- Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152090621
作品紹介・あらすじ
西暦2083年、ニューロロジカル社の共同経営者にして研究者のサマンサ・ウォーカーは、脳内に疑似神経を形成することで経験や感情を直接伝達する言語-ITP(Image Transfer Protocol)を開発していた。ITP使用者が創造性をも兼ね備えることを証明すべく、サマンサはITPテキストによる仮想人格"wanna be"を誕生させ、創造性試験体として小説の執筆に従事させていた。そんな矢先、自らも脳内にITP移植したサマンサは、その検査で余命半年であることが判明する。残された日々を、ITP商品化への障壁である"感覚の平板化"の解決に捧げようとするサマンサ。いっぽう"wanna be"は、徐々に彼女のための物語を語りはじめるが…『円環少女』の人気作家が挑む本格SFの野心作。
感想・レビュー・書評
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余命の限られた中で死に向かってひたすら執拗にあがく物語
死とはなにか人間とはなにか物語とはなにかについて
物語の好かれる配列よりサイエンスフィクション的に追及した様式だが
書きたいように書いているわけではなく
死とは違ってきちんと完結している
何しろSFという狭いジャンルにはいくらでも先駆の読みづらい
なんといってもイーガンが本作から連想される
がいるので
『円環少女』同様の会話文に地の文がのるこの作者文すら可読性は高い
どうしても『円環』の長谷せんせの作という先入観は拭えないが
それでも本格(=マニアは喜ぶがあんま売れない)系を
書ける実力を示したのは大きいのでなかろうかマニア的に -
感想まとまらないからITPテキストで書き出したい…。「あなた」が誰かによって見かたが変わるとこがおもしろかった。
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2084年、NIP(Neuron Interface Protocol)=ナノサイズの微細なロボットを連結して脳内に疑似神経回路を作る技術、及びITP(Image Transfer Protocol)=神経の発火を模倣し、意思や意味を脳内で作り出す言語(他人の知識や経験を移植することができる技術)の開発者の一人、サマンサの研究チームは、量子コンピュータ上に、疑似神経技術を使って仮想の人工神経だけで構成された脳《wanna be》を作り上げた。サマンサは、《wanna be》に小説を書かせて創造性を検証する実験を開始したが、突然余命半年の不治の病に冒されてしまい…。
著者はおそらく、サマンサの自問自答を通して、また肉体を持つ生身の人間とデータ化した仮想人格の意識のせめぎあいを通して、生命とは、意識とは、人格とは、人工知能とは、という哲学的命題を思索をしたかったんじゃないかな。
それにしても、気が強く意固地で反抗心旺盛な研究者サマンサが、不治の病に冒され、激痛に耐えて孤独に研究を続ける姿は痛々し過ぎる。自らの運命を呪い、研究室に籠って《wanna be》に毒を吐き、醜悪な姿を晒して激痛にのたうち回るサマンサの姿を延々と冗長に描写しているのには参った。そして、所々に禅問答のように難解な会話も。
という訳で、評判の書だったが、その面白さはよく分からなかった。
そう言えば、丁度読んだばかりのアーサー・C・クラークの「楽園の泉」が出てきてびっくり。「アーサー王宮廷のヤンキー」や「火星年代記」も登場する。 -
ガジェット重視ではなくヒューマンドラマ志向のSF。技術が進歩した社会を描いてはいるが、どちらかというこの話が着目しているのはずっと変わらないものの方。
無価値であり続ける人の死、ずっと変わらない田舎の暮らし、人間の倫理観。主人公の性格や動機づけが一貫しており、それが死ぬその時まで「自分を曲げられない」ことに繋がっている。科学万能ではない、リアリティを感じさせる作品。 -
肉体を持たず意味と感情で構成された知性にとって、恋をしてひとりであることをやめるとは、個体を失うことと同義だったのだ。恋とみずからの消失とは、《彼》にとっては、今日よりずっと前から結ばれていた。
(P.267) -
サマンサは絶対的な死を前に物わかりよく悟ったりはしない。
恨み、怯え、怒り、あらゆる醜態を晒し続けます。
救いの手を拒み、無垢な愛情を受け入れられず、どこまでも孤独。
ここには『尊厳ある死』などという幻想は存在しません。
一匹の虫の死と変わらない、ひとつの命の終焉です。
サマンサの死からジョブズの死を連想してしまいました。
『灰色』に侵蝕されるとき、カリスマは何を思ったのか。
少し知りたいと思いました。