインパクトが強烈。というか、変態坊主、やばすぎ。

    ある意味では豪快な力業でまとめあげたような作品だが、オカルト、冒険、恋愛、友情、ミステリと、どこに注目しても面白く、小説という虚構の醍醐味をこれでもかと味あわせてくれる至高の470頁。傑作。

  • 本格ミステリ、ホラー、青春、冒険が渾然一体となった大作。伏線の仕込み方がたまらない。

  • 期待しすぎたのか、面白かったか面白くなかったかよくわからなかった。面白くなりそうな感じはあるんだけど、最終的に和製ホラー映画みたいな内容だなあと思った。

  • 2023/11/14

  • 図書館利用。
    ミステリーと思って読んだが、それ以外の要素が盛りだくさん。読み応えはあったが、もっと削ぎ落とせたのではという気も。
    排他的な田舎が舞台である点、洞窟が舞台装置になっている点等に「八つ墓村」を想起した。作中で一番美人な感じに描写されてる人が犯人なのも同じか。
    トリック?(大蛇が犯人だった、子供が雪の中をガラスを滑らせた、屍姦のせいでの犯行時間誤認等)はなかなか。。

  • 密室で不可解な死に方をした祖父、一瞬のうちに起きた三人の首切りによる死。村の秘密は比較的早めに想像がつきますがホラーを読んでいるようなおどろおどろしさは常につきまといます。中学生とは思えないほど大人びた子供たちの恋愛要素も絡む青春小説であり、殺人事件の解はめちゃくちゃなものではなくちゃんと説明がつくミステリ。さらにラストに仕掛けられたもう一枚は想像していたもののひとつ上を行き、最早楽しむのを超えてその作りに感心しました。好き嫌いのふり幅がとても大きい本だと思いますが、読むことができて本当に良かったです。

  • 閉鎖的な村で転校生の男の子が殺人事件に巻き込まれるホラーミステリー。

    ライトノベル風味のマンク。
    悪魔の設定やいろいろ盛り込みまくりなとこも似てる。
    ただし最後の一行で泣く。

  • 大人になって回想を小説にしたという設定でも、この中学生達は考え方も知識も言葉遣いも中学生レベルではない。不二男のモダンホラー小説に関するエッセー、伏線かと思ったが、そうでもなかった。

  • 中古ですら出回っていないので、仕方なく図書館で借りた。コアなミステリファンの間で評価が高い1冊なのでどうしても読みたかったのだ。閉鎖的な村社会、悪魔召喚、ツキモノイリとツキモノハギ、そして首切り殺人……興味深い要素が盛りだくさんの長編だった。意外性も十分だったし、集団心理の恐ろしさが伝わる場面や、地下道の謎などは面白かった。また、真性の変態坊主・間秀を筆頭に登場人物が揃いも揃って変なのは、狂った村を象徴しているようで良かった。肝心の殺人事件のトリックがイマイチ。「A先生」のパートに確かに驚きはあったが世界が反転するというほどのものでは。期待が大きすぎたのだろうか。

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