「電池」で負ければ日本は終わる

著者 :
  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152093042

作品紹介・あらすじ

電気自動車(EV)、スマートグリッドの時代に飛躍的に需要が伸びると予想される高性能「リチウムイオン電池」は日本のオリジナル技術である。日本はこれまで圧倒的な世界シェアを誇ってきたが、とうとう2011年、韓国に世界シェア1位を奪われた。特許出願件数でも中国の台頭が著しく、国際標準化の競争でも出遅れた感が強い-。長年、電池問題を取材してきた著者は、リチウムイオン電池の発明者である吉野彰(旭化成フェロー)、蓄電池製造ベンチャー企業エリーパワー社長の吉田博一、次世代電池開発の国家プロジェクトの責任者、小久見善八・京大特任教授らへの取材を通じて、日本の電池技術の将来を熱く論じる。

感想・レビュー・書評

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  •  著者が元新聞記者のためか、特集記事の延長のような内容。図解や写真は少なく電池を技術的に知ってもらおうというより、プロジェクトXのような開発秘話や業界リポートに主眼を置いている。だから、関係者へのインタビューも「何の衒いもなく、気負いもなく、思いの丈を語り始めた」といったやや大げさな書き出しになっている。読み終えて感じるのは、今後この分野は、国家の「基幹産業」「国防産業」といえるほど重要な地位を占め、各国は世界の覇権を握ろうと、国益をかけた壮絶な戦いを繰り広げるが、日本の見通しは暗く「必敗」の文字が浮かぶ。
     日本の冠たるオリジナル技術も技術者含めどんどん流出し、LIBの世界シェアでは韓国に破れ、肝心の材料も中国に握られ、規格争いでは米中の後塵を拝し、標準化では欧州勢の数の論理で押されている。まさに"「電池」で負けるから日本は終わる"状況。
     読みどころはやはり第5章(V章って何だよw)で語られる、リチウムイオン電池の発明者である吉野の「川中」放棄の「川上-川下一体戦略」。これは電池産業だけでなくあらゆる分野の戦略に生かせる大変刺激的な産業論になっている。

  • なかなか仰々しいタイトルであるが、中身はリチウムイオン電池の現状を冷静に記したという印象が強い。

    太陽電池のように、技術で先行しておきながらビジネスとして負けてしまった例があり、リチウムイオン電池もそのような状況に陥りかけている。そのような状況で、太陽電池などの二の舞にならないためにどうすべきかという戦略が述べられている。

    内容は面白かったが、タイトルと内容の解離があり、星は三つ。

  • 題名ほど悲観的な内容ではない。厳しい戦いだが戦略がしっかりしていれば勝てると言う見立てだ。
    リチウムイオン電池で韓国にシェアが逆転されたとは言え部材は圧倒的に日本製、基本的には現在の主要用途の携帯やPCなどで売り負けているが今後拡大するEVについては自動車産業では譲らないアメリカの方が脅威だとしている。

    乾電池を発明したのは屋井先蔵、エジソンのバッテリーより15年前の1885年だ、知りませんでした。リチウムイオン電池の発明は旭化成の吉野彰、1981年から開発を始め、83年に基本特許を申請している。80年頃ノーベル賞の白川博士が導電性高分子を証明し、石油ショックから機能性プラスチックの開発を目指した旭化成がポリアセチレンの用途開発として電池への適用を思いついた。いろんな偶然(セレンディピティ)が有ったにせよ早い。次いでポリアセチレンの弱点、軽いつまり小さくできないことを克服するために炭素の電極に至る。ちょうどこのとき出会ったのが気相成長法炭素繊維、カーボンナノチューブで旭化成もCFの技術を持っていた。ただし当時の旭化成は多角化を進めていたとは言え電池は素人集団、そこでソニーへのライセンスが始まり91年に商品化された。ここまで僅か10年、凄いです。

    電池で勝つ戦略は何かと言うと部品として売るだけでなく、その電池の用途、使い方などのビジネスモデルを作ってある世界を囲い込むことのようだ。電池を中心とした生態系を作って標準化することで、例えば日産が盛んに進めているEVを家庭用の補助バッテリーとして使うと言う様な考え方である。リーフのバッテリーは満タンだと一般家庭2日分の電源となる。例えば太陽光発電を電池に溜め込むとしてもただそれだけの為にバックアップの電池を準備するとコストが上がるが、エVなどと組み合わせることで合理的なコストにできる可能性があると言うことのようだ。他にも非接触の充電システムなどの周辺技術も必要になる。また既存のガソリン車をEVに改造するベンチャーも生まれだしている。

