- Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152094216
作品紹介・あらすじ
亡き父親が秘密の取引をしていた銀行の経営者に会うべく、不正入国してドイツのハンブルクに来たチェチェン人の若者イッサ。だが彼は、国際指名手配中で、いくつもの諜報機関から追われていた!
感想・レビュー・書評
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まず第一に、小なる者が大なる者に押し潰される悲劇という冷戦下でこそ描きやすかった物語を、「テロとの戦い」によって成立させたその手腕に脱帽。むしろこの結末は、テロという共通の敵と戦うはずの仲間内での内ゲバによって起こされたものであり、そんなことしてる場合じゃねえだろという思いがより一層悲劇を強める。強めるものの、いまいちキャラクターに感情移入できなくてまいった。やはり、ル・カレとの年齢差なのだろうか。それともキャラクターを示すシーンがあまりに繊細すぎたのだろうか。
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ジョン・ル・カレのスパイ小説。
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飛び交う銃弾もなければ、手に汗握るカーチェイスも、さらには甘い一夜も出てこない。あるのは、職業にスパイ活動しか選べない人々の嘘であり沈黙、さらにはそれに翻弄される人々の魂や希望である。それらがひたすらページをめくらせる。刊行時と世界情勢は何も変わっていないと思わせるのは、独首相の通話傍受だけではあるまい。95%の白でも5%の灰色を持つ人物を容赦なく引っ捕まえるのは、彼らがみなすテロの脅威の性質上、もはや個人の罪と集団の罪を区別していないからで、最後には100%白の人物でさえ連れ去ってしまうのはそのためだ。
一点ケチをつけるとすれば、バッハマンらドイツ情報部の人間たちが、「もっとも狙われた男」としてイッサに狙いをつけた背景がわかりにくいのだ。おそらく何か裏にあるのだろうと読み進めたが、もしあとがきを最初に読んでいたら、結末まで想像がついて読むのを止めていたかもしれない。 -
登場人物の誰もが、舞台に上がった時からクライマックスの泥沼に足を踏み入れている。組織的な「戦争」の渦中に巻き込まれながら、自身の言動に個人として決断を下す、そういう瞬間の連続でぞくぞくする。
既に映画化が決定しているとのこと。この緊張した空気をどれくらい感じさせてくれるのか。早く観たい!
ちなみに…終盤でバッハマンの表記が一部おかしかったのは原著がそうなのかしら。スペルとしてはありそうな誤記だけども。