    こういう生態系で勝つための他のキーとなる製品も実は日本が強い。一つはパワー半導体でもう一つネオジム磁石である。パワー半導体のパワーは電力と言う意味で、三菱電機が圧倒的に強い。例えばエアコンのインバーターと言うのが省エネに大きく寄与しているがこのパワー半導体が無ければ中国企業もエアコンを作れないこの省エネ効果は2010年で500億kW、東京都2年分の消費量に匹敵する。しかも装置を買えば作れる一般の半導体と違い職人の世界なのだそうだ。それでもいずれは追いつかれることを見越して炭化ケイ素と言う新しい材料を使った半導体の開発が進んでいる。

    もう一つのネオジム磁石開発の物語も面白い。富士通の佐川は72年入社後たった一人で磁石の開発に取り組み、78年ネオジム磁石の原型を発明した。しかし当時の富士通は磁石の必要が薄れた次期でそれ以上の開発が中止された。この時反発した佐川に対し上司は報復人事として当時は感触だった特許管理の仕事をまた一人でやらせるのだが、このときの経験が後で生きることになる。佐川は82年転職を決意し当時の住友特殊金属(現日立金属)の社長に直接手紙を書き、次いで直接電話をかけた日に社長につながり、最初の面会日に採用が決まる。82年5月に入社し、6月には磁石の世界記録を達成、8月には基本特許を申請したのだが、その2週間後にGMの研究者が同じくネオジム磁石の特許を申請している。現在のネオジム磁石は必須元素のジスプロシウムが中国にしかなく、首根っこを押さえられているが(日立金属もやむなく中国進出する)この使用量を減らしたり、使わない磁石の開発は着々と進められている。

    リチウムイオン電池に話を戻すとその特許の保護もなかなか強力で、経済的に唯一使えるアルミ部材の特許が有る。全体からごく一部だがこの特許からは誰も逃げられず内緒で使っても物がアルミだけに特許侵害がすぐにばれる。開発者の吉野はこれを関所特許と呼んでいるが非常に強力な特許戦略だ。

    最後に技術者の引き抜き対策をどうするかと言う国としての産業保護政策の不備についても指摘されている。韓国メーカーが引き抜く際の待遇は年収6千万〜1億円で契約金数千万に家付き、車付き、運転手付き、秘書付き・・・。そら考えるわなあ。しかしその韓国が中国からの引き抜きに対し厳しい監視体制を取っていると言う。パッチワークの不正競争防止法ではなくアメリカ並みのスパイ防止法が必要と言う指摘である。

  • 1885 M18 屋井乾電池の発明 屋井先蔵 長岡藩下級武士の家にうまれる 東京物理学校実験所の職工となる

    旭化成 吉野彰 リチウムイオン電池発明 ソニーとクロスライセンス 実用化

    スモール・ハンドレッド 改造EVビジネス 百家堂 ツシマエレクトロニック 淀川製作所 
    すり合わせ型の自動車産業が、キットを組み立てるだけのモジュール型にシフトしていくのは時間の問題

    分散電源 電力供給の余裕のある夜間に電力を電池に変え、昼間のピーク時にそれを電源として使おう
    エリーパワー パワーエリ ベタープレイス

    レアアース ジスプロシウム(広州のみ)、ネオジム(世界)

    インバータ パワー半導体を組み込んだ部品

    韓国は間違いなく日本にキャッチアップしていく。でも彼らは決して新しいものは絶対作らない

    材料電池ーIT機器ーソフトウェアサービス(メンテナンス)一体化

    IAT international application technology 安全な走行性を決定づけるOSの開発

    リチウムイオン電池 三元系(コバルト、ニッケル、マンガン酸リチウム) vs オリビン系(リン酸鉄リチウム)
    オリビン系 エネルギー密度は低いが安全性高い
    エリーパワーはオリビン系にかけている オリビン系 リサイクルしやすい

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。
    通常の配架場所は、3階開架 請求記号:572.12//Ki56

  • リチウムイオン電池のインベンション&ディフュージョン秘話、日本の技術的ポジション、発明者が示唆する技術知財事業の三位一体戦略が詳細に書かれている。記者である筆者の努力の賜物で、かなりの労作だと感じた。『技術力で勝る日本がなぜ事業で負けるのか』と併せて読むといいかもしれません。個人的には楽しく読めたし、勉強になる事もありました。

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著者プロフィール

岸宣仁
1949年埼玉県生まれ。経済ジャーナリスト。東京外国語大学卒業。読売新聞経済部で大蔵省や日本銀行などを担当。財務省のパワハラ上司を相撲の番付風に並べた内部文書「恐竜番付」を発表したことで知られる。『税の攻防――大蔵官僚 四半世紀の戦争』『財務官僚の出世と人事』『同期の人脈研究』『キャリア官僚 採用・人事のからくり』『財務省の「ワル」』など著書多数。

「2023年 『事務次官という謎 霞が関の出世と人事』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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